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13 お茶会をいたしましょう(セイラ視点)

「ごあいさつしたことは何度かございますけど、こうしてお茶をいただくのは初めてにございますね。セイラ様、ペレト様、アルスデヤ様。ウアマティ王国第一王女フロレーテにございます。日頃は我が従妹、ケーテと親しくしていただき嬉しく思っております」


 そう言って4人の中で誰よりも先に用意されたカフェの個室で待機しており、4人が揃ったところで静かにゆっくりと深く頭を下げたフロレーテ様に私達4人は穏やかな笑みを浮かべる。


「お気になさらないでください。それにフロレーテ様ともお茶をしたいと思っておりましたのよ」

「そうじゃの、次期国を導くもの同士仲ようしたくての。セイラ様にお願いして混ぜてもらったのじゃ」

「アタシもヨ。この部屋にいるのは次期王妃か女王ネ。でも今はお互い学生だから仲良くしまショ」


 そう、この場にいるのは予定とはいえそれぞれの国の頂点に君臨することが決まっている女性陣のみ。

 ウアマティ王国は今は男児が生まれていない。生まれれば変わってくるだろうが、今第一継承権を持っているのはフロレーテ様。

 ペレト様はまだ発表がないけれど、少し年の離れた王太子の婚約者となることが内定しているとのこと。

 私とアルスデヤ様は言うまでもなく、次期王妃と次期女帝となることはほぼ確定している。


「なるほど。そういうことでしたか」


 気が付いたフロレーテ様の様子に私たちは笑みを深める。

 留学生のうち王族になるもしくはであり続ける可能性のある女生徒は、ここにいる4人のみ。他の留学生は公爵令嬢であったり、王女であっても降嫁したり王家に嫁がない者ばかり。

 そもそも、国内の事情が不安定で身の危険がない限り、次期国王になるものを3年間も他国に出すなんて危険な行為をするほうがおかしいのだ。


「では、重ねて。我が従妹の無礼なふるまいをお詫びいたします」

「かまわぬ、今は学生の身ゆえの」

「そうヨ。かわいいものヨ」


 そこで私に視線が集まるのでふんわりと笑みを浮かべて悪意など一切感じさせない顔で口を開く。


「ケーテ様は純粋な方ですし、悪意などないのはわかっておりますのでどうぞお気になさらずに」

「本当に、申し訳ございません」


 フロレーテ様の顔色が悪くなったのでいじめるのはこのぐらいにしておきましょう。


「ところで、フロレーテ様は何をお召し上がりになります?」

「ではモンブランとグリーンティーを」

「妾はそうじゃのう…ミルフィーユとミルクティーにする」

「アタシはチーズケーキにアイスティーネ」

「セイラ様はいかがいたしますか?」

「なにがいいでしょう、迷ってしまいますね」


 フロレーテ様の問いに困ったような顔をした首をかしげてみる。


「ではピーチタルトはいかがでしょうか?」

「あら、ピーチですか?」

「はい。先日よく熟れたものが手に入ったという話を耳にいたしました。本日のピーチタルトにそれが使われているそうですので」

「そうでしたか、ではそれをいただきますわ。飲み物はグリーンティーで」


 個室の為4人そろったときから待機している給仕が注文を聞き終えて部屋を出ていく。

 窓の付いた個室は4畳ほどの大きさしかなく、少し狭くは感じるが密談をしているという気がしてどこかワクワクしてしまう。


「アタシも後でグリーンティー飲んでみたいネ」

「妾も飲んだことはないの」

「では飲み物を後ほど交換いたしませんか?ね、フロレーテ様」

「あ、はい。もちろん異論はございませんわ」


 まだ硬さは残るものの、王族としての柔軟さは持ち合わせているようですね。本当に、性質自体はケーテ様に似ているのでしょう。

 情報収集力、分析力、判断力は幾分フロレーテ様のほうが上といった様子ですが、これはやはり育てられた環境と言えるでしょう。


「そういえばセイラ様。未来の夫の浮気はいつまで見過ごすのかの?」

「そう言われましても、ただ授業で隣に座る、よく喫茶店や食堂棟で二人でいるのを見かけるという程度のものでしょう?抱き合っている、口づけを交わしているなどという目撃談があるのならともかく、人目の多い場所で二人で食べているだけでは、浮気としてはいささか物足りないですわね」

