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20 裁決の決まっている裁判(セイラ視点)

 他国からの留学生用の寮の大きな談話室に、12公爵家の子女と、この国の王子であるカイン様。そしてケーテ様とフロレーテ様をはじめとする、ケーテ様の階段からの落下事件、ならびにミレーヌ様への悪質な行為の関係者と思われる人が集められている。

 もちろん、ミレーヌ様本人もカール様の横に座り参加している。


 これは事実の確認を含めた、裁判だ。






「まず、ケーテ様は意識が戻ってよかった。フロレーテ様が国への連絡は不要って言ってたからしなかったんだけど、もう少し眠ってたら流石にしてたかな」

「お気遣いありがとうございます。けれどもフロレーテ様のおっしゃるように、国への連絡は不要ですわ」

「うん。じゃあ、ちょっと大げさになっちゃってるけどはじめるね」


 そう言ってカイン様は私が渡した資料を読むふりをしてまずフロレーテ様に視線を送る。


「フロレーテ様、貴方はケーテ様が落ちたのは自分のせいだと証言しているそうだけど、間違いはない?」

「はい。私との言い争いが原因でケーテ様は私の部屋を飛び出し、そのまま走った勢いで階段から落ちたと予測できます」

「貴方が突き落としたのではという疑惑があるけど?」

「そのようなことは一切しておりません」

「証人は?」


 その言葉に数人の令嬢が手を上げる。


「妾が証言しよう。ケーテ様の悲鳴の直後に部屋のドアを開けたところ、部屋のドアを開けて階段のほうに走っていくフロレーテ様の姿を見ておる」

「私も証言するヨ。ケーテ様の悲鳴の後に様子を見ようと私の部屋のドアを開けたら階段のほうに走っていくフロレーテ様にぶつかりそうになったヨ」


 他にも他国からの留学生の令嬢が二人ほど悲鳴の後に階段へかけていくフロレーテ様の姿を見たと証言する。

 一方、突き落とした場面を見た人は一人もおらず、一階下、つまりは落ちた階にいた人が駆け付けた時に顔を青ざめさせたフロレーテ様が一人いたのを見た、という状況証拠のみ。


「間接的な原因かもしれないけど、フロレーテ様は無実。異論があるなら今のうちに言ってね」


 しばらく待つが誰も挙手も意見もないようで、カイン様はまた別の書類の束を私から受けとって眺めるふりをした後に、ケーテ様に視線を向ける。

 フロレーテ様の無実が確定したのが嬉しいのか、ほっと安心したように笑みを浮かべている。その様子だけをみれば、本当にフロレーテ様を慕っていると思えるものだった。


「じゃあ、議題を変えるよ。ここ数か月、ミレーヌに行われていた悪質な嫌がらせについてだ」


 その言葉を聞いた瞬間、ミレーヌ様はあからさまに顔色を悪くし、怯えたように私を見てくる。


「ケーテ様。単刀直入に聞くよ、主犯は貴方かな?」


 カイン様の言葉に大きく目を見開き、信じられないと言わんばかりに胸の前で手をきつく握りしめ、ケーテ様は顔色を悪くしながら首を振る。


「私は悪質な嫌がらせなどしておりません」

「指示を出したことは?」

「そのような嫌がらせの指示などだすはずもありません!」


 なるほど、涙を浮かべるその姿は真摯で、何も知らない人が見れば無実だと言い出すかもしれない。

 けれども残念なことに、確証もなくこんなことを言うわけがない。


「カイン様、代わらせていただいてもよろしいでしょうか?」

「いいよー」

「ありがとうございます」


 カイン様にお辞儀をしてから改めてケーテ様を見る。

 目に涙をにじませ、無実を訴える真摯な姿にため息が出そうになったものの、一瞬だけ目を伏せてまっすぐにケーテ様を見る。


「ケーテ様、正直にお答えください。ミレーヌ様へ何かするように指示をだしましたね?」

「………はい」

「実行犯を守るため、アリバイの証言をさせたり、実行するための計画立案を行いましたね?」

「はい」

「それは学習用品の破損、故意による衝突、植木鉢を落とす、食事に生物を混ぜ込むということで間違いありませんね」

「……はい」

「あんたがっ!あんたがあんなことしたっての!?ふざけないで!」


 ケーテ様の肯定にミレーヌ様が思わず椅子から立ち上がり、叫びながらケーテ様のほうへ行こうとしましたが、カール様がその腕を掴んで押さえたためそれ以上進めず、ただそこで口汚く罵利を続けていらっしゃいます。


