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28 手が早いですわね(セイラ視点)

「しまったな」

「このタイミングでされるとは思わなかったね」

「やられましたわね」

「いいんじゃないの?あんな小娘がどうなろうとしったことじゃないわ」


 講義のない午前中、アレックス様とカール様、そしてエドワード様と一緒に談話室で過ごしていると、カイン様が誰かに強い力を使ったか気を流し込んだ気配がして、その場にいた全員が学舎のある方角を見る。

 昨日の時点でアレックス様がカイン様の邪魔をしたにもかかわらず、こうして気を流し込むという暴行をしているのであれば、ミレーヌ様が望んだか邪魔されない状況になったかのどちらかでしょう。


「カイン様の気を只の娘が受ければ壊れるだけでしょう。セイラの気にすることじゃないわ」

「昨日アレックス様に言われてカイン様のご機嫌を取っておきましたのに、意味がありませんでしたわね」

「ああ、それで昨日の夜中に訓練に呼び出したのね」

「昨夜はお付き合いありがとうございました」


 カイン様は相変わらず中途半端に気を流し込んでくださるので、変に滾ってしまうのが困りものですが、まあその程度でご機嫌が直るのなら安いものですわね。


「ほらセイラ、動いちゃだめよ」

「はい」


 新しく作ったという爪紅をエドワード様に塗られているので、残念ながら動くことができませんわね。

 寒い時期に向かうのに合わせて深く暗い赤銅色。


「結界を張らせる暇もなかったなあ」

「朝からお盛んってな」

「アレックス様、そのお盛んのせいで生徒が一人廃人になったら面倒だとは思いませんの?」

「記録からそっと抹消すればいいだろ。まあ、面倒だが」

「セイラ、あの小娘のことを気にしてるけどそれよりも面倒なことが起きるわよ」

「と、申しますと?」

「あんたが夕べ話してくれた王族の秘密。もし本当ならあの小娘をセイラの代わりに生贄にしてセイラを手元に置く。なんてことを考えてるかもしれないわね」

「まあ!」


 それは面倒ですわね。


「まて、エドワード様は王族の秘密を聞いたのか?正気は大丈夫か?」

「問題ないわ。そもそも私は次期当主として引き取られてるのだから多少は聞かされてるわ」

「ちなみに俺たちが今聞いたら?」

「めまいと動悸はするんじゃないかしら?」

「では聞かないでおきます」

「賢明ね」


 皆様のお話を聞きながら、そこまで衝撃的な内容だったかと思いましたが、私の基準はほかの方と一緒にしてはいけないそうなので、わかりませんわ。

 ちょっと生贄になるだけですのに、秘密にするのはなぜでしょうね?12公爵家のものであればあのぐらいどうということはございませんでしょうに。


「しかしどうするべきか・・・。壊れてなければいいが、期待するだけ無駄だろうし」

「セイラ様のご機嫌取りが無駄になったな。せっかくカール様が目をつぶってたのに」

「そうですわねえ。でもまだ口吸いと胸を直接舐められた程度で」

「まって」

「はい?」

「胸をなめられたって言った?」

「言いましたわ」


 カール様だけではなくエドワード様が止めるなんて珍しいですわね。


「胸と言っても服を剥ぎ取られたわけではありませんし、下の方を少し舐められた程度ですわ」

「節度を持ってといった気がするんだけど?」

「目をつぶってくださったのではありませんの?それに別に大したことでは」

「神々とカイン様を同じに扱っちゃだめよ。半神と神々では違いすぎるのだから」


 真面目な顔のエドワード様に思わず首をかしげてしまう。

 神々と半神である存在が違うものであることは当たり前ですのに、いまさら何を言っているのでしょうか。


「簡単に肌を許すんじゃないわよ」

「簡単に許しているつもりはありませんが」

「エドワード様、君のところのセイラ様はどうにも貞操観念が緩いんだけど?」

「もう私のところのじゃないけど、文句は神々に言ってくれる?昔からこんな感じなのよ」