「そうヨ。なんか最近イジメを受けてるトカで騒いでるけど、勉強道具の損傷、紛失程度じゃインパクトがたりないネ。目撃者もいないヨ」


 私たちの言葉にフロレーテ様の顔色が少しずつ悪くなっていく。


「おや、2人とも聞いておらぬのか?昨日の放課後だったかの、ミレーヌ様が歩いていたところの上から植木鉢が落ちてきたそうじゃ。危うく頭に当たるところだったそうでな、ちょっとした騒ぎになったものよ」

「まあ、そんなことがありましたの」

「うむすぐさま駆け付けたケーテ様がミレーヌ様の負ったかすり傷などはすぐに回復したようで問題はないらしいが、随分な怯えようであったというぞ」

「フーン。それで今日は朝からカイン様にくっついてたのネ。カイン様もいつもなら一定時間がたてば離れるのにおかしいと思ったヨ」


 昨日の植木鉢の落下についてはもちろん聞いている。あいにくその時間私は講習を受けていたのでアリバイがあり、ミレーヌ様も私を犯人とは言えなかったみたいですね。

 カイン様にもしかして私が、とは言ったようですがあいにく講義の予定を伝えておりますのですぐさま否定なさったと、カイン様より聞いております。

 他にめぼしい人はミレーヌ様をよく思ってない方々ですが、いつミレーヌ様が通るともわからないところで植木鉢を持って待ち続けるという奇行を目撃した人もいないため事故ということで片が付いている。

 ただミレーヌ様が怯えているためカイン様が今日一日傍にいる約束をしたとおっしゃっていました。


「ミレーヌ様はなにかと女生徒だけではなく男子生徒にも幾分心証が悪くなっているご様子ですものね。きっと心当たりがあって怯えているのかもしれませんわ」


 フロレーテ様の言葉に私たちは揃って頷く。


「セイラ様の婚約者であるカイン様への接触の多さも心証の悪い原因のご様子。本日の様にともにいたのでは逆効果にも思えますわ」

「そうじゃの。ミレーヌ様自身に悪意を持っているというよりも」

「セイラ様の婚約者であるカイル様にナレナレしいっていうのが気に入らないっていう可能性もあるネ」

「そ、そう……ですわね」

「まあフロレーテ様、お顔が幾分青くなっているようですが、いかがなさいましたの?」

「あ、いえ…。本当にもし故意に植木鉢が落ちたのだとしたら恐ろしいことですわね。けれども目撃者もいないとのことですし、事故なのでしょうね」


 顔色はまだ悪いが、笑みを浮かべて話す様子は堂々としている。さすがは次期女王として教育を受けているだけのことはありますね。


 そうしていると個室のドアがノックされてそれぞれの注文品が運び込まれてくる。

 自分の前に配膳されたピーチタルトは宝石のように艶めいていて美しく、見ているだけでうっとりとしてしまう。

 他のケーキもそれぞれ美味しそうで、私たちは結局それぞれのケーキを4等分して分け合うことにしました。

 どのケーキも美味しく、心が軽やかな気分になります。

 美味しいケーキと飲み物のおかげでフロレーテ様の顔色もすっかり戻って自然な笑みが浮かんでおります。

 ケーキの感想などを言い合っているうちにケーキは食べ終わり、それぞれが飲み物を交換したりしてひと段落ついたところで思い出したように口を開く。


「ふふ、こういうのを女子会というのだそうですわ」

「女子会か、なるほど。先日のパジャマパーティーも楽しかったしのう」

「パジャマパーティー。先日セイラ様がアルスデヤ様のお部屋にお泊りなさったという話ですか?」

「そうヨ!アタシも一緒にお泊りしたヨ!」


 その言葉にフロレーテ様が羨ましそうなお顔をなさったので今度するときはぜひご一緒しましょうとお誘いすると、ケーテ様のことを気になさっているご様子ですね。

 この集まりは次期女王もしくは王妃がほぼ確定している者の集まりなのできにすることはないのですけれど、もとは仲の良い従妹ですから気になるというところなのでしょうか?