「ミレーヌ様、お静かに」

「はあ!?なに関係ないって顔してるの?あんたがその女に命令したんでしょ?仲良かったもんね、そうなんでしょ!」

「違います!」


 ミレーヌ様が私も関わっているのだと訴え始めたところで、ケーテ様が立ち上がって叫ぶ。


「私がしたことです。セイラ様は関係ありません!私が勝手にしたことなんです!」

「そうですわね。私はケーテ様に何もお願いいておりませんわ。では、どうしてケーテ様はそのようなことをなさったのかしら?」

「それは…ミレーヌ様がカイン様に分を弁えずに纏わりつくからです」


 そういってミレーヌ様を見るケーテ様の目に浮かぶ侮蔑の色を見る限り、動機としては真実なのでしょうね。


「えー?僕に?僕そんなにケーテ様に好かれてたっけ?むしろ嫌われてると思ってたんだけどねー」

「っ…嫌うなど、そのようなことはございません」

「でも好きじゃないよねー」

「……」


 カイン様の言葉にケーテ様は何も言えずにうつむくことで答える。


「カイン様にミレーヌ様がまとわりつくことで、私が心を痛めると思っていた。これに相違はございますか?」


 この言葉にはっと顔を上げ、数瞬視線を巡らせた後に、今度ははっきりとこくりと頷く。


「動機は、私の心を痛める。これはケーテ様たちが勝手に思い込んでいることですが。その原因であるミレーヌ様を排除もしくは分を弁えるよう警告した、ということで間違いはないでしょうか?」

「はい……」


 すでに集めている証言と相違ないことを確認できたため頷く。


「では、証言をしていただけますか。メンヒジル様」

「はい」


 私の言葉に立ち上がったのは、ケーテ様と仲良くしている同じく私に好意を向けているメンヒジル様。妹の名前が呼ばれたことで、姉のヌルガ様が大きく目を開けたが、何も言わず静かにメンヒジル様を見守っている。


「このたびわちきが証言をいたしますんは、ケーテはんにミレーヌはんへの警告に参加しないかと誘われたからでありんす。お食事に生き物を混入させられて以降、ミレーヌはんはカインはんをお部屋に招き入れはるなど、あまりに目に余る行動をしはってるいうことで、今度はもっとわかりやすう警告文を出したうえで、さらに強い警告をするというものでありんした。下手をすれば命にかかわる可能性もありんしたので、その警告にわちきが参加するわけもなく、ケーテはんにももうやめよしと進言したでありんすが、……セイラはんの為だといわはってやめるご様子があらしまへんかて、12公爵家の方に訴状をしたためたしだいにありんす」

「ありがとうございます。お座りになってください」

「はい」


 実際、私が出かけている間に寮にきちんとメンヒジル様の署名付きで訴状が届いている。

 ここでポイントなのが、私の為、としていること。

 視線をケーテ様に戻す。口止めしていたのを裏切られたというのに、ケーテ様の表情には慈愛の笑みすら浮かんでいる。


「さて、ケーテ様」

「はい」

「勝手に私の心を慮って、私に何の確認もせずに勝手に行動してミレーヌ様の心身を害するなど、ウアマティ王弟息女であっても許されるものではありませんわ」

「そうですわね」

「このことについて、フロレーテ様からは我が国に処罰を一任する。と承諾を得ております」


 国際問題にもなりかねない問題だからこそ、フロレーテ様は今のうちになるべく被害を抑える形で事を収める必要がある。


「貴方のお仲間にはすでにしかるべき罰を課して、反省房にて一週間から一か月の謹慎を言い渡してあります」

「…つまり、これはすでに確定している罪を確認するだけの場なのですね」

「ええ、ごめんなさい。貴方が眠っている間に、貴方への確認以外はすべて終わってるんです」

「そうですか」


 そういって慈悲深い笑みを浮かべたまま、ケーテ様は深くため息をついて。


「どんな罰でもお受けいたします。……セイラ様」

「はい」

「………タ、スケ…テ」


 笑みを浮かべたまま、ケーテ様はそう言って涙を流し、すべての表情を消す。


「ナカニ、……イル、ノ。ワタ…シジャ……ナイ、ヒトガ」


 まるで糸の切れた糸繰人形のように、プツリと床に崩れ落ちるケーテ様にフロレーテ様が立ち上がり駆け寄ろうと足を進めた瞬間、ギョロリ、とケーテ様の血走った目がその姿を捉える。


