彼女に持つのはピエトーソ
えっへん、とアコールがふんぞり返る、話に一区切りついたらしい。
おー。そういうことですか。なんてなってたまるか。こいつの今話した話からは俺らに関わる内容の話が一切されてない。
そして一番の疑問は……。
「よし姉さん、あんたの目を見ればもう結果は分かってる。それは理解してるし反対しても無駄なのも了解してる。それを踏まえて彼女に質問してもいいか」
「そんな回りくどく言わなくてもいいわよ、全くなんでこんなめんどくさい子になっちゃったのかしら……」
うるさい、俺はこの姿が正しいと思ってるんだ。
「アコール、今のお前の話を聞いてもどうしてここじゃなきゃ駄目なのか分からない。説明がされていないぞ」
「え、もういいじゃないですか。お姉さんは了承してくれそうですよ?」
こいつ……俺の家のカーストランクをよく理解してるな。
「一応だ、俺はもう諦めてる。でも一応聞いておきたいんだ、その内容によって俺がお前に今後どう接するか決めておきたい」
「……しょうがないですね、ミルクの恩がありますし。話しましょう。どうしてこうなってしまったのか」
よし、俺はそれが聞きたかったんだ。アコールを受け入れるために。
納得させてくれ。頼むから。そしたらもう何も言わないから。
「うふふ、よかったぁ」
「何が、姉さん」
「私妹が欲しかったのよね。天使のように可愛い」
「確か設楽田一家には家を出たもう一人姉さんより二つ下の女性がいたような気がするんですが」
「あれはもう終わり。JK超えたらみんなババァなの。可愛い時代は終わるのよ」
極論だな。同意もしないし反対もしません。
「実はですね、異世界転生をするにあたって、条件を出されたんです。
それが『危険性のないことを証明する』ということでして、3年間、わたしがこの地球という場所で生活を行い生まれ持ってる魔法等の能力を人類に見せびらかさず、影響も与えず。更に元勇者だとバレずに、人類になりきれたら合格という条件が出されたのです」
「今お前俺たちに勇者だっての教えたけど大丈夫なのか」
「バレる、というのは大事にならなきゃいいってことなんです。一例を挙げるとすればニュース番組なわたしという存在を取り上げればアウト。みたいな感じです」
「なるほど……以外と基準緩いのね」
姉さんがうんうん、と頷きながら話を聞く。
つまるところ自分の持った能力とやらをみだりに振り回すなってことみたいだ。それはありがたい。制約によってそういうのが縛られているならば、こちらとしては大歓迎だ。
「神様から言われたのはそれまでです。とりあえず3年、何も起こさず人間として生きていられることが出来れば合格。わたしはその3年間を『学生生活』で乗り切ることにしました」
「……何故だ」
「それはアレです。あなたたち走るよしも無いと思いますが、ご存知でしょうか? わたし達勇者内で取られた『あなたがもし、異世界転生するなら?』というアンケートで常にトップを走り続けているのが『ニホンの高校生』であるということを」
一瞬言葉を見失う。姉さんも信じられないと言いたげな表情を隠しきれていない。お互いぽかんと口を開く。
大体の男子の中・高生は最強の自分に憧れてチートとかに夢を持つ。なのに異世界人はその逆を行くのか。こいつもこいつで俺と同じ、『普通』を求めている。
親近感なんて全く覚えないけれど、マイクロ単位ぐらいで気があうんじゃ無いかななんて思った。
「というわけでわたしは高校生として三年間生活をしたいと考えていたわけです。住むための住居も決定し、さぁ行くぞと意気込んでこの世界に飛び込んだのです」
「おい待て、住むための住居を決定?」
「……はい、まさか、まさかわたしがそんなミスをするなんて思わなかったんです……とりあえずちょっと大きな家を選択すればそれがわたしのものになるものとばかり……」
こいつ、バカなのか。いやバカだったわ。
つまり、こいつは異世界への転移の前に自分が住みたい場所を選択した。その際おそらく本来なら空き地を選択する筈なのだろうが、アコールが選択したのは『我が家』だったということだ。
確かに俺の家は他の家と比べても結構大きい。だがそれだけの理由でここに来るなんて、不安とかそういうレベルじゃ無いぞ。
「そしていざこの世界に降りて来て絶望しました! 人が住んでいたんです! あなた達が住んでいたんです!!」
勇者様の目から涙がポロポロと垂れて来た。
正直お前のミスに巻き込まれた俺たちの方が泣きたいんだけど。
「そのショックでぶっ倒れていたときに、シタラダさんに遭遇した……というわけなんです」
「まぁ、聞きたいこと聞けたから、いっか」
今更何を聞いても、こいつを追い出すことなんて俺にはできないしな。
居場所を求めているものからそれを奪うなんて行為を俺はしたくも無い。
人にはやはり『居場所』が必要なのだ。自分の存在のために。
……やはり話は聞いてみるものだ。
ここまでの理由ならば、まぁ俺は大丈夫。ここで無情にも断るほど屑には育っていない……と思う。
「やっぱり……ダメ、でしょうか……」
自信なさげにアコールはぼそりと呟いた。でも心の中では絶対に大丈夫だと確信していると俺には分かる。分かってしまう。ごめんな。
それが分かったからと言って、何をするわけでもないから。
姉さんに目配せをする。勝手にしろと視線で伝えた。姉さんはそれにウインクで答える、正直キツイからやめてほしい。
「別に、そんな落ち込まなくてもいいわよ……大丈夫だから」
「そ、それじゃあ……!」
「うん、あなたは今から私たちの家族です! これからよろしくね! アコちゃん!」
「は……はいっ! ありがとうございますっ!」
アコールが丁寧にぺこりと頭を下げた。嬉しさのせいか口の端が歪んでる。いい笑顔だ。
まぁ、ちゃんと正直に喜んでるのは声で分かる。嘘偽りはなかったし別に大丈夫だろ。
「あ、ごめん奏音。ちょっとアコちゃんと話ししたいから席外してて」
「え? あぁいやまぁいいけど」
姉さんの言うことに逆らっても大した意義はまるでないので、とりあえずリビングから出た。なんだなんだガールズトークか何かですか。
家族会議の可能性はある。いやもしかしたらあの姉さんだ。俺を家から追放し、彼女と二人暮らしをすると言う可能性も十分にある。
普通にありそうな事態を想像してしまうと、なんか体に悪寒が走る。やめろおいやめろ。