電話に出たくない
電話がなっている。
それはもうかなり前からしつこくしつこくなっている。今34コールめ。あ 今35コール。
あー、どうしよっかな。記念すべき40コールめでとろうかな、でも40でべつにキリよくないな、50コールくらいまで待ってみるか。
……………
それにしてもしつこい。
麻婆豆腐にイタリアンドレッシング掛けて甘辛く煮付けたカレイくらいしつこい。
あれ?豆腐じゃなくなってる、まあいいや。
いったい誰がこんな流行らない事務所に電話なんてかけてきているのだろうか?
正体を知りたい気持ちもわいてきたがそれよりもとにかく面倒くさい。
あー今48コールめ。なんだろうこの執念。普通こんだけ鳴らして出なければ留守だろう。
いや居るけどさ実際には。
でも今更出たら面倒くさがって出なかったのモロバレだよな、あでもまてよ、今帰ってきて玄関開けたら電話鳴ってて急いでとった風をよそおえばいいんじゃないか?
あー今49コール。
よし、その作戦でいこう。
リリーン…
「(ハアハア)はい、もしもーし(ハァハァ)ハミングバード相談事務所でーす」
「うん、今ね向かいのビルにいるの。だからね秋君がソファにずっと寝っころがってお菓子食べてたの知ってるしそのソファから手を伸ばせば届く距離にある電話に50コールめにやっと手を伸ばしたのも知ってるの。」
笑みを含んだ楽しそうでいてとても底冷えのする声。
手の平に嫌な汗。
「義姉さん…」
「なあに秋くん?」
「オレが50コール無視しているのをずーっと見ながら義姉さんが何を考えていたのかを考えると寒気がするんだけれど」
「そうね」
義姉さんはそういうとクスクスと楽しそうに笑った。
「あのね、秋くんは秘境とかに興味があるかしら?」
オレの興味のあるなしなどまったく気にしている様子がない調子で義姉さんは話し始めた。
それ以来、オレは電話が鳴るとすぐに出るようにしている。
できるだけ愛想よく。
「はい、お電話ありがとうございます。ハミングバード相談事務所です」
「めっちゃ声が好み!!」
たまに変な電話もくるので要注意だ。