「ケーテ」

「…………あ?」


 その視線は、今までのケーテ様とは全く違う、悪意に満ちたどろりとしたもの。フロレーテ様も知っている視線と違うためかその場に立ち止まってしまう。


「ふふ、ちょっと起きてもらったよ。ケーテ様を壊した、張本人さん」


 カイン様の言葉に、視線がカイン様に集中する。


「僕の使える魔法、精神干渉。普通は無理しなくちゃ見れなくても弱っている人や意識のない人の精神に干渉できるんだよー」


 めったにしないけど、なんていうけれども、発した言葉の効果は絶大。精神に干渉される、精神を覗かれるなどということがあれば、国の重責に就く予定であるこの場に集まるものにとってどれほどの脅威か、カイン様はわかっていてあえて言ったのだろう。

 その証拠に、ミレーヌ様が顔面蒼白になって震えている。


「カ、カイン様。ケーテは多重人格ということなのでしょうか?」


 フロレーテ様が蒼白を通り越して土気色の顔色でガクガクと震えて言う。


「説明してあげたらー?張本人さん」

「……なんのことかわかりませんわ。カイン様、なにをおっしゃっているんですか?」


 その口調に、この場にいる全員が察する。口調、イントネーション、言葉の滑らかさや温度。そのすべてが、今までのケーテ様のものではない。


「えー?子供のころにケーテ様の中に入って元の人格ばらばらに壊して、でも今後のゲームのために必要だからって再構成していいように暗示をかけてうごかしてたんでしょー?すごいよねー、尊敬するよー」

「な!?それでは、ケーテはっ本来のあの子は…」

「残念だけど死んじゃったねー。そもそも、今まで生きてきた人格を変えちゃうような乗っ取りをした時点で、元の人格は死んじゃってるよねー」


 カイン様はそう言ってミレーヌ様のほうを見る。ミレーヌ様は真っ青だし、この部屋に集まっている数名の顔色も悪い。

 あら困りました、もしかして前世の記憶というものを思い出して性格や考え方が変わってしまった方は他にもいらっしゃるのでしょうか。

 それにしても元の人格を殺しているですか、なるほど、いい得て妙ですね。そうなると私が最初に殺したのは自分ということになりますね。貴重な経験をしましたね。

 さて、他の方のことはとりあえず置いておくとして、今はケーテ様ですね。


「確かに、セイラ様を慕うあまり勝手な行いをしました。けれどもすべてはセイラ様の為だったのです!セイラ様、どうかお許しください」

「貴方が謝るのは私ではなくミレーヌ様ですわ」

「……ミレーヌ様、セイラ様のことを思うあまり、カイン様に親しくしすぎている貴方に行き過ぎた警告をしたことをお詫び申し上げます」


 先ほど、どんな罰でもお受けいたしますといったのに、お許しくださいとは、随分な方向転換ですね。

 謝罪を受けたミレーヌ様は青ざめていた顔を次第に怒りに赤くし、些かゆがんだ表情で口元を笑みの形にしてケーテ様を見る。


「あ……い、慰謝料を要求するわ!私は金銭的にも精神的にも被害を受けたんだもの!それ相応のものを」


 正当な要求ですが、なぜでしょうか。幾分醜悪な要求に感じてしまいますね。

 けれども、これに関してはミレーヌ様を抜いた席であったことは申し訳ないのですが、国家間の話になる可能性もありますので、すでに話はついております。


「それにつきましては、ケーテ様の私財より損害金の賠償と、慰謝料として、この学院で3年間一般的なルース寮生にかかる必要経費分の金額をお支払いさせていただきます」

「は!?私のお金から!?なんで!」

「個人間の問題で済ませるのに、国家の資金を使えるとでも思っているのですか?」


 私がそう言うとケーテ様が私を睨みつけて、次の瞬間涙を浮かべる。


「セイラ様。フロレーテ様がそうおっしゃったのですね。私の私財を使うと、勝手に…」

「そうですわね」

「やっぱり。……ご自分だったらそんなことおっしゃらないでしょうね。私が、…いけないのですよね、フロレーテ様は、私だから」


 何を勘違いしているのでしょうか?今回の犯罪を大きくしないように配慮してくれているのはフロレーテ様だというのに。


「決定は変わりません。ケーテ様には賠償のほかに本日より一か月の反省房での謹慎を言い渡します」

「一か月!それをあのような場所で過ごせというのですか!」

「はい、罰ですので」

「ふ、ふざっ…………わかり、ました」


 叫ぼうとして、咄嗟に自制したのは素晴らしいですが、表情が裏切ってますね。今までのケーテ様ならそんな無様な真似はなさらないでしょうに。

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