3 スーパーヒーロー参上!
シリアスパートって難しいと思う
朝日が登る、煌びやかなその光とは裏腹に俺の周りには魔物の血と肉とが混ざりあい呪われそうな不快なものばかりになっていた。その中で俺は仰向けになって勝利と死の感覚を覚えていた。勝った… 夜通し戦い続け数百の魔物を倒したがその代償として無数の傷と共に身体が動かなくなっていた。このまま死んでもいいやる事はやったのだからそう思った矢先。
ヌルりとでも言うのだろうか足先に謎の感触がつわたっている。
「なんだよ」
見れば、それは白色の塊、固形と液体の中間のその塊、スライムといわれる最弱の魔物だった。
スライムは最弱、コツさえ掴めればそこら辺のアホガキでも倒せるそんなやつだが、今の俺には倒せない、何故なら倒し方は魔力を覆った何かで殴るそれだけなのだが、今の俺は魔力が底を尽きている、だからこのまま最弱のスライムに溶かし食われることを待つしか出来ない。目を閉じ死を待つ、最後に思うことはただ一つ未だ再開していない妹の事だった。
「……ん?」
陽の光と不快な匂いを抱き合わせで起きた、起きた?
何故?周りは寝る前と同じ光景で……?
俺は考えるために胡座をかき腕を組もうとすると、
「ゲッ!なんだこれ!?」
組もうとした腕には、スライムがくっついていた、気づかなかった。感覚外からの刺客に驚いたが、そのスライムをよく見ると腕の傷が無くなっていくことにさらに驚いた。
身体中を触りながら確認すると、魔物から受けた傷が無くなっていくいるではないか。どういう事だと考えながら自分にあるスライムの知識を漁る。
「えーと…スライムは脆くて鈍くて雑魚で色んなものを溶かして食べてて、食べるものによって色が違ってて、基本的には緑とか赤とか青とかで毒持ちだと紫とか黄色とかで薬草とか魔法薬なんかを食べると白色とかになっていくだったかな…、うんそれだな毒持ちは毒使ってくるしそれだな」
つまりは今俺にへばりついているスライムは傷薬なんかを煮詰めた様なもので、何故かは分からないが怪我を治しているということだ。
どうしよう、完全に死ぬつもりだったというのに…。
自分で死ぬか?それは違うよな、治したこいつにも申し訳ないという気もするし…。
「墓でも掘るか…」
いつだったか、冒険者を引退した奴が言っていたが、ある程度家元を離れると親孝行したくなるらしい、聞いたその時には引退の言い訳か?とも思ったが今になるとわかる。もう俺には孝行する相手はいなくなってしまった、だから墓を掘ることで俺を育てた場所に感謝することにする。
穴も掘り終わり埋葬しようとした時。
「いない」
何がと言われれば妹と答えるしかない、埋葬する際に記憶と照らし合わせて確認していたが妹だけいない。探し漏れがあったのかと村を見渡すと、さっきのスライムが1つの小屋だった瓦礫に向かって体当たりをしていた。
「あの小屋は確か…」
なんだったか、たしか物置だったかな?あ…そこ地下室無かったっけ?そうだ、たしかそうだったはず。
一筋の光明が見えた、地下室なら無事なはず、そう思い俺は小屋だった瓦礫をどかして地下室に入る。
「うっ」
暗い地下室に入って最初に感じたのは密閉された地下室篭った血の匂いだった。
「 ナナいるか?」
妹の名前を呼ぶ……返事はない、寝てるとか?呑気すぎるか、違うなとするとここにいないことになるけど。ゆっくりと室内を歩く。すると、
「ん?」
何かを蹴ってしまった、別に物置なのだから問題ない気もしたが、どうも感触が悪い気がした。何があるのか足元をよく見ると。あ……見えてしまった、白い髪、俺の灰色なんかとは全く違う、記憶の中のあの髪だ。
「なんだよ、なんだよなんだよなんで死んでんだよ、なんで俺じゃねぇんだよなんでお前なんだよ」
今まで抑えていた何処にも向けられない感情が爆発した。
どうして俺は生きているのか、あの時家出しなかったら、もっと早くここに来ていれば。色々などうにもならないことが頭を占領し始める、俺は蹲り動けなくなった。
その時、ペチンと何かが俺にぶつかってきた、スライムだ、なんなんだ、なにがしたいのか、ぶつかったスライムを見ればうっすらと光っているのだが、俺のことはもういいようで、体内に箱を入れて何かをしている。
箱、妙に豪華な箱、見覚えのある箱、いつの間にか俺はその箱について考えていた。そして。
「おいそれ!なんかあれだろ大事なやつ、え〜とそう指輪だろそう指輪!てかなんで空いてんだよ、お前か開けたの?いやそれより指輪はどこにやった?」
先程の重い頭を吹き飛ばし指輪のことに集中する。
指輪は願いの指輪で願い事を叶えるもので、使い方によっては一国の主も簡単になれるとかで、危険だから封印してあって村長が認めないと開けられないとかで、一応俺も開けられるというかここの住民なら誰でも開けられるようにはなっているが、使っているところなんて、ジジイの村長でも見たことないくらいで、指輪のことは村では話してはいけないもちろん外でも、とにかく俺の認識ではあることは知っているが触れてはいけないものであるというものだが、その指輪がない、そして妹は何故ここに?いや違う何故ここで死んでいる?何故だ?
