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負社員  作者: 葵むらさき
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第73話 スゲー・ヤバイ等は使用せず色・形・大きさ等の物理量で報告しましょう

「スサ」伊勢は叫んだ。「起きたか」

「あー」寝ぼけたような声が答える。「ヨリシロ、ダメんなった」

「遅いからだろうが、お前が」伊勢は怒った。「何やってたんだ」

「駄目にはなってないよ」鹿島が言葉を挟む。「宗像さんと俺が、ギリギリで酸素補給したから。気を失ってるだけだ」

「ホント?」声は光を得たかのように明るくなった。「じゃまだウゴかせる?」

「ああ……けど応急処置ぐらいはしてやらないとな……ああ、けどこの依代じゃ無理だよなあ」鹿島が困った声を出す。「後の二人の新人くんたち、入って来れるかな。この空洞に」

「あまつんと酒林さんはどこら辺を走ってるんだ? エビッさん」大山が問いかける。

「もうすぐ近くまで行く」恵比寿はPC画面を睨んだまま答える。「彼らの依代もシアノバクテリアを使いますか?」

 その問いに、最初誰も答えずにいた。

「あ、えと鹿島さん、あまつん達も、シアノバクテリアの中に入ってもらい、ますか」大山がどこかぎこちなく問い直す。

「ん、ああ、それでもいいよ」鹿島が答える。

「君は、誰?」その時届いた声――声、なのだろうか、それとも――


 ずず

 ず

 ずずず


 岩の、滑り、擦れる、音――? いずれにしても、神たちは一斉に瞬きすら忘れ、その場に凍りつくように立ちすくんだ。ただ一人、たった今目覚めた新参者を除いて。

「ん、オレ?」新参者は訊き返した。「スサノヲ」

「スサノオ?」地球もまた訊き返した。「あれ、でも違うよね?」

「ナニが?」新参者もまた訊き返す。

「こっちの、スサノオ――」地球は今まで会話をかわしていた別の存在、古参者を比喩的に顧みた。古参者はむすっと拗ねたように黙り込んでいる。

「てことは、君……今現れた君が、神の仲間のスサノオなのか」

「ふざけんな」古参者の方が怒りの声を挙げた。「スサノオは俺だ」

「君は出現物でしょ」地球は確認した。「マヨイガとかと同じ類の」

「あんなわけのわかんねえ奴と一緒にするな」古参者はますますいきり立った。

「ケンカするなよ」新参者がなだめる。

「お前のせいだろ」古参者は追い被せるように言い募った。「お前がスサノオだとかなんとか嘘っぱちの名を名乗るから」

「ウソじゃない」新参者は言い張った。「オレはスサノヲだ」

「証拠でもあんのかよ」古参者はクレームをつける。「証拠を見せてみろ」

「わかった」新参者は気軽に答えた。

 そしてその後しばらくは、何の物音も、誰の喋る声も聞えてこなかった。

「おい」古参者が低く呼びかける。「人の話聞いてたのか、ニセ者野郎」


 ごろごろごろ


 小さく、遠くから地響きが聞えてきた。


     ◇◆◇


「この辺りか」酒林が海底ケーブルから飛び出す。

「今はもうあっち行ったりこっち行ったりしてないみたいすね、空洞」天津も続く。

「うん。安定してる……っていうのか」酒林はただちに海洋地殻の中に染み入るようにもぐりこんでいく。

「出現物は出て来てるのかな」天津も続きながら懸念を口にする。「ずい分と妨害を試みてたみたいだけど」

「んー」酒林は少し考え「さっき、親父の奴が起きただろ」

「親父――スサノオノミコト?」天津は確認する。光に乗っていながらも、二人にその声は届いていたのだ。

「うん。あれで、マヨイガの奴も大人しくなってるな……様子見してんのかな」

「なるほど」天津は頷いた。「で、今ごろごろ振動音が聞えてきてるこれ、は」

「……」その問いには酒林もすぐに答えることができずにいた。「何だろ」


 ごろごろごろごろ

 ごろんごろんごろんごろん


「なんか」天津は茫然と呟いた。「数、増えてない?」


     ◇◆◇


「えーと?」伊勢は眉根を寄せた。「何を持ってきた? スサ」

「イワ」答えは明瞭だった。「サワったらシぬやつ」

「赤岩か」神たちは一斉に驚愕の声を挙げた。「なんでまた」

「あとマモノでてくるやつ」

「なんでそれまで」神たちは再び驚愕の声を挙げた。

「オレはサワってもシなない」新参者は得意そうに説明した。「マモノのはトチュウでみつけたからツイでにもってきた」

「触っても、ってそりゃ今は依代に入ってないからだろ……あ、そうか依代に入ってなければ岩転がすこともできないわけか」伊勢は呟く。

「オレはコロがせる」新参者はまた得意げに説明する。

「スサだ」大山がため息混じりに言う。

「スサ。やっと起きたのか」

「今まで何やってたんだ。本当に寝てたのか」

「結城君の中で? ていうか何で一般人の体に入るんだよ」

「普通はできないもんだけどな。それができるんだから」

「まあ、やっぱり」神たちは一頻り騒ぎ、そして「スサだ」と声を揃えた。


「誰と話してるの?」地球は新参者に訊いた。

「うちのナカマ」新参者は答えた。

「あんた、神の声は聞えないのか」古参者が地球に訊く。

「聞えないな」地球は答えた。「神たちには私の声が聞えているの?」

「んーと」新参者は確認した。「カスれたコエがキコえてくるって」

「へえ」地球は少し面白そうに言った。「掠れてるんだ」


 ――掠れてるじゃなくて、岩が擦れてる、だよ。

 伊勢は苛立ったため息をついた。

「伊勢君」磯田社長が呼ぶ。「エレベータの保全担当が来てくれたみたいよ。ああ良かった」

「本当ですか」伊勢は依代の声を発声させて喜びを表した。「もう少しで上がれますね」

 ――お前のとこには、行けないかもな。

 そう告げながら、磯田社長に手を貸して彼女を立ち上がらせる。

 ――うまくやれよ。……いや。

 開かないままのドアを見る。

 ――うまくないことは、やるなよ。

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