 カール様とエドワード様のお話を聞くに、どうもやはり私の感覚はおかしいようですわね。

 まあ、支障はありませんけど。


「それよりも皆さま、ミレーヌ様のことをお話合いしたほうがよろしいのではありませんか?」

「まあ、このまま子作りでもされてってなると面倒だな。セイラ様との婚約がなくなるし、半神の子が生まれたのなんて何百年前かわからん。まあ、無事ではすまんだろうな」

「取り上げられて二人が殺される、という結末ですわね。また婚約者探しが始まるのはちょっと面倒ですわ」

「イレギュラーで生まれた半神を使って次を産む、その生贄は個人の感情を無視してより強いものが選ばれるでしょうけど、セイラは除外されるでしょうね。年齢的に」


 確かに、今子供をつくられて生まれたとすれば、その子が適齢期になるころは私は30歳ぐらいでしょうし、生きているかもわかりませんものね。

 王族の秘密の一つではありますけれども、言ってしまったほうが早いのにもどかしいものですわね。

 イルメイダ様に頂いた書物を読むのも危険といいますし、普通はこんな風に当主以外が知る事ではないのでしょうし、仕方がないのでしょうけれど。

 そう考えているうちに爪紅が塗り終わり、ふーっと息を吹きかけられて乾かされる。


「でも、無理にでもその小説の中の出来事を再現してくるのであれば、大規模戦闘も現実になるかもしれないな」

「そうなると、犠牲が増えますわね」

「楽しみだけどセイラに負担がかかるのはよくないわね」


 爪の様子を見ながらエドワード様が言うと、カール様とアレックス様も頷く。

 魔力があっても器が耐えきれないというのはもったいないですわね。神装もあっても使い切れませんし。


「アンデッド系の魔物の襲撃か、完全に吹き飛ばすか浄化か、癒し魔法でなければ致命傷を与えられないのが厄介だな」

「マリオン様が大活躍するな。そんでもって、タガが外れて大暴走・・・笑えない」

「周囲の魔力を食い尽くしたとして、止められるのはそれこそセイラ様ぐらいか」

「マリウス様はどうなの?」

「そのマリウス様の結界を食いつぶしての暴走だからなあ、どうだろうな」

「いやですわねえ、ろくなことがありませんわ」


 しみじみといった言葉に全員が頷き、誰も手を付けずに冷めた飲み物が、それぞれの侍従やメイドによってそっと交換されたタイミングを見計らってカップを手に取り口をつける。

 交換された飲み物は、落ち着きを取り戻すためだろう、ラベンダーとカモミールのブレンドティーだった。

 ほっと息を吐いて、学舎のほうを見ながら本当にカイン様がミレーヌ様に気を流しこみ、子を成すような真似をしているのであれば、少し私とカイン様の間の関係性をイルメイダ様に問わねばならないかもしれませんわね。

 せっかく書物を読んで覚悟を決めましたのに、これでは無駄になってしまうかもしれませんもの。


「・・・飼い殺しなんて冗談じゃありませんわ」


 ぼそりと、自分でも驚くほど暗い声が出たと思った。

 12公爵家の者として、戦えるのに戦わないなどあってはならない。戦えるものは戦うべきなのだから、飼い殺されるなどあってはならない。

 死ぬのならその運命はいくらでも受け入れるけれど、死ぬこともできずになにもできずに生きるなど、冗談ではない。

 もしそうなるようならば、12公爵家の者として戦うしかないでしょうね。

 そう考えていると、感じる視線にふと顔を上げると3人が私の方をじっと見ていた。


「なんでしょうか?」

「いや、久々にセイラ様が怖かっただけだ」

「うん」

「そうね」


 3人の言葉に心外だと眉間にしわを寄せてしまったが、すぐにエドワードに指で突かれてしまう。


「まあそんな怖い顔をしなくても大丈夫よ。私達12公爵家の結束は、王族にもどうにもできないわ」

「はい」


 思わずエディお兄様、と返しそうになって慌てて口をつぐんだ。もうそう呼んではいけないのに、どうして今そう呼んでしまいそうになったのでしょうね。

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