「のう、フロレーテ様」

「はい、なんでしょうか」

「パジャマパーティーはよいぞ。女同士の空間でこうして、好きなように遊べるのじゃ」


 そう言って私の隣に座ってらっしゃるアルスデヤ様が立ち上がり、私の正面に座っているフロレーテ様に見せつけるように私の背後に立つと前に胸を伸ばして思いっきり下から持ち上げて揉み始めました。


「まあっ!」


 そうですよね、驚きますよね。私はなんだかもう慣れましたけれど普通の反応はそうなのですよねえ。でもフロレーテ様も私たちに負けず劣らずのお胸をお持ちでいらっしゃいますので。


「ひゃあ!?」


 同じように席を立ってフロレーテ様の背後に立ったペレト様に同じようにしたから胸を持ち上げられて揉まれてしまうのですよね。


「おっおやめくださいペレト様っ!こ、このような破廉恥なことっ」

「女同士だから気にしちゃだめヨ」

「ひぅっそ、そういう問題ではっひゃんっ」

「ふむ、フロレーテ様は感度が良いようじゃの」

「慣れてないので敏感なのかもしれませんわね」


 そうなると少しお気の毒と言わざるをえませんね。ウアマティ王国はがっちり貞淑というわけではありませんが、ほどほどに貞淑を重んじるお国柄ですものね。


「そうなるとセイラ様は慣れているので不感症ということになるのだがのう?」

「感覚の遮断ぐらいできますし、胸を揉まれた程度で動揺や反応してたら戦場に立てません」

「う~む、この国の性教育は妾の国ともペレト様の国のものとも違うというか、異質よのう」


 胸を揉む手を休めないまま肩に顎を載せて、ほっぺたをすり合わせてくるアルスデヤ様のお姿に、正面のフロレーテ様が真っ赤になってしまってますね。

 流石に反応の初心さからペレト様はフロレーテ様の胸から手を放して、肩の上から腕を垂らして胸の下で組む程度に変更なさっております。


「12公爵家が特殊なのですわ。流石に一般貴族は普通の貞操観念を持っております」

「12公爵家のう。妾もそうであるが、外の国の上層部はその秘密を暴きたくてうずうずしておるぞ。その秘密を手に入れた国が優遇されるなどという噂もあるほどじゃしのう」

「秘密って…家族ぐるみで王家から賜った秘宝の加護を持ってる戦闘一族といったぐらいしかありませんけれどもね」


 本当にそのぐらいしかないのだけれど、まあ細かくは様々あるのだけれども、大まかに言えばそんなところである。

 各国の隠密部隊が潜入して必死に秘密を暴こうとしているけれど、徒労に終わってご苦労なことだと思ってしまう。


「ふーむ。まあ、そうであろうの」


 そう言って手を放して背後から先ほどの所定の席に座りなおしてアルスデヤ様が深くため息を吐く。


「じゃが、エドワード様がセイラ様の実の兄というのは、あまり知られておらぬ情報であろう?」

「……そうですわね」


 アルスデヤ様の言葉にペレト様とフロレーテ様の目が大きく開かれ、私に視線が向けられる。

 よく調べましたね。幾分古い話になりますし、10歳になるまで12公爵家の子供の情報が外に出ることがほとんどありませんので、知ってる方はあまりいないのですけれども。


「では、この話は次のパジャマパーティーでお話しいたしましょう。フロレーテ様も知りたいのでしょう?ぜひご参加くださいませね」


 にっこり笑みを浮かべた私に、フロレーテ様はゆっくりと首を縦に振った。

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