1 山に崖があるのは当たり前
初投稿です。自分の頭の中を形にして晒す
「では!皆さん挨拶は抜きで、せーのっ!」
「「乾〜杯!」」
今日は、俺のための特別な宴会だ。主催は音頭をとったノーツという奴でそこそこ付き合いのある、まあ、良い奴だ。
特別な宴会、どこがどう特別なのかと言うと俺のためというところだろうか、冒険者達は外から帰ってきたら基本飲んでいる、宴会なんて毎日している、それは、当然といえば当然で冒険者の仕事は大体が命懸け、生きて帰って来れたことが祝い事に値すること、だから飲む、無事に帰ってきた自分を祝うために飲む、そういうことだ。しかし今回は自分のためではなく俺のため、基本自分のために 飲んでいる奴らが他人のために飲むのだから、それは特別と言う他ない。
「それでは〜今日の主役ジェン君の〜お話でーす、じゃあ僕はクロウのとこに行ってきまーす」
そう言ってノーツは外に出ていく。 ノーツにはクロウという相棒の犬がいる。「犬じゃない狼だからな!」
外からノーツの声がした、すげぇなおい、ノーツのいいところはここだ、もちろん心の中まで及ぶ感知能力ではなく、自分ではない誰かのために怒れるというところだ、冒険者なんて自分勝手がほとんど、そんな中でそれが出来る人間は滅多に居ない
だからだろうか、あいつは顔が広い、広いが隣にはクロウがいるからなのか固定のチームがいない、それは世間の魔物使いのイメージの悪さかノーツ本人がそういう人間なのかなんというか、まあ俺も仲はいいが深い所までかと言うとそうでも無い、おそらく、ノーツは俺との関係のようなものを幾つか持っているのだろう…
「主役〜早く話せ〜そんで酒をもっと出せ〜肉でもいい〜」
なんだよムカつくな、誰だか知らないけどもう出来上がりあがって、というかいるか?俺の話。こいつら酒と肉にしか興味無いだろ、いやそうか、酒と肉には芸か武勇伝が付き物つまりはこいつら、俺の話…武勇伝が聞きたいということか、しょうがない話してやるか。
「あー 今日の主役ことジェンでーす、今日は俺の貴族お抱えおめでとう会に参加してくれて感謝感激でーす」
『ちゃんと気持ち込めろー』『ダセー名前の会だなー』『どんな迷惑かけたら貴族に呼ばれんだー』
愛は存在しない、こんな薄情な反応する世界には愛はない、でも俺は負けない。というか迷惑かけてないから。
「反応ありがとう、えーと、そう、ここ至るまで色々ありました、そうあれは6年前、俺が15のとき、狭くつまらない東の田舎から飛び出したこともありました」
『なんか普通だな』『というか口調が丁寧でキモイ』『俺の肉ないんだけど』『突然語り出したぞ』
酷い、酷いじゃないか、確かに田舎から上京はよくあることだしここにいる奴らも大体そうだと思うけど、自分と重ねるとかさしてさ…ね。もっと、こっちだって頑張って丁寧話してるのに気持ち悪いなんて…。
「えーそして王都に来た俺は気持ちが浮ついていてそのままうまい話があると言われ、話につられて1文無しになったこともありました」
『ダセー』『うまい話なんて信じる馬鹿いたんだ』『飯の肴ありがとう』
こいつらほんと酷いな、人の不幸で笑いやがって、いや俺も他人事だったら笑ってたな俺も酷いな。
「それから、その話を持ちかけてきたやつを見つけるために、関係ありそうなやつに片っ端から手をつけた結果、昼夜問わず襲われ始めたこともありました」
『やば、この人悪い人じゃん』『自業自得じゃんどっちも』『何でここにいるんですかー』
こんなこといっていやがるが、どうせこいつらも金取られたらこんな呑気な反応してないくせにして、なんなんだこいつら。
「それから半年ほど襲われ続けたところで、限界になった俺は1番上を締め上げるためにボスがいるという、監獄に行くことにしました」
『これ嘘入ってない?』『あぁ特に限界になって1番上のとこだな』『あれでしょ普通に捕まったのが恥ずくて言い訳してんだよ気づかないフリしとけよな』
全部本当言い訳はしていない、どうしてこいつらはこう俺の心を揺さぶるのか、もしかしたらこれが愛というものかもしれない。
「それから2年程監獄で楽しく暮らしいましたが、なんだか楽しかった監獄が窮屈になり監獄のみんなとはお別れ、広い世界に出たところで区切りをつけまして、色々あった俺ですがこの度貴族に食客として呼ばれたことを報告をして最後に、変な相槌した輩を締め上げる宴会芸をもって締めさせて頂きます」
『逃げるが勝ちだ』『押すな押すな!』『ここは俺に任せろ』
『まさかお前…』『うわ!俺の肉に酒こぼすなよ』『やっぱ、あいつ悪い奴だ!』
正直、話すのが飽きた。さて、誰からにしようかな。
「みなさーーん緊急依頼です!」
なんだ?せっかくの宴会だというのに、しかも緊急かよ強制参加じゃないか。
「で、内容は」 誰かが言った。
「はい、魔獣行進です、場所はストイルから北東です」
『ストイルかまぁ大丈夫だな』『あぁ、あそこは鬼神が居るかしな』『俺らはまあ補給だな』『というか発生してから依頼とか俺初めてなんだけど』『そうだよないつもなら発生前に叩くのにな』
周りの奴らは先程とはうって変わって冷静に状況を把握していくが、おそらく自分だけ動揺していた。
早く行かないとダメだ、ストイルの北東は俺の実家があるところなんだ、どうする…最速の馬車でも半日は掛かるはずだ。
「よう大変なことになったな、ん?、どうしたジェンなんか難しい顔して」
後ろから騒がしくなったからかノーツが話しかけてきた。
「いやノーツ、ストイルの北東は実家があんだよ」
「そうか……じゃあついてこいよ速いやつを紹介する」
「そうか?助かる」
なんだ速い足って?馬よりも速いっているのか?
