その9。
みんなが寝静まった真夜中、シャノワールは領主の屋敷の中へと忍び込むことに成功し、頼まれた不正の証拠とやらを探していた。
屋敷の中はこんな時間だからか明かりが全くないことがほとんどで、たまにろうそくの明かりが小さく灯っているところがあるくらいであった。
そんな中シャノワールが不自由なく歩けているのは、暗い中でも見える夜目を持っているためであった。この夜目は種族の能力である。そのため全く光が入ってこない場所でなければ明るい時間と変わらずに周りを見ることが出来る。
黒姫はどうしているのかと言うともいつもの定位置のシャノワールの頭の上に座って、屋敷の中を見渡していた。
屋敷内の地図はレディから貰っているので、それを参考にして重要な資料などは領主の部屋かその近くにあると予想したシャノワールは一階や二階は全く見ずに三階へと上がって行った。その間人は見かけることなく、上がることが出来た。
途中階段などを進んでいる間、黒姫は声を出さないぞと言うように、両手で口を覆っていた。
(まずは執務室かな。そこに無ければ書斎、最後は寝室って感じかな。出来れば寝室以外のところにあれば気が楽でいいんだけど)
シャノワールが執務室に入ると、何というかよく見るような感じの貴族の仕事部屋という感じであった。特に面白味もなかったので、早く調べてしまおうと机へと向かって行った。残念ながら領主が変わった趣味をしているとかそういう面白いことはなかった。
順番に机の引き出しを開けて行き、最後に鍵のかかったところだけ残った。
(まぁ見られたくないものは普通鍵の掛かるところに入れるよね。私には関係ないことだけれど)
そうして鍵開けをし始めた。シャノワールにかかればこんなことも出来るのであった。もちろんリアルでこんなことをしているわけではなく、すべてアナストの中で学んだことである。主に罠解除というスキルを使えばこのくらいであれば誰でも開けることは出来るであろう。
ゲーム的な補正があるのでおそらくはリアルでは同じようなことは出来ないだろう。まぁアナストの知識をもとに学べば何もしていない人よりかは早く出来るようになるとは思うけれど。
シャノワールはあっという間に鍵を開けて引き出しの中を見た。それを見ていた黒姫はあっ! というような表情をしていた。実際黒姫にとって特に驚くことはないのだが、完全にノリでやっていた。しかし近くにいるシャノワールですら頭に乗っている黒姫の様子は見ることが出来ないので、誰にも何も言ってくれないのが悲しいところであった。
引き出しの中には数枚の紙が入っており、内容は賄賂を渡したというものや少しの税金を懐に入れたというものしかなかった。
こんなことをしていたら、リアルでは大問題となり、領主を止めるどころか捕まってしまうということになっているだろう。しかしここはゲームの世界なのだ。貴族である領主にはこのくらいは当たり前のようにしている人は多く、このくらいのことでは少し叱られて終わるだけであった。
このことがバレてもいちいち民に教えるということはないので、貴族間で終わるのである。
そんなことを知らないシャノワールはその証拠を写真で撮り、また証拠をもとに戻し、引き出しの鍵を閉めて何もなかったように見せた。それを見て黒姫はよしっ! っと指差し確認をしていた。
鍵を開けられるのなら閉めることも出来るというわけである。
シャノワールが使った写真なのだが、プレイヤーであれば誰でも使うことが出来る機能である。イベントのこととなると、すべて覚えるということも難しく、そこは運営が配慮してくれたところであった。
しかし写真も容易にネットに上げることが出来ないので、個人で楽しむか仲間内で楽しむかということしか出来ていなかった。
その後は机以外のところも調べて何もないことがわかったので、次のところへと向かうことにした。一応不正の証拠は見つけたが折角だから他のところも見てみようということにしたのだった。
次向かったのは書斎である。書斎といてもただ机と椅子だけある感じなので、ただ本を読む部屋といった感じが強かった。
(ここで本棚のところが隠し扉になっていたりしたら面白いんだけど、無さそうだね。つまらないなぁ)
