27 此処なら邪魔は入らない(ミレーヌ視点)
「なんでこんな時期にアレックスのイベントが発生すんのよ!」
部屋に戻って手近にあったクッションを思いっきり投げつけて叫ぶ。
確かにあの湖でアレックス様と夕方に出会って、彼の心の悩みを聞くイベントがあったけど、それはもっと早い時期だったはずなのに、どうしてせっかくカイン様とキスできるって時に来るのよ!
イベントの邪魔してくれて、ホントにろくでもないわ!
やっとカイン様を夜まで引っ張りまわせそうだったのに、あんなチャンス早々作れないじゃない。もう口実が思いつかないし、どうしろってのよ!
「夜の小道と湖のイベントを一気にこなそうとしたのが間違いだったの?せっかくでっち上げでカイン様の気を引いてるのに、いつまでも持たないっての!」
そもそも、あたしの中にいる誰かになんで興味を持ってるわけ?カイン様ってそんなキャラだっけ?いじめの時もなんだかんだで傍にいてくれたけど、あれってなんかイヤイヤって感じもしてたのよね。
どうしよう、このままじゃうまくイベントが発生しないし・・・。
色々考えながらぐるぐる部屋の中を歩き回っていると、お腹が鳴る音に夕食を思い出して慌てて支度をして部屋を出る。
まったく、時間にちょっと遅れたらくいっぱぐれるなんて、不便なシステムよね。コンビニでもあればいいのに、異世界って何て不便なの!
夕食を食べるとき、あたしは基本的に一人だ。というか、最近はずっと一人で食べてる。
最初のころは一緒に食べる友達もいたのに、いじめの件以降一人で食べるようになってつまらない。
そこで、ふと気が付いた。
そうよこのことをカイン様に話して、夕食も一緒に食べてもらうようにすればいいんじゃない。そうすれば夜関係のイベントは発生させることができるかもしれないし、カイン様と二人っきりで閉じ込められるイベントも出来るかも!
そもそも、あたしの悩みを聞いて慰めるイベントもこの話をすることでクリアってことになるわよね?やっばい、あたしって頭いいんじゃない?知ってたけどね。
あの時邪魔さえ入らなければキスしようとしてたカイン様なんだし、一人でいることに悩んでるあたしを抱きしめないわけないわよね。
あ、でもそうか。順番が食い違ったからイベントがうまくいかなかったのかも。まずは抱きしめられるイベントよね。もうあたしってばうっかりしてるんだから、困っちゃう。
でもこんなところもあたしのチャームポイントよね、うふふ。
気が付けば足取りは軽くなって、いい気分で食堂に向かって歩いていた。
しばらく歩いて食堂についた瞬間集中する視線に、怯えたように演技をしながら隅っこの席にわざと座って周囲に気を使ってる風にしながら静かに素早く食事をする。
めんどくさいけど可哀そうなあたしを作り上げるには必要よね、マジでめんどくさいけど。
「あの、ミレーヌ様」
「え?」
珍しく話しかける人がいたと思ったら、前は一緒にご飯とかを食べてたお友達にしてやってたやつらじゃない。
「なにかな?」
「最近カイン様とよくご一緒にいるとお伺いしましたわ。以前は事情があったのでしょうが、今もどうしてご一緒なさってるのですか?セイラ様のお邪魔になるのではないのでしょうか?」
「あ、あたしそんなこと考えてっなぃ・・・。あの、皆がっあたしを、その・・・まだ怖くて一緒にいてもらってるだけでっ・・・、どうしてそんなひどいこというんですか?」
いかにも怯えてます、いじめられてますって感じに涙目でこらえるようにつっかえながらいえば・・・。
ほら、周囲の目が集まりだしてきたしあんたに非難の目が向けられてるわよ。ちょうどいいからこのままあたしの役に立ってよね、お友達でしょ。
「あなたも、あの時あたしを無視してっ。・・・皆と一緒にあたしにひどいことしたのに、どうしてっそんなこというんですか」
こらえきれなかった、って感じに涙を流してわざと大きな音を立てて立ち上がってそのまま逃げるように食堂を出ていく。
後片付け?あの女がやればいいじゃない。
ほとんど食べ終わってたし別に残りはどうでもいいし、明日のお昼にカイン様に慰められつつ美味しいものでも食べればいいわ。
それにしてもタイミングよくあの女が出てきてくれたわね。やっぱりあたしって運命に愛されてるんだわ。
セイラが神の寵愛を受けてるとか、一時のことなのよ。世界に愛されてるのはヒロインであるこのあたし!
