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家族ごっこ  作者: 悦司ぎぐ
第5章 かさなる、かさねる
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十八話 お堅い女




 自分の父親が、だめだ。

 母親も、ちょっとだめだった。



 仕事熱心で、節義を重んじて、文字通り大黒柱で。

 だけど、退職して伴侶を亡くした今は、まるで抜け殻で。つまり、そのくらい愛していたわけで。

 本当に仕事が生き甲斐だった人で。


 そんな父親らしい父が、俺は三十を目前にした今でも、好きになれない。



 母も母親らしい母親だった。

 料理上手で、洗濯も掃除も一日たりとも欠かさず、子供たちの嘘を疑わず、そして何よりも夫を優先し支えた。

 そんな母親のことも、俺は最期まで大好きになれなかった。


 父に叱られることがあれば、母はいつだって影ながら優しい言葉をくれた。

 父もそれを承知の上で、子供たちを躾けていた。いいや、承知じゃなくて、前提、だったのかもしれない。証拠に、母は生きている間、一度だって子供たちを叱らなかった。


 男らしい男と、女らしい女が、一緒になった、夫婦らしい夫婦。

 俺は、自分の見てきた()()()()以外の人間をどうしても捜したくて、家族より他人を選んだ。



 他人と関わるのは、面白い。








 約束の時間よりずいぶん早く着いた俺よりも、武本りさは先に到着していた。携帯をいじったり壁に寄りかかりもせず、鞄を提げて姿勢良く佇んでいた。


「時間、間違えましたっけ?」

 合流するなり俺はふざけた。

「どうして?」

 武本りさは小首を傾げる。佐喜彦同様、たまに通じない部分がまだあるようだ。


「何か食いたい物、あります?」

 冗談もそこそこに、お決まりの質問もぶつけてみた。武本りさは姿勢はそのまま、顔だけ少し上を向いて考え込む。


「お好み焼きかラーメン。」

 やがて思いついたように口を開いた。


 珍しいな、いい意味で。

 なんせ男はたいてい、「なんでもいい。」の返事を予知しつつも「何が食べたい?」と女に問うものだ。

 更に視野が広い男の場合は、イタリアンかエスニック系の店をおさえつつ、問う。無論だが俺はそんなもの用意していない(これが佐喜彦から「もてない」と形容される所以なのか)。

 だからこそ今は、この予想外な返事が結果的に助かった。


「珍しいっすね、」

 女でそういうの、選ぶの。和ませる態で笑った。ばかにしているつもりもないし、無礼にも当て嵌まらないだろう。武本りさも不機嫌な様子を見せず、いつもどおり涼しげな顔をして真面目に答える。

「コーヒーとは無縁の物がいいの。」

 ああ、なるほど。もう一度軽く笑って、じゃあ行きますかと並んだ。


「そろそろ喋り方、適当でいいわ。大変そうだから。」

 数歩もしないうちに武本りさは指摘してきた。


 俺としても、度々ひっかかっていた点だ。


 武本りさと本格的に接してからというもの、俺の口調は迷走している。

 敬語とタメ口の中間のような、もしくは交互に扱うような、その中途半端になっていた言葉遣いが、彼女も気になっていたのだろう。


「じゃ、遠慮なく。」

 できるかぎり軽やかに切り返して、左手を差し出してみた。



「そういうの、いい。」



 ソーユーノ、イイ。

 無機質な語調で武本りさは拒否をする。

 今度の冗談は通じないのではなくて、好ましくないほうだったようだ。


 一定の距離を保ったまま並び、歩幅を合わせる。場所的にはラーメン屋のほうが近かったのだけれど、どうせなら対面席がいいと目論んで、お好み焼きの(みせ)に案内した。

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