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白狐の自由な旅路  作者: 猫宮るな
1/12

その1。

よろしくお願いいたします。

「HP、二割切った!」


「回避から一気に畳みかけるぞ!」


「うん!」


 とある洞窟の最奥、その中は水晶の光が辺りを明るく灯っている。部屋全体に大きなものから小さいものまであるが、眩しさを感じさせない明るさである。


 その部屋では一体の大きなモンスターが暴れまわっていた。そのモンスターはこの世界の中で一番強いと言われており、一般的な常識としてはほとんどの人が倒すことの出来るモンスターではないという認識だった。実際、この世界の中でも強い部類に入る人たちでも簡単には倒すことが出来ないだけではなく、その強さに敗れてしまうということもほとんどのことであり、もし一回だけでも倒すことが出来たらそれは周りに自慢しまくっても良いほどのことであった。


 しかし現在そのモンスターと戦っている八人にとってはどれだけ早く倒せるかという認識でしかなかった。


 その証拠に高い位置にあるモンスターの顔の方では高威力の魔法が二人によって絶え間なく放たれ、中には巨大な弓矢を持って攻撃している者もいる。その下では大剣や両手にそれぞれ大きな斧を持っている者たちがその武器を振り回しながら攻撃を繰り返している。


 それぞれの一回一回の攻撃がモンスターに少なくないダメージを与えることが出来ており、その攻撃力がすごく高いことがわかる。


 そんな中これだけでもおかしいことなのだが、普通ではおかしいと言えることが他にもあった。周りにいる仲間たちに付与魔法を使ったり回復をしたりしている聖職者のような女性とアンデットたちを呼び出して操っている男性が並んで倒せる立ち協力して戦闘を行っていることである。本来であれば宿敵というか天敵のような感じの関係性であるのが一般的なことなのだが、不思議なことにその二人は慣れた様子で協力しているようであった。


 そして攻撃が激しく飛び交っている激しい戦闘の中、モンスターだけでなく仲間たちからの攻撃も当たらないように動きながらも、地面なんか関係ないとばかりに移動し攻撃を繰り返している少女もいた。少女は後ろにも目が付いているのかのように、振り向きもせずに避けてみせたり、何もないようなところを蹴って空中を駆け回ったりもしていた。


 この部屋で戦っている中の誰もが普通の人とは言えないようなことをしているのだが、その中でも空中を駆け回っている少女が一番、人を辞めているような動きをしていると言えるであろう。


 そうしてどんどんとモンスターのHPは削れていき、そして戦い初めた頃には五本ほどあったHPのバーはあっという間に全て消え去ってしまった。HPが無くなり動きを止めたモンスターはその身体を真っ白にさせて消えていった。終わってみれば終始そのモンスターは自由に動くことはさせてもらえることなく、その姿を消したのであった。


「おつかれー」


「今回はどのくらいだった?」


「最速タイムが出ましたよ!」


「本当!? やった! 最後に最速更新できて良かったー!」


「話はこの後の飯の時にでもしようぜ。時間はまだあるけど早く行きたいからな」


「もう少し喜んでいてもいいじゃないか!!」


 こうしていつも通りに楽しそうにしているが、この世界はもうすぐ終わってしまうのだ。この世界、アナザーワールドストーリーという名のゲームの世界が。


 アナザーワールドストーリー、略してアワストだが、このゲームはリアルと同じように身体を動かしてゲームをプレイすることが出来るVRMMORPGというものである。ファンタジー世界をモンスターを倒してレベルを上げて冒険していくというものである。そんなゲームだったのだがサービス開始から何年もの時間が経ち、本日をもって終了してしまうのだ。


 今日はサービス開始当初からずっとプレイしてきて他のゲームにも移って行かずこのゲームだけを遊んで来たようなトッププレイヤーの全員が集まってこうして最後の時を一緒に過ごすことにしたのであった。


 最後の日である今日の予定はラスボスのモンスターを倒した後は持っているお金を全て使ってご飯を食べることになっている。昔からの行きつけのお食事処である。NPCの人が営んでいるお店だが、とても美味しくずっと前から彼らが通っているところであった。どれだけ高いものを頼んでもどうせ明日には全て消えてしまって何も残らないのだ、お金を持っていてもしょうがないということで使いまくって散財しようとみんなで決めたことだった。


 他のプレイヤーたちも最後ということで今までログインしていなかったプレイヤーたちも戻って来てログインしているので、今日はいつもログインしている数よりもはるかに多くのプレイヤーたちがアワストにログインしている。


 そんな最後の日である今日このメンバーだけで集まることが出来たのは、すでにそれ以外のプレイヤーたちとは別れを済ませているからであった。このメンバーは時には争い敵対したこともあるが、良い仲間でありライバルでもある特別な存在だった他にも理由はあるのだが、大まかにはそんな理由である。絶対に誰も口に出すことはしないがそういうことである。


 そんなトッププレイヤーたちであるが、八人の男女がそのメンバーである。この八人が正真正銘アワスト最強のプレイヤーたちと言われるような人たちであった。この人たちと比べると他のプレイヤーたちは劣っており、決して勝つことは出来ないと言われてきた。


