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11 戦女神ではありませんよ(セイラ+マリウス+ミレーヌ視点)

 ごきげんよう皆様、セイラでございます。

 本日は年に数回ある魔物の討伐に来ております。

 といっても、何度も言うように私は接近戦は苦手ですし、攻撃魔法もあまり得意とは言えませんので主に拠点防衛を担当しておりますの。

 けれど、なんと申しますか今回は自主参加の生徒が多くおりまして、拠点防衛…要するに結界なのですがこれについては一般生徒に任せてはどうかと教師の方々に提案されて困っております。

 参加者には婚約者であるカイン様もいらっしゃいますので、万が一があっては困るのですが、本当にどうしましょう。

 一般生徒の魔法力を馬鹿にするわけではございませんが、戦い慣れていない方々が実際に目の前に魔物が出現してパニックに襲われるというのはよくあることなのです。

 通常の魔法は自身の精神力が影響します。つまり精神が乱れればコントロールを失い暴走する可能性もあります。


「心配ですわ」

「まだいってるの?いいじゃん、カイン様含め全員死んでもいいって念書は書いてるんだし」

「そういう問題ではありませんわ」

「マリオンが一応残ってるし、大丈夫だって」

「そうですわね、今回のアンデッドの討伐にはマリオン様の力はどちらにせよ強力ですし、心配のし過ぎでしょうか」

「そうそう。小説っていうのもなんかもう100%そのままってわけじゃないんだし、時期が違うし小説の中での魔物討伐で大回復魔法を使う場面っていうのは、アンデッドじゃなくて飛行系の魔物だったよね?自分で言っておいてなんだけど、条件が違うし大丈夫だよ」


 そうマリウス様に励まされてなんとか気持ちを切り替えることが出来ました。


「そうですわね。まったく、これでは12公爵家の名折れですわ。戦いに集中しなくては」

「うんうん、じゃあ僕は巻き込まれたくないから離れたところで防衛結界張っておくから」


 幾分失礼なことを言われましたが、実際私が戦うとなると広範囲に影響が出ますので仕方がありませんね。


「さて」


 では、戦いましょうか。


 魔力を波紋状に広げていくその魔力は空間に切れ目を入れて絶え間なく波打ち続ける。それを二重三重に重ねていき、10ほど重ねたところで広げて半径2mほどの半円を作ったところで魔物との戦闘場所にかけていく。


























 離れた場所からセイラ様が魔法を展開するのを見る。

 水の膜のような流れ続ける波紋状の魔力は空間の断層、触れれば何者であっても容赦なく切断していく。


「ああ、すごいな」


 魔力の残滓が半円の波に包まれたセイラ様の髪を揺らし、肌を照らしていく。あの魔法の恐ろしさを知らなければさぞかし神秘的に見えるだろう。

 けれど、セイラ様という人物を知っていればアレはただのおそろしい現象でしかない。

 過去にセイラ様を甘く見て腕をなくした僕が言うんだから間違いない。あの波に不用意に触れて腕を失った、すぐにマリオンが元に戻してくれたけど、あの時の感覚は忘れられない。

 死の恐怖というものに触れる機会は多いけれど、泣いたセイラ様にあの時ほど自分のうかつさを悔やんだことはない。


 準備が整ったのか、戦場に向かって駆け出すセイラ様は純粋に美しい。


 少し丘になっているこの場所は味方の拠点防衛個所も、戦闘場所もよく見える。

 本当に、魔物の討伐に参加したいなんて面倒なことを言い出してくれたよね、戦えるならいいけどそうじゃないならただの足手まといだ。

 カイン様はいまだにどんな魔法が使えるのかはわからないけれど、一定レベルの攻撃魔法や防御魔法は扱えると試験結果が証明している。おそらく神か精霊の加護による魔法も使えるはず。

 問題はそのほかの生徒。結界を張る力があるならまだまし、中途半端にしか魔法を使えなかったり戦闘できない奴らが参加するのが一番面倒なんだよね。

 戦えると思ってる分質が悪い。


「ミレーヌ=カペル」


 ろくな戦闘能力も魔法能力もないくせに参加した本物のお荷物。

 僕たちのセイラ様にとって害悪になるかもしれない存在。

 今のところセイラ様を害する動きがみられないから手出しができない、でもこの戦闘で足を引っ張れば、事故として処理することもできる。


「っ。始まったかな」


 戦場のほうではセイラ様の登場に盛り上がりを見せている。戦乙女か聖女にでも見えてるのかな?どうでもいいけどカール様たちの指示に従ってくれないとセイラ様が戦いにくいじゃないか。

 君たちじゃ、触れた瞬間引き込まれてそれこそこの世界から消滅だよ。

 まあ、12公爵家の戦闘に混ざりたいなんて言うんだからそのぐらい覚悟してるよね?


