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家族ごっこ  作者: 悦司ぎぐ
第3章 オーバーアゲイン
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十二話 恋する15歳。




「おっかねえ姉ちゃんだな。」

「……ふだんは優しいひとです。」

「じゃあ俺、そうとうやらかしちまったんだな。」


「……勝手なことしないでください。」

「はは。悪かったな、いろいろ。」


 姿が完全に見えなくなるころを見計らって、俺たちは一週間ぶり最初の会話を、そんなふうに交わした。

 冗談でも悪ふざけでもなく、なぜか少し笑えた。



 佐喜彦が俯いたままでいたので、誘導するように(へや)にあげた。



「派手にやらかしてるじゃん。」


 佐喜彦が著しく反応したのは、先客として部屋にあがっていた男の声を聞いた瞬間だった。俯きっぱなしだった顔を即座に上げ、目を円くして息を飲む。



伊織(いおり)くんっ、」



 更には、今までのことが嘘のような満面の笑みで、男に駆け寄った。


「なんでなんで? 会いに来てくれたの? 言ってくれれば迎えに行ったのに。」


 声色も口調も、この数ヶ月みてきた佐喜彦とは別人だ。

 目を輝かせ、口元は綻び、年相応に身振り手振りを交え、嬉々としてはしゃぎたてる。

 予期せぬ反応を目の当たりにした俺は、つい呆気にとられてその様子を眺めた。


「心配してたんだよ? 連絡、繋がらないし、マンションに戻っても居ないし。でも会いにきてくれるなんて嬉しい。元気にしてた? あのね、ぼく洗濯と、ごみ捨てと、あと料理も少しできるようになったんだよ。仕事もやってみたんだ。ねえ、今日一緒に帰っ……」



「来たんだ? マンション。」



 次々と並び立てる明るい声を、男は切り捨てるように遮った。

 一瞬にして、佐喜彦から満面の笑みが消える。

 言葉を詰まらせた佐喜彦に追い討ちをかけるように、男は例の淡々とした口調で吐き捨てた。


「約束と違うだろ。それに、今の何? 相変わらず周りが見えてないんだね。」


 それ以上は視線も合わせず佐喜彦を素通りし、俺の元に歩み寄った。



「おっさん。なんか、色々ごめんね。ありがと。」

 嫌じゃなかったら、もう少し面倒見てやって。この一言は、俺だけに聞こえるように、呟いていた。



「……伊織くん、」

 靴を履き帰り支度をする男を追うように、佐喜彦は声を震わせた。


「……ごめんなさい。もう、絶対、約束やぶらない……。もっと、ちゃんとする…だから、今日だけ一緒に帰っちゃ……だめ、かな。話したいこと、たくさんあるんだ、」

「謝る相手、間違ってんじゃないの。だから子供は嫌いなんだよ。」


 弱々しく懇願する佐喜彦に、男はげんなりと、刺々しく言い放ち出て行った。



 取り残された頼りない背中がその場で佇む。


「……佐喜彦?」

 とたんに反応を無くした佐喜彦を背後から覗き込むと、またもや予想外な光景を目の当たりにしてしまった。


「――――ッ…、」


 佐喜彦は泣いていた。

 声もあげず喚かず、じっと身を震わせ、唇を噛み締めながらぼろぼろと、大粒の涙を音も無く落としていた。

 最初こそ静かに涙していたが、やがて洟をすすり嗚咽し、手のひらや甲で瞼を何度もこすり、ぐしぐしと音を立て始めた。


 図体ばかりでかくて、口だけは達者で、猫を被ることだけは一丁前の子どもを前に、俺は為す術もなく、途方に暮れて頬をかくしかない。



 どうすりゃいいんだ、これ。



 感覚としては、人ごみだらけの海水浴場で、受け答えのできない迷子を発見した気分に近い。

 対処に悩む俺の気も知らず、佐喜彦はえぐえぐ、ぐしぐしと泣きじゃくり続けた。


「ほら、メシ行くぞ、」

 思いつく解決策なんてこれくらいだ。

 一週間放置された携帯電話を差し出して呼びかけてはみたが、やはり簡単にはいかない。聞こえてんだか聞こえてないんだか、まだ情けない啜り声をあげている。


「焼き鳥か焼肉、十秒で選べ。」

 これで無理ならたまには一人で飲みに行こう。

 なんなら久しぶりにAVでも借りて帰るか。それも悪くないと思った矢先、嗚咽まじりの声で、

「……やきとりがいいです。」なんて聞こえた。

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