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第二話

 夕食の話題はもちろん明日から始まる儀式についてだった。


「いよいよ明日からね。誰がトップバッターなのかしらね。」

 母が言った。


「たぶんダイのやつが最初だと思うよ。」

 僕は言った。


「確かにダイちゃん、小さい時から度胸があったものね。」

 母が言った。


「何ひとごとみたいに言ってんだ。まさか一番をお前諦めたのか?」

 父が言った。


「そんなことないよ。ただ僕の他に一番に飛ぶ奴がいたら、それはダイの奴だろうってだけさ。」

 僕は内心うんざりしていることを隠しながら言った。


「俺が18になった時はなあ......」

 また父のいつもの話が始まった。厳しい条件で儀式を迎えたものの、臆せず一番に飛んだという話だ。


 まったくそれの何が自慢になるのだろうか。そんな風に父の武勇伝が、ただのおっさんの自慢話にすぎないと思いはじめたのはいつの時だろう。昔は聞くたびにどきどきしていたのに。当日は引き潮で、いつもよりも崖から水面の距離は遠く感じられ、すこしずれれば岸辺の岩にうちつけられてしまう。それでも父は飛んだ。幼い時は18歳を迎えたら、自分も絶対そうなるんだ。そう胸に誓っていた。


「本当にかっこよかったわ。あの時のパパは」

 母が目をか輝かせながら言った。 


 だが、最も吐き捨てたくなるのは、父の自慢話よりもそれを称賛する母の姿だった。崖から飛ぶ儀式、それが男の価値を決めるという村のコンセンサスに嫌気がさしているのだ。いかにその儀式を英雄的にクリアするか、そんなくだらないことが将来の社会的立場を決めるのだ。もし、この茶番において敗者とみなされれば、人生に逆転はない。それが村の伝統だった。


「ミイちゃんは今日学校の学校どうだった?」 

 僕は話題を変えようと妹に話をふった。


 妹はまだ儀式のことはあまり興味がなく父の話に飽きていたらしく、僕に尋ねられて嬉しそうだった。学校で友達がけんかしているから早く仲直りしてほしいだとか、いじわるしてくる男子がいるとか、他愛もない話だった。


 だが、それが妹にとっては世界の一大事なのだろう。それは、すばらしいことだと僕は思った。儀式が頭でいっぱいの大人たちや同年代の奴らと比べれば、正常だと思った。いや、それこそが本来の正しい姿じゃないか。そう思った。


 しかし、両親によってまた話題はひきもどされてしまった。


「今年は近年まれにみる引き潮だぞ。」

 父が言った。声には興奮の色が混ざっていた。


「ほんとね。明日飛べば幹部候補間違いなしよ。」

 母も嬉しそうだった。


 明日、息子が飛ぶことに疑念を抱いていない両親の期待と信用が胸に重かった。


「がんばってね。お兄ちゃん。」

 食事終わりに妹が言った。儀式のことがよくわかってなくても、場の空気は読めるようになったのだろうか。邪気の無いその応援には応えたいなあと、自然に感じ、少し胸が軽くなった。


 自分の部屋に戻ると、ベッドの上で横になり、天井を見つめた。さっさと明日飛んでしまおうか。食後の睡魔が襲ってくると、自分の悩みが意味のないものに思えてきた。どんなに儀式がくだらないことでも、それを乗り越えれ家族は喜んでくれるし、自分の将来は約束されるのだ。何を悩む必要がある。


「意味は無い。だが実際的なは効果はある、それが重要なことだ。そうだろう?」

 ダイの言うとおりじゃないか。僕は目を閉じて深呼吸した。自分の余計な思考を追い払うように。

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