その11。
山を越えようと進み続けているシャノワールであったが、その後も白猿に何度か出会い戦闘を繰り返していた。変わらず楽に倒すことが出来て、今のレベル的にも経験値は美味しいので助かっていた。
そして白猿からの襲撃が少なくなり始めた頃に新しいモンスターが現れたのだった。とは言っても、
「また猿ね」
「猿だねぇ」
現れたのは白猿と比べて一回り大きい灰色の猿だったのだ。爪も鋭く、力も強そうなのでその強さも白猿よりも強いことはすぐにわかるほどである。
「ここは猿山なのかな? ということはどこかにボス猿でもいるかもね」
そんな呑気なことを言っているのだが、灰猿に対して警戒をO-Hに来てから一番していたのだった。白猿でもシャノワール一人だとやられることはないが、倒すのに時間が掛かることはわかっていた。
そのため白猿よりも強いであろう灰猿には、下手をすると負ける可能性もあるということであった。
灰猿の姿を捉えると同時にシャノワールは自分に素早さのバフを掛けて、黒姫はデバフを掛けており、黒百合も油断することなく警戒をしていた。
灰猿には遠距離での攻撃手段はないようで、周りの木の上を移動していたのだが、そのままではらちが明かないと思ったのか、上から攻撃をしながら降りて来たのだった。
その動きが思ったよりも速く、シャノワールは咄嗟に避けたのだが反撃をすることは出来ないでいた。しかしそれに合わせて動いたのが黒百合で、灰猿が着地すると同時に爪での攻撃を繰り出した。
その攻撃を灰猿は吹き飛ばされながらも防ぎ切ったようで、あまりダメージはないようであった。
「これは思ったよりも大変そうだね。黒百合、影魔法を使っていいよ」
シャノワールは制限していたことを止めて使って戦うことにした。シャノワールの言葉を聞いた黒百合はすぐに近くの影に入り込んだ。
それを見ていた灰猿は突然いなくなった黒百合を探すように周りを見渡していたが、見つけることは出来ないようで、少しすると黒百合のことは諦めたようでシャノワールをにらみつけてきた。
シャノワールの方は腰から血喰らいと夜宵を引き抜いて構えていた。今まで血喰らいしか使ってこなかったが、本来の戦いかた二刀流で絶え間のない攻撃がシャノワールの真骨頂である。真正面からの戦闘の話だけなのだけど。
今度はシャノワールから距離を詰めて攻撃をし始めた。シャノワールは両手に持っている二振りを使いながらも止まることなく攻撃をしていた。
そんなシャノワールの攻撃に灰猿は捌ききることは出来ずにいくつもの切り傷が出来ていたが、それでも致命的な攻撃は受けることはなく、反撃の機会を伺っていたのだった。
もちろんそんなことはシャノワールもわかっているので、なるべく灰猿に反撃の機会を与えることなく、動きを制限しながら攻撃を繰り出していた。灰猿が距離を取ろうとしてもそれを読んですぐに距離を詰め、一定以上の距離を開けないようにしていたり、反撃をしようとして腕を動かした時にはそれを事前に阻止して思うように動けないようにしていたりしたのだった。
それだけのことが出来るのはアナストで多くの戦闘をこなしてきたからこそ出来る芸当であった。
普通この灰猿に対してここまで戦うにはプレイヤー、スキルのレベルもさらに上げて、対策をしないと出来ないことである。足場も決して良いとは言えない場所で、周りには木々もたくさんある。灰猿にとってホームでプレイヤーにとってはアウェーな環境である。
それを強いスキルを持っているとはいえ、灰猿と対等に戦えているのはこれまで培ってきた技術によるものが大きかった。しかもまだ使っていないスキルも多いので、全力で戦えば灰猿を倒すことは苦にならずに倒すことが出来るであろう。
シャノワールがそれをしない理由としては、自身のMPがまだ少なく長時間できないのと、まだまだ山越えは始まってすらいないのに今使っては後が厳しいことになるとわかっているからである。
それと黒姫と黒百合のことをちゃんと仲間だと思っているからであった。一人で倒してもそれは二人のことを頼っていないことになるので、それではだめだと思い協力して戦うようにしているのであった。
とは言ってもまだ黒姫は付与魔法しか使っていないが、これだけでも全然違ってくるのである。
シャノワールが攻め続け、灰猿が守り続けるという状況が続いているが、その拮抗していそうに見える攻防にも終わりが来た。
灰猿がシャノワールだけに集中し戦っているところで、黒百合が影から出てきて、噛みついたのだった。黒百合のことを完全に忘れていた灰猿は反応できずにまともに攻撃を食らってしまった。
噛みつかれた灰猿は暴れるが黒百合から離れることが出来ず、噛みつかれたままである。そのままにしておくのも黒百合が大変だと思ったシャノワールはすぐに近づいて行き止めを刺したのだった。
灰猿はHPを無くし、地面に倒れその姿を消していったのであった。
「終わったー!」
「お疲れ様」
「おつかれー。黒百合もおつかれ。これからはこの猿が出て来るとなると、時間が掛かりそうだね。見つからないように進む方がいいのかな?」
「そうね。勝てることはわかったけれど、このペースだと山を越えるのに日を跨ぐかもしれないわね」
「だよねー。もう一気に進んじゃおうか。レベル上げは後でにしよう」
そんなわけで隠密系のスキルを使って進んで行くことにしたのだった。黒姫はスキルを使わずに相手から認識されないように出来るし、黒百合は隠密系のスキルがあるため容易にはシャノワールの位置はモンスターたちにはわからない。
それを利用してモンスターに見つからないように、一気に山越えをしようということであった。
さっきの灰猿の様子からも黒百合の位置がわからなくなっていたため、この方法が使えると判断したのだった。
気配を消して進み、途中見つけたモンスターは気づかれないように急所を一刺しする方法で倒していった。モンスターにもHPがあるのだが、頭や首を切られる攻撃はHP関係なく倒すことが出来る。
急所を攻撃するのもただ攻撃するだけではなく、きちんと狙って攻撃しないといけないのだが、シャノワールにとっては当たり前のように攻撃できるので、失敗することはなかった。
そうしてモンスターを暗殺しながら進んでいると、レベルも上がり、時間も取られることもないので、この場では一番良い進み方であった。
そんなやり方で山を登りながら進んでいる。道というものはないので通れそうなところを選んで進むこととなる。普通登るだけでも大変なのだか、そこはゲームでモンスターが出て来ることを配慮しているのか、登るだけであればそこまで大変ではなかった。
これはシャノワールにとってなので他のプレイヤーも同じだということはなく、フルプレートを装備している人にとっては大変だろうし、ひらひらした服を着ている人は引っかかったりして大変であろう。
その点シャノワールはマントを着ているが、慣れたように進んでいるのでここでも経験の差を感じられる進み方であった。比べる人はいないのだが。
一番初めの方が嘘のように進んで行き、あっという間に山の頂点付近に辿り着くことが出来たのだった。それに加えてレベルも上がっており、満足できる結果だった。
「さて、後は山を下るだけだといいんだけど、そう簡単にはいかないよね」
シャノワールの言う通り、頂上には一体のモンスターがいたのだった。遠回りしていけるようなところは無く、そのモンスターを倒さないと先へと進めないようであった。
「まさしく猿山のボス猿って言う風格だね。これは全力で戦わないとまずいかなぁ」
「様子を見てだめそうだったら全力で戦わないといけないわね。今のシャノは弱いから」
引き返すという選択はないので戦うしかない。こうしてシャノワールはO-Hで初めてのボスモンスターとの対面だったのであった。