 セイラ様の邪魔にならないようにカール様とアレックス様が誘導、聞かない馬鹿はエドワード様が強制排除か、相変わらずセイラ様に甘いな、あの人たちは。


 ああ、でもきれいだ。

 ただそこに佇んでいるだけなのに魔物はセイラ様にひきつけられていく、群がっていく。それが己の死を意味すると本能的にわかってしまっても、侍らずにはいられないんだ。

 セイラ様に群がる魔物の大軍を見て幾人かの生徒がセイラ様を助けようと動きかけて、カール様たちに物理的に止められる。

 うんうん、ああいう熱血正義感タイプは口よりも行動でわからせたほうがいいもんね。

 そんなことを考えているとかすかに歌声が聞こえてくる。


「……今日は讃美歌かぁ」


 戦場で気分が高揚するとセイラ様は歌を口ずさむ癖がある。それがさらに魔物を引き寄せていく、服従させていく。


「本当に、怖いなあ」


 セイラ様の周囲に魔物の血だまりが出来上がっていく。本人はただ穏やかな表情で歌っているだけなのに、本当に怖いな。

 でも、あの魔法は消費魔力が激しい。長くはもたない。

 だからこそ、切れた瞬間セイラ様の身はその戦場で何よりも無防備になる。


「でも、だからこそ加護がある」


 その瞬間を見誤らず、息をひそめていた化け物たちが解き放たれる。

























「~~~♪」


 ふと、魔力がほとんどなくなったことに気が付いて歌を止めて群がっている魔物を見る。

 魔法をとけば群がってくる魔物はそのまま私に向かってくる。空間の壁のなくなった私は無防備で、短剣一つではとても戦いきれるものではない。


 魔物の残数は約半分。

 ふっと魔力が壁を維持できなくなり消滅する。


「セイラ様!」


 誰かが叫ぶ声が聞こえるけれど、私はゆっくりと笑みを浮かべる。


「おこしませ」


 瞬間、天から光が落ちる。


























 天から光が落ちる。


「あれが、セイラ」


 カイン様の言葉に光が落ちたほうを見る。多分50m以上離れてる場所に落ちた光の下にセイラがいたっての?

 目を凝らして見つめていれば、光が消えた空中に大きな1対2枚の羽根を背負ったセイラが槍を手に微笑んでいるのが見える。


 ……は?見える?なんで?


 あんなに離れているのなら表情まで見えるわけがない。それなのに、見える。

 セイラだけじゃなく、戦場もまるで近くにあるように見える。

 それにあの女が装備してるのは、あの装備は。


「神装:天の翼と神装:天雷の槍…」

「ミレーヌよく勉強してるねー。見ただけでわかるなんてすごいよ」

「な、んで」


 なんで?あれはゲームの激レアアイテムじゃない。ガチャでどんなに課金しても手に入らなかった装備じゃない!

 なんであの女がもってるの?ざけんじゃないわよ!ソレは私のものなのに!


 ゆっくりとセイラが槍を掲げてふわりと舞うようにおろす。


「きゃぁぁ!」


 途端に魔物に向かって落ちる雷。晴れている空に雲なんてほとんどないのに、無慈悲に確実に魔物に落とされていく雷。

 一つの雷が何匹物魔物を消し炭にする。それこそ血の一滴も残さずに。

 いくつも、いくつも落ちる雷は恐ろしいほどに音を轟かせ、地面を揺らす。耳をふさいでも、人にしがみついても薄れることがない本能的な恐怖。


 私と一緒に魔物討伐に参加しても戦闘能力不足なんかの理由で拠点防衛に回されてる生徒は、ほぼ全員しゃがみこんだり何かに縋り付いてやり過ごそうと必死になっている。


「ふふ、すごいでしょう。私のセイラ様は」

「本当にすごいね。流石僕のセイラだね」


 例外であるのはカイン様と12公爵家の女。平然と立って、平然とセイラを見つめて笑ってる。


 普通じゃない。頭おかしいんじゃないの?


「カイン様ぁ。怖い」

「ん?ああそう?僕は平気だよ」


 違うでしょ!そうじゃないでしょ!私を心配する場面でしょ!セイラがとんでもないって私に同調すべき場面でしょ!

 まだ聞こえる雷鳴に震えてる私の、カイン様にしがみついてる手をそっと、でも強い力で引きはがされる。

 何してんのよ、私がこんなに震えてるんだから慰めなさいよっ!

 あんたは私が選んであげた攻略対象なんだからっ!


 絶望の表情を作って見上げたカイン様はいつも通りの笑みを浮かべている。隣にいる12公爵家の女も私を見下ろしておかしそうに笑っている


「あら、魔物討伐に自分で参加したんですもの。このぐらいは覚悟してたのでしょう?だって私達12公爵家の者が参加しておりますのよ。こんなものはまだ序の口でしょう?もっと凄惨でもっと無慈悲で、味方も体を損傷して、内臓が飛び出して、四肢を失って…そんな魔物討伐に、貴方は自主的に参加したのですわ。念書にもあったでしょう、生死に関して自己責任であることを認めるって」

「あ…あ?」


 カイン様が離れたせいで女が私のすぐそばで、上から顔を覗き込む様に近づけて囁くように話しかけてくる。

 なんなの?なんだってのよ。

 そんなの知らないわ。念書にサインをしなくちゃ参加できないっていうからサインしたんじゃないのっ。

 あんな細かい字で書かれた内容なんか読んでないわよ!

 これはイベントなの!私がなんだかわかんないけど隠しパラメーターの精霊だか女神だかの加護の数値を上げるために参加が必要なのよ!

 戦闘に参加しなくってもこうして防衛してるだけで上がるお手軽なイベントなのよ!

 なんでこんな目に合わなくちゃいけないわけ?ふざけんなっての!だいたい、なんでカイン様が私を守ってくれないの?

 あんた攻略対象でしょっ!私を放ってなにしてるわけ?今まさに私がいじめられてるじゃない!かばいなさいよ!守りなさいよ!ふざけんじゃないわよ!


「カ、カイン様たすけっ」

「どうしたのミレーヌ。まだ戦闘は続いてるよ、ちゃんと見なくちゃ」


 必死な思いで女から顔をそらした視線の先には、私を見ることなく、セイラのほうを見つめているカイン様がいた。

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