その10。
現在シャノワールがいる、ロクキンヌという名前の街なのだが、街の名前はシャノワールが領主の屋敷の中にあった資料から知ることが出来た。ロクキンヌいると、またレディが面倒なことを頼んできそうだと思ったので、この街から出て行くことに決めた。
そのためにも足りない必要なものを買わないといけない。今までは楽な戦闘ばかりで派手な戦闘が無かったり、強いモンスターと出会わなかったりしていたので、特に必要に感じるものはなかったが、これからも同じだとは思わない。
少なくともポーション系はHPとMPを回復させるポーションは買っておかないといけないだろう。
というわけでシャノワールはギルドを出た後は、薬屋に寄って買い物をしていた。
「えーっと、HPとMPは必須で数本買うとして、毒系は耐性があるけどレベルがまだ低いからどうするかな。依頼料は貰ったけどそれほど多くはなかったからなぁ」
結局、ポーション、MPポーションを数本ずつ買い、解毒などの他のポーションは買わなかった。耐性もあることだし、その上で状態異常に掛かったのであれば買える程度のものでは治すことは出来ないだろうと考えたのだった。
次に向かったのは武器屋である。メイン武器は変えるつもりなど全くないので、そこでは投擲用のナイフを数セットだけを買って店を出た。
「他に必要なものは特に思い付かないし、もういこっか」
「忘れ物はない?」
「黒姫、忘れ物というのは思い出した時に忘れ物になるんだよ」
「つまり?」
「つまり現状では何も思い付かないから忘れ物はないとしか言えないということかな」
「面倒くさいわね。それでどこへ行くの?」
黒姫の質問に対して少し考え、すぐに決まったようで、
「山脈の向こう側に行きたいね。まだ今いる勢力の名前すらわからないけどここの勢力とは違う勢力の方に行ってみたいから」
「今のシャノでも超えることは出来るのかしら?」
「不安はあるし行けそうなところを行くことにするけど、黒姫と黒百合がいるから大丈夫でしょ。だめだったら他のところに変更するだけだしね」
こうして次の目的地が決まったのであった。山脈の向こう側というざっくりとしたものではあるのだけれど。
シャノワールは北の門を通って山脈の方へと向かって行った。それから街からある程度離れたところで影の中から黒百合を外へと出す。
すると黒百合はすぐに甘えるように尻尾を振りながらもシャノワールに身体をすり寄せて来た。それに応えるようにシャノワールも黒百合の首元を撫でてやると、さらに尻尾の振りが速くなるのであった。
そんな様子をシャノワールの頭の上で見ていた黒姫の頬が膨らんでいたのだが、誰にも気づかれることはなかった。
「ここらでレベルを上げておきたいから、今回は黒百合に乗って一気に進むのはなしで行こうと思う。後は現れるモンスターも強いらしいから、二人は援護よろしくね」
「わかったわ」
黒姫は大きく頷き、黒百合はシャノワールの横に立つことで同意をした。
「さてと、それじゃあ行こうか」
そうしてシャノワールは山に向かって進み始めたのだった。
ほどなくしてすぐにモンスターが現れた。そのモンスターは真っ白な身体をした猿の姿をしていたのだった。
「シャノとおそろいね」
「あんなのと一緒にしないでよ。それに私は狐だから」
「それもそうね」
「でもやっぱり感知系のスキルが低いとやりにくいな。範囲だけで言えばあの猿の方が広そうだし、これは戦いを避けて進むというのは出来なさそうかな」
「百合にも逃げないものね。だけど隠密系を使えば違うと思うけれど」
「そっか。それじゃあこれからは黒百合には隠密系のスキルレベルを上げてもらって、私は向かって来るモンスターを倒してプレイヤーレベルを上げることを頑張ろうかね。向こうから来てくれるのであれば、手間が省けることだし」
黒姫と軽口を叩きながらも警戒を怠らないようにしているシャノワールだったが、そんな様子に待ちきれなくなったのか、白猿の方からシャノワール襲ってきた。
「わざわざ木から降りてくれるなんて、随分と優しいね」
上から降りてくる白猿の攻撃を避けると同時に引き抜いていた血喰らいで一閃した。しかし切ったのが胴体だったこともあって、あまりダメージはなかったようで、すぐに離れて距離を取られてしまった。
ちょうどそのタイミングで黒百合が白猿に向かって飛び掛かり、首元にかみついた。白猿は暴れるが黒百合を振りほどくことは出来ず、その間にシャノワールが近づいて行き、白猿に止めを刺したのであった。
「んー、やっぱり私一人だと時間が掛かりそうだね。今度からは黒姫にも手伝ってもらうね」
「わかったわ。私に任せなさい!」
相変わらず胸を張っている姿は誰にも見られることはなかったのだった。
少し進むとまた白猿が現れた。シャノワールも来ることがわかっているため不意打ちを受けることはないが、相手の方が早くこちらを見つけるので仲間を集めるかもしれなかった。そうなるとものすごく面倒なことになるが、それは今のところはないようだった。
今回も一体だけであった。姿が確認できると、まず黒姫が白猿に魔法を使った。付与魔法の中の相手の能力を確率で下げるもので、自分のよりもレベルが高いほどその確率は低くなり、低いほど高くなるというものだ。俗に言うデバフというやつである。
それにスキルレベルが高いほど掛ける効果も高く、効果時間が長くなってくる。
しかし精霊、しかも始祖精霊である黒姫にはそんなことは関係なく高い確率で能力低下を掛けることが出来るのであった。効果の方もプレイヤーと違っている。
デバフを掛けられた白猿は力、防御力、速さなどのすべてが下がり、弱くなっているので、それからはさっきと同じようにシャノワールと黒百合が協力して倒していくだけである。
ちなみにシャノワールも付与魔法を持っているが、これは黒姫のと違いレベルも低く、シャノワールのプレイヤーレベルも低いため例え白猿に使っても効くことはないだろう。
そのことがわかっているシャノワールは、戦闘が始まる前から自分に対して使っていた。効果は素早さだけを上げるものだけである。これがバフというものである。他にも色々と効果があるものはあるのだが、それを使うたびにMPを消費するので今のシャノワールのMPでは多くのものを使っていると、MPがすぐに底をついてしまうため使うことが出来なかった。
デバフの方も消費するMPは効果を増やすたびに多くなるのだが、黒姫は特別でMPも多くこれくらいは問題なかった。
シャノワールの付与魔法ではそこまで効果はないのだが、スキルレベルを上げて効果を高めたいので少しずつであるが使っていくことにしているのだ。
シャノワールが距離を詰めて、近距離での攻撃を繰り返し、白猿が距離を取ると黒百合がその素早さで先回りして攻撃をする。白猿からしてみたら休む時間が無く攻撃を繰り返されるのでたまったものではない。
しかもいつもよりも能力が下がり動きにくくなっている上に、攻撃の一つ一つがまともに受けてはいけないものなのだから、最悪と言っていいほどであろう。
そうして三人で協力して戦うことで楽に倒すことが出来たのであった。
とにかくシャノワールたちのレベルが低いことが問題なので、まだ奥の方へと進むことはしないで、レベルが上がるまではこの辺でモンスターを倒すことにした。
そうして適当に歩くこと数十分、その間何体もの白猿が襲ってきたのだが、さっきと同じようにシャノワール、黒姫、黒百合の三人で協力して倒していったので、特に疲労した様子もなく戦闘を続けられていたのだった。
そして目標としていたレベルが上がったことで、少しずつ慎重に奥の方へと進み、山越えを目指すことにしたのであった。




