その7。
冒険者ギルドを出たシャノワールは教えてもらった通りに右に行き、薬屋でポーションを買って、再び街の外へと来ていた。
ポーションはHPを回復させるアイテムで、他にもMPポーションや解毒ポーションなどもある。さらに同じような種類のアイテムでも等級ごとにも分けられており、ポーションだと下級、中級、上級となっている。
シャノワールには所持金のこともあって下級ポーションを一本しか買うことは出来なかったが、まだ最大HPも低いため下級で十分なのである。具体的にはその一本で最大HP以上回復することが出来てしまう。
ギルドの登録料と街の地図、そして購入したポーションのせいで所持金が無くなってしまったので、適当にモンスターを倒してお金を稼ごうということであった。
街の周りの様子はジャルカからこの街まで山脈沿いに進んで来たので、西から北にかけて山脈があるので、そこは変わらずモンスターのレベルも高くなっている。しかし北に行くほどその山脈の標高も低くなっているので、これ以上北へ行くとプレイヤー同士の争いも多くなっている。
南や東の方は森が広がっており、ここら辺は森が多いことがわかる。逆に森しかないとも言えるのであるが。
シャノワールは黒百合に乗って一気に走って来たのでどんなモンスターが出て来るのかはわかっていない。しかし本人は散々アナストでモンスターを倒してきているので、調べなくても大丈夫だと思っているのだった。これまでやってきたことに対しての自信である。
ということでシャノワールは街の南側へと来ていた。この場所に出て来るモンスターは角の生えた兎はもちろんのこと、狼系、猪系のモンスターも出て来る。どちらも角兎よりもHP、攻撃力、速さのどれもが高くなっている。
その分経験値も多くなっているということなのだが、油断していると簡単に倒されてしまう相手でもある。
「大丈夫だとは思うけど、黒姫は危なそうだったら手伝ってね」
「わかったわ」
シャノワールは黒姫に一言言ってから、森の中を探索し始めた。
歩いていると、三体のモンスターが近くにいることがわかった。それがわかると、気配を消して気づかれないように近づいて行った。姿をとらえるとそこにいたのは狼のモンスターで大きさは大型犬くらいで灰色の毛並みをしていた。
シャノワールくらいのレベルのスキルを持っていると、音や匂いなども相手にわからせないようにすることが出来る。それもスキルレベルが低くて心配になるのだが、今回は大丈夫だったようで、
(狼が三体、始めに一体の動きを止めて、一体を倒して、もう一体は普通に戦うって感じかな)
軽く作戦を決めたシャノワールは行動を開始した。
まず、気づかれないようにある程度近づいていたので、一体に向かって縮地を使い、すぐ後ろへと移動した。それと同時にもう一体には影操作を使って、影でその動きを封じたのだった。
突然近くにシャノワールが現れたことに驚いた狼たちは何も出来ずに、一体はシャノワールに首を切られて死に、もう一体は影によって身動きが取れなくなっていた。
最後の一体は仲間が二人攻撃されてようやく動けるようになり、少し下がり態勢を低くして警戒し始めた。仲間が一体やられてもう一体は捕らわれていることから逃げるということはしないようだ。
(作戦通りにだね。先に仕掛けるのもいいけど、どうしよっか)
少しの間どちらも動くことなくお互いに見ていたのだが、動かないことがわかったので先にシャノワールが動いた。走って距離を詰めていくと、狼はその動きに合わせて飛び掛かってきた。
するとその飛び掛かってきた位置がちょうどいいところだったようで、シャノワールは走っている勢いのまま足を上げて、狼の顔目掛けて蹴りを放った。
飛び掛かった狼の方も宙にいることから咄嗟の行動が出来ずに、綺麗に蹴り飛ばされてしまい、近くの木に身体を打ち付けた。
その後は狼が起き上がって来る前に近づいて血喰らいを突き刺して止めを刺した。
さて最後に残った影に拘束されている狼だが、変わらず抜け出すことが出来ずにいた。影を動かすのは魔法みたいなものなのでMPを消費するのだが、使っているのが短時間だったこともあり、それほど多くのMPを使うことはなかった。
「これくらいであれば大丈夫だけど、これ以上の場合だと私のレベルを上げるか、黒姫に手伝ってもらわないとだめそうだね」
「いつでも手伝うからその時はちゃんと言ってよね」
「わかっているよ」
こうして最後の一体も倒し、戦闘を終えたのだった。狼たちのドロップアイテムは牙と皮であった。
このゲームではアイテムをしまう時にメニューにあるアイテムボックスを使うことで、収納しておくことが出来る。しかし入れられる量には限界があるため、それ以上の物を持ちたい時には、それ用の鞄などを持つことで対応できるというわけである。
ほとんどの荷物を持っていないシャノワールは手に入れたドロップアイテムはアイテムボックスに入れている。持ち物は少ないので当分は鞄を持たなくても大丈夫であろう。
「しかしレベルは上がらないままか。そろそろ上がってくれてもいいと思うのだけど。まぁ仕方がないか」
これまで角兎を何体も倒し、狼を三体倒したシャノワールであったが、まだプレイヤーレベルは上がっていなかった。これにはモンスターを倒した時の経験値がシャノワール、黒姫、黒百合で三等分されているからである。
これは契約して常に一緒に行動することになるので、自動で三等分されるためどうするすることも出来ない。
契約すると一人でも一緒に戦ってくれる仲間が増えるというメリットがあるが、レベルが上がりにくいというデメリットもあるというわけである。シャノワールにとっては大切な仲間なのでどんなデメリットがあろうとも、離れることはないのだが少し愚痴を言うくらいなら許されるだろう。
プレイヤーレベルもスキルレベルも上がりにくいシャノワールだが、どちらにしても多くのモンスターを狩ることには変わらないと気持ちを切り替えて、モンスターを探して森の中を歩いて行った。
狼を倒したりしながら森の中を歩いていると、今度は猪のモンスターを見つけた。しかも今回は運が悪く、初めからシャノワールに気が付いていた。シャノワールも常に気配遮断をしているわけではないので、こういうこともあるのだ。
猪はシャノワールの腰の位置よりも高い大きさの身体をしており、まともに突進を食らえば簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。
しかしシャノワールは焦ることはなく、猪らしく真っすぐに突っ込んでくるので、それを横に跳んで避け、引き抜いていた血喰らいで後ろ脚を切り付けた。その一撃で動きが鈍くなったので後はもはや作業だった。
無駄にHPが多かったということもあり、何度か切り付けることでようやく倒すことが出来たのだった。武器が短刀ということもあり、一撃で倒すことが出来ないためどうしても倒すまでに時間が掛かってしまう。
それでも楽に倒すことが出来るモンスターで経験値になるので、これからも見つけたら積極的に倒すことにしたのであった。
そうして数時間森で狩りをしていたが、一回ログアウトして休憩することにした。ログアウトするには一番安全なのは宿を取ることなので、それに従い街に戻ってギルドへと向かった。
忘れてはいけないがシャノワールは絶賛金欠中なのである。そしてギルドで手に入れたものをすべて売却し、無事お金を手に入れることが出来たのだった。ギルドではシャノワールに絡んでくるものはいなく、あの女性の力なのかと思いもしたが、
(どうでもいいか)
と考えることをやめたのだった。
ギルドを出た後はシャノワールは適当な宿屋を見つけて、そこで部屋を取り、ログアウトしていったのであった。