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15 純粋な思いは悪意に変貌する(ケーテ視点+アイトリー視点)

 朝、仲良く寮を出ていくセイラ様達4人を見て胸が張り裂けそうになる。

 以前あったアルスデヤ様のお部屋にお泊りになった時と同じ、私にはお声をおかけくださらなかった。今回はフロレーテ様もご参加なさったというのに、私は相変わらず…。


「っ…」


 仕方がありません。仲良くしてくださっていると言えども、私とセイラ様では身分が違うのですもの。ルニーシュ神国のお二人も誘われていらっしゃいません。

 けれど、今までほとんど交流のなかったフロレーテ様までお呼びになったなんて。わかっていても胸が張り裂けてしまいそうなほど苦しい思いがこみ上げてきてしまいます。


「ケーテ様?いかがなさいましたか?」

「っ! アイトリー様。いえ、なんでもございません」

「けれど、泣いていらっしゃるではありませんか」


 そう言って優しくハンカチで流れていた涙をぬぐってくださるアイトリー様の優しさにまた涙があふれてきてしまう。


「僕でよければお話しを聞きますよ」

「……いいえ、私が至らないのがいけないのですわ。私がもっと努力をすればきっとセイラ様ともっとお近づきになれますし、フロレーテ様が私を避けることもございませんわ」

「それは…、なんと言っていいのか」

「いいのです。フロレーテ様が私をよく思っていないのはわかっております。私がセイラ様を尊敬しているのをご存知なのに、今回のお泊りにお声がけくださらなかったのは、きっと私の努力が足りないのですわ」


 言っているうちに思わず涙が出てしまう。他のことは平気なのに、セイラ様とフロレーテ様のことだけは別です。どうしても、割り切れない方々なのです。


「なんというか、ケーテ様は少しフロレーテ様と距離を置いてみてはいかがでしょうか」

「そんなっ!今も昔のように話すことが出来なくなっておりますのに、これ以上疎遠になってしまっては…私、私は…」


 ぽろぽろと涙が流れ行く。アイトリー様には申し訳ないけれども、今はこうして涙を流すことを許してほしい。


 いいえ、アイトリー様もお国を背負ってここにいらっしゃっている方なのですから、私のことで手を煩わせてはいけませんわね。


「申し訳ございません。私のことでお時間を取らせてしまって」

「いえ」

「でもありがとうございます。アイトリー様のおかげで少し心が軽くなったような気がします」


 今できる精いっぱいの笑みを浮かべてアイトリー様から離れて寮を出て講義を受けるために学舎に向かう。

 今日は神学の講義が午前中にありましたね。


 確か、カイン様とミレーヌ様も同じ講義を受けるのでしたね。あのお二人は今日もまた隣の席に座るのでしょうか?

 セイラ様の婚約者だというのに、ミレーヌ様はなぜ図々しくもカイン様の隣に侍っているのでしょう?セイラ様が何も言わないからと図々しい。


 警告では生ぬるいようですね。


 セイラ様を煩わせるなど、神に牙をむくに等しい愚かな行為となぜ彼女はわからないのでしょう。なぜ、平然と醜悪な顔を笑みで隠してカイン様の傍にいるのでしょう。

 そう考えているうちに学舎に到着する。伝統のある学舎に気分が引き締まる気がしていく。


「ケーテ様」


 学舎に入るとすぐに友人が近寄ってきて小声で内緒話をするように話し始める。


「今日はここに来る途中で誤ってぶつかって転ばせてしまったのですが、あの方ってば先ほどそのことをカイン様に言って泣きついてましたのよ」

「まあ、カイン様にまたご迷惑をおかけして…本当になんてことでしょう」

「怪我もその場で治して差し上げたのですけど、自分がいじめられていると訴えて…本当に、分を弁えない田舎者ですわ」

「いけませんわ。そのようなことを言っては」

「ケーテ様、でも…」


 ミレーヌ様と同じ寮に住む女性はそう言ってミレーヌ様がいらっしゃるのであろうクラスを睨みつける。

 すでにカイン様の手を煩わせているなんて、先日の魔物討伐で少し自覚をしたと思いましたのに、本当に煩わしい方。


 けれども、田舎者などといっては悪口になってしまいます。私はともかくこの友人がこの程度のことでミレーヌ様に隙を見せるわけにはまいりません。


「あの方の考えたらずは私も心を痛めております。けれどもそのせいで貴方に何かがあって、万が一セイラ様にご迷惑が掛かってしまっては本末転倒ですわ。私たちは陰ながらセイラ様が快適に過ごせるように働きかけることがお役目というものです」


 そう言えばご令嬢はうなずいて先に行っておりますと言ってクラスに入っていきます。


 全く、本当にもう少し強めに警告をする必要がありそうですわね。

 鉢植えを落とした程度では温かったというのなら、今度は泥水でもかぶせましょうか?それなら決行は雨の日ですね。


 ああ、セイラ様のお心がこれで晴れるとよいのですが…。

 婚約者が他の女生徒と親しくしているなど、表面上には出さずともお辛いでしょう。神の寵児でいらっしゃるセイラ様が何かを言えばきっとそれを神がくみ取って動いてしまわれるから言えずにいるのですね。