 基本的に初心者、中級者、上級者と区別されてはいるが、その上のトッププレイヤーの八人は別格の強さを持っている。


 実際トッププレイヤーの八人とその他のプレイヤーで戦ったことがあり、プレイヤーの数が減っていたこともあったが、圧倒的な人数差にも関わらず勝つことが出来なかったほどであった。


 上級者のプレイヤーたちとトッププレイヤーたちの間には超えることが出来ない壁が存在するとゲームの中では有名なことであった。


 他にも五十人ほどのプレイヤーたちが一人に対して不意打ちで攻撃を仕掛けたが、全員返り討ちにされたという話もある。もちろんこのことは嘘ではなく、トッププレイヤーの中では二人を除いて他の六人は同じことが実行できるような力を持っている。


 そんな実力の持ち主であり多くの人から尊敬されているトッププレイヤーたちは、今までであれば金の無駄と言って絶対に頼まないような豪華な食事を囲みながらも、今は賑やかに会話をしていた。


 トッププレイヤー八人が集まると、それだけお金も集まるということでこのゲーム史上一番豪華な食事であろう。サービス開始当初の話から、色んなイベントや変わったプレイヤーの話、どれをとっても懐かしい話にしかならず、そのことが本当に終わってしまうのだということを実感してしまう。


 そんな話を一通りした後、今後の話へと移っていった。


「あ、そう言えばシリウス、ありがとね」


「そうだったな。あれは助かったぜ」


「いえいえ、私もああでもしないときつかったので」


「それにしてもいきなりメールが来たときには驚いたな」


「だね。でもこのアバターで能力も引き継ぐことが出来るから良かったよね。このまま消えちゃうのは嫌だったし」


「まぁそれのせいで色々と制限されているらしいですけど、それを含めてもこの身体を使えるというのはよかったですよね」


「ほんとにねー」


 少し前のことだった、運営からこの八人に対して一通のメールが送られてきたのだ。その内容を簡単に要約すると、アワストが消えるのと同時にいなくなってしまうのはもったいないと思っており、それならば見た目や能力は特に変えることなく、他のゲームへと移動してもらうという提案であった。


 しかし完全に今と同じ能力のままだとゲームバランスがおかしくなってしまうので、レベルなどは全て初期レベルになるということだった。移動先のゲームはサービス開始からまだ一年ほどしか経っていないため、流石に全てそのままというわけにはいかないのである。


 後はゲーム内でのイベントが色々なものが止まっており、全然進んでいないということも懸念されていて、それも進めて欲しいということも書かれてあったのだ。


 これらのことに関しては今までやってきたことが無駄になるわけでもなく、姿なども愛着があるので弱くなるとしても構わないことであった。そしてイベントを進めるのもゲームをするのであればそれは当たり前のことなので、特に反対することもないためこの提案にみんな受けることを決めたのだった。


 しかし依頼料として少しでもお金が欲しいという一人の頑張りのおかげで多くはないが、もらえることになったのであった。逆にもらったからには絶対にやらないといけなくなったわけだが、それに関しては自然に何も気にしていなくてもイベントに関わってくると思っているため問題なかった。


 運営の方もこの八人が消えないのであれば良いということで、結構甘くなっているようであった。移動先のゲームはアワストに関わっていた人たちもいて、ファンとしてもぜひとも来て欲しいという気持ちが強かったのだ。だからといってそれ以上のひいきはしないようである。


 そうしたお互いの意見が一致した結果、別のゲームへと移ることが決まったのであった。


「そう言えばゲームの詳しいこととかわかったのか?」


「いえ、公式で発表されているもの以外はネットにはなかったですよ。掲示板などもすぐに消されてしまうみたいですし、他もそう言った情報を徹底して出ないようになっているみたいですね」


「それがゲームが進んでいない理由なんじゃないの?」


「そうだとは思いますが、ゲーム内では三つの勢力で争っているので、他の勢力のことがわからないようにしているんでしょうね」


「ああ、そんなのもあったな。俺たちには関係のないことなんだよな」


「そんなことはないでしょ。まぁでも初めはどこの勢力にも入れないようになっているから、初期ボーナスみたいなものはないけど」


「そうですね。後からであれば好きにして良いということなので、入るのも構わないのですが」


「それじゃあ面白くないよね」


「まぁそう言うわけで私たちはどこの勢力にも入らずに好きに遊ぶということになりますよね」


 そう、彼らには他にも色んな制限が付いているのだ。普通であれば最初のログインをする際に一つの勢力に属して、勢力に属することで初期ボーナスといった感じで様々な恩恵があるのだが、彼らにはそれがないのである。


 まぁそれくらいは制限がないと色々と大変なことになってしまうので、当たり前のことと言えば当たりまえのことだろう。


 そうして話しているうちに終わりの時間が近づいて来た。


「もうすぐでアワストも終わりだな」


「色々ありましたが、楽しかったですね」


「ま、これからも楽しいことはたくさんあるさ」


「そうだね。ということで、みんなもこれまでありがとうね。そしてこれからもよろしく!」


「「ああ(おう)(はい)!!」」


 こうしてアナザーワールドストーリーは幕を下ろしたのであった。



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