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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君は百合が嫌い

作者: ゆず

※残酷な描写ありは、あくまでも保険です。

「私さー、自分の名前、嫌い」

「なんで?」

「だってさー、立っても座っても大して美人じゃないし、目立ってもないし」

「歩いたら?」

「……さあ?」

「でもなー。僕は、山奥にひっそり咲いてる●●の方が好きだなー」

「どうして?」

「んー、周りが木とか雑草だから?」

「花があったら?」

「それはそれで。僕の好きな花に変わりはない」

「えー、冷たいなあ。で、やっぱり教えてくれないの? 君の好きな花」

「もちろん。一生教えない」

「えー。……でも、そろそろ諦めたけど、さ」

「気になる?」

「気になる」

「実は、もう今までの僕らの会話の中に出てまーす!」

「えっ⁉︎ うそっ⁉︎ ……記憶しとけば良かったー」

「ざーんねん。まあ、また今度」

「今度、今度って言ってるうちに死んだらどーすんだよー」

「ははは。まあ、それも一興じゃない?」

「……そうかも。まあでも、お早めに。じゃあまた」

「また」


  ☆ ☆


  季節と言うものは、駆け足が過ぎる。

  君が死んだ夏は、脳みそが思考停止している間に過ぎ去った。その次の秋も、冬も、春も。

  頭の中では、君の笑顔だけが笑っている。そんなおかしい頭の隅で、自分を嘲笑する余裕が出来たのは、確か、梅雨も終わりかけの、初夏の頃だったと思う。

  周りの人は、君がいたことなんか忘れて、中間テストの結果のことなんかで盛り上がっていた。

  人間は、学ばない生き物なんだと、その時改めて知った。それは、周りの人だけでなく、もちろんのこと、自分も。

  去年は、結局、君の墓には足を向けられなかった。行ったら、狂っている自分の頭が、今度こそ壊れてしまう気がしたから。

  けれど、今年は、行ける気がした。壊れない気がした。

  だから、花屋さんで、自分が一番好きな花を買った。



  彼女の命日は、七夕の日だ。何故、彼女がその日を選んだのか分からないけれど、確かに、七月七日だ。意味なんて、無いのかもしれないが。


  花と、線香、財布とスマホ。それらを乱雑にまとめ、家を出た。


  君の墓までは、少し遠い。けど、その距離が、逆に頭の整理の時間をくれているようで、むしろ僥倖だったと思う。

  墓に着く頃には、薄ら汗をかいていて、手にした花も少し、しおれてしまったように見えた。

  君の墓は、山沿いのお寺の敷地内にある。けど、具体的な場所までは知らない。端っこから、見ていくしかなかった。こんなに必死になって、「川端」を探したことは、人生において、初めてする体験だった。三十分ほど見続けて、やっと、君の名前が刻まれた「川端」の墓を見つけた。


  花が枯れてしまっているところを見ると、春彼岸以降来ていないのだろうか。今日も命日だが、まだ来ていないようだった。

  僕は、そっとその花を花立から抜いて、買ってきた花を供えた。

  こっそり家の棚から持ってきたライターで、四苦八苦しながら線香に火を点ける。


  ふと、目の端に、落ちていく白い物が見えた。


  そちらを見ると、供えた白い百合の花首が、ぽとり、と、落ちてしまっていた。

  百合は、決して花首が弱い花ではないはずなのだが。

  ……そんなことを思った瞬間、心の底から笑いがこみ上げてきた。自分が、墓地にふさわしくない大きな笑い声を上げている事を恥ずかしいとも思わず、僕は笑い続けた。


  そうか。そうだった。君は、自分の名前が嫌いなんだった。


  一頻り笑ったあと、僕は少し短くなってしまった線香を供えて、花首が落とされた百合を花立から抜き、新聞紙で巻いた。


  いつの間にか、僕の口元には、微かに笑みが浮かんでいた。

  今度は、君が好きだと言っていた、あの花を持ってこよう。僕の名前の花。白色の、蓮の花。


こんにちは、はじめまして。

澄川三希です。


……先に謝ります、大変申し訳ございませんでした。二ヶ月開けたのは、完全な私の怠惰の心によるものです、はい。


取り敢えず、生存報告も兼ねて、短編を上げておきます。

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