俺は若干の疑問を抱えてノーツの後ろをついて行くことにした。
ノーツについて行きながら着いたのは何処かの家のようで、上の方を見ると看板があり、看板には【アトの配達屋】とある、どうやらここは配達を請け負う店の様だと分かる。
「アトー、邪魔するよ〜」 ノーツはまるで常連のように店に入っていく。もう夜だが店はやっているのだろうか。店の中にはカウンターが入口の正面にありその上にはベルの様なもの、カウンターの奥には扉があるそれだけの部屋であり他には家具すらない。
ノーツはカウンターに置いてあるベルを鳴らす。
すると奥の扉がすぐに開く。
「はーい配達ですねって、ノ、ノーツさん!?」
「おう速達だ最速で頼むよ」
「えっと、それだと明日朝一ということですか?」
「いや、今すぐ、頼むこの通りだ」
ノーツは土下座までして頼み込んでいる。いや頼んでくれるのは嬉しいがだからどうしたというか、馬でも借りるとかなのだろうがそれでも遅いものは遅い、馬ではとても間に合う距離じゃない。
「あの、後ろの方が何かあるんですよね、理由を聞かせていただけたり…」
「そうだな、こいつはジェンっていって魔獣進行で今すぐにでもストイルの北東に行かないと行けないんだよ」
「あっそういう事なんですね分かりました、任せてください!」
なんか、すんなりいったがいいのか?こういうことって。
「いいのか?」
「はい!私とリウならストイルなんてひとっ飛びです!それにノーツさんの頼みとなればそれはもう!」
「リウ?」
「ああ、そうですよねリウはノーツさんのクロウさんと同じ従魔でして大きい鳥の魔物なんです」
なるほど鳥の魔物、ノーツの知り合いは凄いな、普段はそのデカい鳥で素早く配達するって事か。
「ではリウを連れて来ますので外で待っていてください」
「ああ、たすかる」
外に出た俺たちはアトとリウを待ったが、すぐに俺より二回りはデカい鳥に乗ったアトが来た。2階の窓まで届きそうだな。
「ではジェンさんどうぞ」
とアトが言いリウの背中を叩きここに乗るようにと示す。
一瞬どこに?と思ったが、しっかり鞍が付いていることに気付いた。すぐに飛び乗った俺はふと疑問に思う、それは一緒に来たノーツが乗る気の無いというところなのだが。というより乗るスペースがもう無いようだと今更ながらなに気づく。
「これ、ノーツ乗れなくね?」
「そうですよ」
「あら、ジェンくん僕と一緒に行きたかったの?嬉しいなぁ、でもごめんねもう僕にはクロウという相棒がいるんだ、だからごめんね、僕らも急ぐからさ」
少し気に触る言い方をするノーツに多少の嫌気がした。
「アト、早く出していいぞ」
「はい!行くよリウ!」
アトの合図と共にリウは高く飛び上がり、今まで見慣れていた街の見たことない景色でどんどん小さくなっていく。
「じゃーなージェーン!生きてたらまた会おうなー!」
生きてたら…冒険者なんてやっていればよくある話だ、数日前まで一緒に飲んで騒いでいたやつが居なくなるただそれだけの事、それだけの事だと、割り切るしかない、それが出来ないまともな頭では、やっていけない世界だと俺はとてつもなく広く見えている世界に多少の全能感を感じ、当たり前のことを確認するように考えていた。
ありがとうございます