とりあえずまずはベデッヒティヒ
3月になった。降り積もってた雪も、少し浅くなる。
それでもまだ寒気は衰えない。ストーブはつけるし、コタツだってまだ生き残ってる。
そして夢であって欲しかった、俺の隣でテレビゲームに没頭している勇者様も、まだ現実に留まっている。
俺はまだこの女が夢である可能性を捨てていないみたいだ。
「てやっ! おりゃ!」
「そんな乱暴にコントローラー扱うな壊れるだろ……ほいっと」
まぁそういう俺も、そんな勇者様、アコール・レーラと一緒にゲームしてるんですがね。
「あーっ!!」
彼女の操作しているキャラクターが地に伏し、ノックアウト。ノーダメージの完全勝利を俺は得た。
「フッ……今は夜だ、静かにしなさい」
「ず、ずるい! 今の技は何!?」
「ハメコン。即死コンまで持って行かなかっただけありがたいと思うんだな!」
「くぅー!! 何その必殺技! かっこいいんだけどムカつく!」
コタツの中で俺に足をバタバタさせて蹴りを食らわせてくる。執拗に脛を狙うのをやめろ。
「これで俺の27勝0敗な」
「むぅー!!」
ぎりりと歯ぎしりをしながら、涙目でこっちを睨んで来た。怖くはないけど、そこまでゲームにムキになるのが恐ろしい。
そんなことを思っていると、彼女が勢いよく俺の前に人差し指を突き立てて来た。
「もっかい!」
「別にいいけど、説明書ぐらい読めば?」
「そんなの必要ない! わたしは勇者ですよ!?」
勇者に説明書は必要がないらしい。
好戦的な勢いに負けてため息をついてしまう。しかし俺も実際暇なことには変わらない。初心者いじめが趣味というわけじゃないけれど、暇つぶしにこいつとのゲームは最適に近いのだ。
短い付き合いだけど、一緒に暮らしてみるとわかることがいくつかあった。彼女は好奇心の獣のように気になったことは調べ、実行する。(ゲーム以外)
家事も積極的にこなし、何事にもチャレンジするような性格のようだ。
その上負けず嫌い。スポーツマンみたいな人間だ。
「普通にやったらつまんないし。そうだなじゃあハンデとしてライフ半分からスタートさせてやるよ」
「んなっ!?」
ニヤリと悪い顔して、彼女に提案する。彼女はさらに不機嫌そうに俺を見つめてきた。
「……ふっふっふっ、後悔しないことね!」
「そのセリフ、俺に一撃浴びせてから言うんだな」
「よーし! ぶっ殺してやる!」
勇者とは思えない、魔王じみたセリフだな。
……まぁ、そんなこんなで、居候が家に来てからだいたい三週間たったが、特に恐れていた変わったことというのはあまり無かった。
事あるごとにゲームしようだとか、アニメ見たいだとか、漫画読ませてだとか色々面倒なこと言ってくるけど、所詮それ止まり。
なんやかんやで、アコール自体が悪いやつではないというのも相まって、普通に問題のない生活をしている。
暇つぶしなんて、ピアノ弾くぐらいしか無かった俺に、アコールと遊ぶという暇つぶしが一つ増えた。
ゲーム自体は苦行じゃないので、それだけで時間の経過がとても早く感じられた。
付き合って間もないというのに、あの日以来異性に心を許したことなんてないのに。
少しだけ、心を許してしまっているような気がしてならない。
不思議だ、こいつといると、なぜだかわからないけど安心する。
これが勇者。なのだろうか。
それはそうと、はいガチャガチャっとね。
「シャゲダンすんなー!!」
こっちもちまちま投稿しますよー!