俺はいままで生きてきた中で1番と言っていいほど考えた。
「とりあえず街に行って情報を集めるか」
考えた結果でた仮説は、誰かが指輪のためにこの村を襲ったということ魔獣進行に合わせて襲えば証拠も無くせる、この考えになった決め手は妹の遺体の様子からだ、妹は首を恐ろしく綺麗に切断されていた、こんな事は普通の人間には出来ないし魔物にも出来るやつはそういない。そして魔物に指輪の価値は分からないだろうし、こうなると犯人は人間、しかもかなり強い人間になるはずそれなら街に行けば話の一つや二つあるだろうそういう考えに至った。
全員の埋葬を済ませ、別れを告げ村を出る。
頭の中は今後どう情報を集めるかそれだけだったのだが、今は後ろに付いてくる奴について考えていた。
「なんでついてくるんだ」
立ち止まり通じない言葉を白いスライムになげつけながら振り向く。
スルスルスル 「へぁ?」
なんだこの感覚!?気持ち悪すぎる!
一瞬訳がわからなくなったが、この感覚の正体は後ろをついてきていたあのスライムが体に巻きついている感覚だ。オマケに巻き付かれた箇所は少し湿っている。
「この野郎、離れやがれー!」
俺はがむしゃらに走った何も考えずただ走った、そして気づいた(意味無くね)と。
「意味ねぇじゃん!巻きついてんだからよ」
思ったことを声に出して、気を鎮めようとする、後は減速するだけ、だったのだが。
ズルン 「何でだッ」
コケた、何年かぶりに盛大にコケた。
「なんだ?なんか踏んだよなうん、何か滑りやすいやつがあってだな、もつれたとかじゃないそれはホント」
言い訳をしたスライムしかいないのに。あまりにもダサい言い訳をしながら確かに足裏に感じた何かを確認した。そこにあるのは、普通の水溜まりだった。
「うーーーん……ん?なんだ?朝か」
世界が止まって見えた、そこにあった自分がコケた言い訳用の水溜まりが喋り始めたのだから。
武器を構えた、明らかに人間では無い特徴しかない、様子を見て逃走するそういう構えをした。
「なんだなんだ、キミ物騒だなぁ」
やはり喋るのか…なら会話で、「気を逸らして逃げ切るとか考えてるねキミ」
な……んだこいつ、思考が読める?それともあてずっぽうか?
「ナニモノだお前」
喋る水溜まりに尋ねる
「んー?名前を聞くなら先に自分からが筋っていうものなんじゃないの?」
「チッ!俺は「と言いたいところなんだけど私はね筋張った食べ物って嫌いだから先に言うんだけど、ていうかこの返しって結構失礼な気がしてならないんだけど」……は?」
今の驚愕の「は?」にはふたつの矛先がある、ひとつは訳の分からない返し、もうひとつは水溜まりがどんどんと人型に変わっていっているというところだ。
「私の名は世界を旅するスーパーヒーロー、人呼んでパープルエースだぁ〜!」
「…………」
紫髪の少女に変身した水溜まりが馬鹿みたいな、名乗りをあげた。
一瞬でもこいつに警戒していた自分が恥ずかしくなった。
次から地の文が減ります、野球バライティのリメイクが出るようですね、推しはカズです。