ここには特に何か隠していなさそうなので、使えそうな本や資料などの写真を撮ってから、部屋を出たのだった。書斎では黒姫は面白いことはなかったようで、あくびをして退屈そうにしていた。
(あと何かしらあるのなら寝室だろうな、領主ご本人がいるだろうけど、行ってみようか)
そんなわけで寝室へと向かって行った。黒姫は口に人差し指を当てて、しーっとやっており、シャノワールは音を立てずに中に入って、部屋の中の様子を見てみると、
(広い部屋、それにいかにも貴族のお部屋って感じね。いくらくらいかかっているのやら)
その部屋には成人男性が二人ほど横になっても余裕なほど大きなベッドがあり、そんな大きなベッドがあるにも関わらず、他には机などもあって、まだ余裕があるというほど大きな部屋であった。
ベッドの上には男性が一人寝ているがこの人がこの街の領主である。
シャノワールは起こさないように細心の注意を払い、まずは机を調べた。しかし何も見つけることは出来なかった。
(んー、隠し扉もなさそうだし、他にあるとしたらあそこかな? 自分の部屋で隠すとしたらベッドの下が定番よね)
起こさないように静かに進んで行き、ベッドまで辿り着く。そしてベッドを一周しながら怪しいところを見ていった。
すると一か所仕掛けがあることに気が付き、そこを開けてみると何枚かの紙が入っていた。ちなみにシャノワールの頭の上ではさっきと同じような顔で驚いている表情をした小さな女の子の姿があったと言っておく。その紙をさっきと同じようにすべて写真で撮るとそっともとの位置に戻し、何もなかったかのように戻したのだった。
その後シャノワールはこの屋敷でする用は済んだと思い、帰ることにした。帰りも同じように見つからないようにしないといけない。
一階まで降りると角を曲がったところに一人誰かがいることがわかり、居なくなるまで潜んでいたことを除けば、帰りも何もなく順調に行くことが出来た。
そしてそのまま屋敷を出て、庭を通り、壁を越えて、無事誰にもバレることなく終わったのであった。ちなみに黒姫は行きと同じようなことをしていたのだった。
終始黒姫の行動を見る人はいないまま、終わってしまったのであった。
「ふぅ」
「何やり切った感出しているのよ。黒姫は何もしていなかったでしょ」
「ちゃんと頑張って雰囲気作りしていたのに」
「何それ」
仕事が終わった後まだ朝にはならないので、先に取っていた宿へと戻り、部屋の中で黒姫と話ながら情報をまとめていた。今まとめているのはメッセージに送るもので、ベッドの下にあったものの写真はすでに一人に送っていた。
街が一つ欲しいということで参考にするためである。これについては追々話をしていくことにする。
そうして朝となり、居るかどうかわからないけれど、とりあえずギルドへと向かってレディを待つことにした。
シャノワールがギルドで待つこと数十分、やっとレディが冒険者ギルドに現れたのであった。すぐに用件がわかったのか、ギルドの個室を取って入って行った。シャノワールはいつも通り大人しく付いて行くだけである。
「それで何かわかった?」
「まぁね。えっと、はい」
シャノワールは執務室で見つけたものの写真だけをレディに送った。それを確認したレディはというと、
「これだけ? 他に何もなかったわけ?」
「なかったですよ。まぁ普通証拠となるものは残しておかないとは思いますけど」
「それもそうね。わかったわ、今回の依頼は達成ということで、これは報酬よ。また何かあったらお願いするわね」
「はい」
やることは終えたとばかりにレディはお金を渡すと部屋を出て行ってしまった。
「次があるかわからないけどねぇ。報酬ももっともらえてもいいと思うのだけど、こんなんじゃお金で動く人も動かせないね」
「やっぱりやっちゃえばよかったんじゃない?」
「まぁいずれやることになるかもしれないね。もうここは面倒だから次の街でも目指そうかな」
「新しい街ね。もっと面白いことがあればいいのだけれど」
こうして次の予定を立て終えたシャノワールはギルドを出て、次の街に向かうために行動し始めたのだった。