 それであれば私がセイラ様のお心を代弁いたします。

 以前より私は民の心に寄り添ってまいりました。フロレーテ様と距離が開いていってもなお、私が王家への信頼を得ていけばいずれ昔のように笑いあえると信じているからです。

 だからセイラ様の為、お心を煩わせるものを排除すればきっとセイラ様も今以上に私と親しくしてくださいます。

 他の誰よりも…。ああ、そうですわ。そうなったらフロレーテ様もご一緒にお話しさせていただけるようお願いいたしましょう。きっと喜びますわ。フロレーテ様はセイラ様が大好きでいらっしゃいますもの。

 きっと私がお願いしたっていったら以前のように私ともお話ししてくれますわ。


 考えて歩いているうちにクラスに到着してドアを静かに開ける。


「おはようございます」


 皆様からの挨拶にそう笑顔で答えて行きながら自由な席の前のほうに移動していくと、すでに並んで座っているカイン様とミレーヌ様が見えてその斜め後ろに座る。


「おはよう、ミレーヌ様」

「おはようございます」

「おはようございますお二人とも。すがすがしい朝ですね」


 笑みを浮かべて挨拶を返せばミレーヌ様は少しつらそうな顔をしてから「そうですね」と言ってカイン様に先ほどより近づく。


「あはは、ごめんねー。ミレーヌってば実は今朝ころんじゃったみたいで」

「転んだんじゃっ…いえ、…。えへへ、ドジですよね私ってば」

「まあ!お怪我はございませんでしたか?」

「はい、近くにいた人が回復魔法をかけてくれましたから」

「そうでしたか、それはよかったですわ」

「はい……」


 怯えたようにカイン様との距離をより一層縮めるミレーヌ様の姿に嫌悪感が増していく。まったく、カイン様のご迷惑を考えないのでしょうかこの人は。


 やはり、もっとその身にわからせるべきですわね。


























「う~ん」


 ああいうのを天然のヒロインっていうのかね?

 寮を出て行くケーテ様の背中を見送りながら苦笑してしまう。

 健気で一生懸命な美少女。

 まあ、普通なら同情しちゃうだろうし、味方になってあげたいって思うかもしれないよね。普通なら。


 でも、彼女のしていることはこの寮に在籍している者の一部には知られてしまっている。気が付かれていないと思ってるのは本人だけ。

 もしくは純粋な善意故に気が付かれてもかまわないと思っているのかもしれない。


 ミレーヌ=カペル様の身の回りに起きている悪意ある行為、その裏にはセイラ様の為という純粋な善意で生徒を操るケーテ様が存在する。

 目撃者がいない、それは当たり前だ。見ていても見ていないと言えば目撃者は存在しなくなる。

 疑わしい人物にアリバイがあるのも当然。口裏を合わせればいい。


 あの植木鉢だって、ミレーヌ様がよく通る通路の上でおしゃべりをしていた女生徒たちがいた。けれども植木鉢が落ちた時には彼女たちはもう立ち去っていたと、他の生徒が証言している。

 警告にしては随分と危険な行為だけれども、相当の致命傷でもなければ回復魔法でなんとでもなると考えてのことだろう。

 そしてもちろん、このことにセイラ様も気が付いている。ケーテ様はセイラ様に気が付かれているとは思っていないのかもしれない、もしくは気が付かれてもいいと思っているのかもしれない。

 どちらにせよ、起きている事柄を正しく理解している同じ国のフロレーテ様の心労は大きい。昨夜の交流会もそんなフロレーテ様の心労を軽くするためのものだったのだろう。


 まったく、ゲームじゃこんなモブの動きなんか演出なかったから困るな。

 ミレーヌ様はカイン様ルートみたいだけどうまくいってないかな。セイラ様が原作と違うからかもしれないし、本人がゲームのヒロインと違うからかもしれない。

 でも、いじめのイベントは人物を変えて再現されつつある。だけどセイラ様のアリバイはばっちり、動機も本人が「隣の席に座る、2人で食事をとる」程度は気にならないと公言している為、嫉妬というのには幾分薄い。

 そもそもセイラ様の性格からして嫉妬は難しそうだし、カイン様との仲は良好と聞く。


「ケーテ様も報われないな」


 そしてフロレーテ様も。まったく、僕は傍観者に徹するつもりなのに、このままじゃ手を出さざるを得ないじゃないか。

 救われない。これではあまりにも救われない。あまりにもバッドエンドに向かっていく善意のご令嬢をただ見てるだけなんてやっぱ無理。


 ごめんねカイン様。あまり深入りしては傷を負うだけで見返りがないかもしれない。ってしっかり忠告してもらったのに。

 大丈夫。僕が傷を負っても祖国には迷惑が掛からないようにしてるから。遊び人が火傷するだけだから。


 だから、ごめんねフロレーテ様。僕はケーテ様を助けるよ。


 まずはケーテ様の友人関係を切り崩していきますか。セイラ様信者でほぼ形成されてるからなぁ、ちょっと難しいかもしれないけど、女性陣はなんとかなるだろう。

 メンヒジル様もセイラ様のファンだっていうし、協力してもらえるかな?僕が言うよりもセイラ様が話を聞いてくれる可能性があるしね。

 ラウニーシュ神国のお二人は事情が複雑だからあんまり関わりを持ってなかったんだけど、仕方がないか。

 どっちから攻略すべきかな…。

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