あはは、あーもう明日が楽しみで仕方ないわ。
食堂から少し離れたところで走るのを止めてゆっくり歩きながら、もっと涙が出るように道に生えてる草をむしって目のあたりにあてておく。
汁が入ったら腫れちゃうかもしれないけど、青臭い匂いだけなら大丈夫。涙を出すにはこれがお手軽なのよね、この世界には目薬なんてないし。あ、いやあったかな?まあ流通はしてないわよね、うん。
予定通り溢れてきた涙を夜も継続させるために幾つか草をむしってポケットにしまっておく。
涙をぼろぼろ流しながら歩いて寮に帰ると、寮監の女が驚いたようにあたしを見て来たけど特に何も声をかけられなかった。
心配の一つぐらいしろっておもうけど、まあいいわ。このこともカイン様にいいつけてやる。
結構目が赤くなったし頬も赤くなってきたけど、もうちょっと赤くして明日の朝に化粧じゃ誤魔化しきれないぐらいにしておかないとね。
泣いた跡の眼が腫れた顔はかわいくないけど、そのぐらいにしないとカイン様が信用してくれなさそうだもん。
ポケットに入れておいた草をさらに目元にあてて涙を流しておいて、草は窓の外に捨てて証拠隠滅完了。
「はあ、目元はちょっと痛いけど泣きすぎたかな?まあいいか」
そのままの状態は流石につらいから、水で濡らしたタオルを目元にあてて寝ようっと。
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翌朝、予定通りちょうどいい感じに腫れた目元ににやりと笑って、誤魔化してますといった感じに化粧をして、でも誤魔化しきれませんでしたって感じに調整をしておく。
そんな顔で朝食を食べに行ったから、皆注目してくるし昨日の女も居心地が悪そうにしてすぐにいなくなった。
それは授業でも同じ、でもやっぱり誰も声をかけてこないし、周囲で遠巻きに見てくるだけ。
ホントに都合がいい奴ら。
「あれ?ミレーヌどうしたの、その目」
「カイン様・・・、これはそのっ・・・ちょっと」
案の定同じ講義を受けるときにカイン様が気になったと言わんばかりに、目を丸くして手を伸ばして目元に触れてくる。
「泣いたの?」
「違うんです!みんなは悪くないんです、私が・・・その」
「みんなって?またいじめでもあった?」
「そんなことないです・・・。ただちょっとひどいことを言われてしまったり、無視されて・・・でもっきっとあたしがちゃんとしてないからっ」
言いながら少しずつ俯いて、ちょっとずつカイン様の手にすり寄る様にして近づいていく。
健気でかわいそうなあたしに同情しちゃうでしょ?
「そうなんだ」
「はい」
ってそれだけ?もっとなんかあるでしょ!何だったらこの場で抱きしめなさいよ!
「あの、カイン様」
「なに?講義にそろそろ行かないと遅れるよ」
「ちょっとだけ一緒にいてくれませんか?あたし、一人で寂しくって、怖くてっ」
ったく、なんでまた涙を浮かべなくちゃいけないのよ。イベントの為とはいえまた目が腫れるじゃない。
「いいけど、講義はどうするの?サボるつもりなの?」
「少しだけでいいんです」
サボるつもりだけどね、今はここからカイン様と二人っきりで離れたってみんなに見せつけることが必要なのよ!
「まあいいけど」
「じゃあ、その・・・、ちょっと向こうに行きませんか?」
そう言って人気のない倉庫の方に誘導する。あそこは一晩閉じ込められる場所なのよね。
一晩ってのは難しいかもしれないけど、授業の間ぐらい閉じ込められればイベント完了よね。
「ここなら、人がいないから・・・あっ」
あっさりとついてきたカイン様に偶然と装って抱き着くとしっかり抱きしめられた。やっぱりカイン様も男よね。
「ごめんなさい。でも、こうしてると安心できるかも・・・」
「そうなんだ?」
「はい」
胸を押し付けるように抱き着いて、ちょっとずつ倉庫のドアに押しかかる様にしてタイミングを計りながら手を伸ばす。
「カイン様、私・・・。皆に避けられてて寂しくって、でもカイン様がいてくれるから、私・・・」
「ミレーヌ、それはっな!?」
「きゃあ!!」
カイン様の気がそれた瞬間を狙って扉を開けて、二人で倒れこむ様に倉庫の中に入った瞬間足で扉を閉める。
暗い部屋の中で慌てたように立ち上がって扉をガチャガチャと鳴らして「開かない!どうして!」と叫びながら鍵をかける。
緩くなったドアノブの感触を感じて声を震わせてカイン様のほうを向いて「開きません」と言えば、ほらイベント通りにカイン様がドアノブをガチャガチャさせて。
「あっ」
「え?・・・あ」
ガチャンと音を立ててはずれたドアノブに、暗がりの中で口元を押さえながらにんまりと笑う。
これでイベント通りじゃない。
「ど、どうしましょう」
「まいったな」
カイン様がそう言ってドアノブを床に置いてあたしの方に近寄ってくる。
「ごめん、はずれちゃった」
「違います!あたしがさっき変に動かしたから」
わざとだけどね。
近づいてきたカイン様に暗い中でわからないっていう感じに強めに抱き着く。そろそろ目が慣れてくるころだし、ってわざと胸元の緩めやすいドレスにしてるのよ。
「カイン様、どうしましょう?」
「まあすぐに助けが来るよ。それよりもミレーヌの話を聞くよ。まだ無視とかされてるんだっけ?」
「はい・・・。でもあの件からちょっとあたしが人が怖くって」
「ふーん」
「でもカイン様は違います!こうしてると安心します」
目が慣れてきたかな。抱き着いたまま胸元のボタンをはずして谷間が見えるようにして不安そうな顔でカイン様を見つめる。
「傍にいてください。カイン様がいないと、あたし怖くて」
「時間が合えばね」
「はい」
カイン様の視線が胸元にいってるのを見て、そっとその手を取って胸に押し付ける。
「こんなに心臓がドキドキしてるんです」
「よくわかんないけど?」
「じゃあ・・・・・・これならわかりますか?」
「まあ流石にわかるけど」
さらにボタンをはずして完全に見える谷間に押し付ければ、言いづらそうに、でも胸をじっと見てくるカイン様にうつむいたまま笑って、顔を上げた時は恥ずかしそうな顔をしておく。
「カイン様・・・」
そっと顔を近づけて目を閉じる。
「カイン様、あたしカイン様が好きなんです。キスされたいのもカイン様だけなんです」
「そう」
顎を掴まれて顔が近づく気配がして、唇が合わさった瞬間、脳みそがバチリとショートした。