ダ・カーポ
新連載です!学園ラブコメみたいな感じにしたいと思います!
「……お前が犯人だ、いい加減自白しろ」
静まり返った放課後の教室。クラス生徒たち全員が固唾を飲んで俺の指差す方向に目を向ける。
誰一人として口を開こうとはしない。指差した存在が、あまりにも意外すぎたからだろう。
「な、なんだよ……なんでオレなんだよ!?」
指差した先のそいつはクラスの人気者。顔立ちも、性格も素晴らしい人格者……のフリをしてる人間。
「とぼけるな、お前なんだ、お前しかいないんだよ」
今日、このクラスで盗難事件が発生した。
女子のスクール水着が盗まれたのだ。時間的にも全校生徒が盗める事が出来ていたので、学校側では捜査は長いものになると考えていたようだった。
だが、俺には自信があった。なぜなら俺には他の誰にも無い俺だけに与えられた力があったからだ。
まずはクラスメイトにその力を試してみた。先生にも了承を得て、クラス一人一人から話を聞いてみた。
一人一人に俺は質問した。簡単で単純な質問だ、「あなたが盗んだんですか?」と、たったそれだけ。
さらに俺は解答を二つに絞らせる。イエスかノー。どちらかで答えさせた。
俺の力があれば、それだけで犯人を特定できるのだ。
だから確信していたのだ。こいつが犯人だと。
前々から、この男は化けの皮を被っていた。いくら表面を取り繕っても、音は嘘をつかない。
「な、何をもってオレだって決めつけんだよ!? 証拠も何もねぇじゃねぇか!」
「証拠……?」
そんなもん、お前が嘘をついているから……。
そう言おうとして、口を開いた。その瞬間。
「っ!?」
ゴツン、と何かが俺の額に直撃した。ガラン、と地面に何かが落ちる音がした。
その方向に目を向ける。そこにはピンクの缶の筆箱が転がっていた。
血は出てないけど赤くはなった。右目が少しだけ見えにくくなった気がする。
しかし誰だこんなことをしたのは。缶の筆箱投げつけるなんて正気の沙汰じゃ無いぞ。
今度は視線を飛んできた方向に向けた。固まったクラスメイトから一人、荒い呼吸で俺を見つめる人がいた。
「……なに伊東くんのこと勝手に犯人扱いしてんのよ! そんなことするわけないじゃない!!」
「……はぁ?」
そのクラスメイトの女子が泣きながら、俺に吐きつけるように訴えかけてきた。
そして、俺の全身に悪寒が走った。一瞬何が何だかわからなかった。
そして周りをみて気がついたのだ。
クラス中の殆どの人間が、冷たい視線で俺を睨んでいたことを。
「何決めつけてんの……ウッザ」
「どうせ探偵気取りたかっただけでしょ……」
「キモいんだよ、オタクかよ」
「証拠もないみたいじゃん、決めつけじゃん」
「ひょっとしてあいつが犯人なんじゃねぇの」
「ありえる、まじ最低」
「ううっ……!?」
クラス中にそんな声が聞こえた。音は、嘘をつかない。彼らの純粋な俺を憎んでいる思いが、ダイレクトに耳に、脳に伝わってくる。
気持ち悪い。頭痛が、目眩が、吐き気が。
「な、なんだよ……決め付けかよ、クソが……!」
さっきまで真っ青で俺と対峙していたクラスの人気者、伊東くんは俺と打って変わって余裕を取り戻してきた。
「ふざけんな……どうせ、どこかに隠してんだろ」
「ふーん……じゃあ早くその証拠を出せよ」
「だからそれは……!」
また、口籠る。調子に乗っていた時では思い浮かばなかった考えが脳裏をよぎる。
ここで、俺の能力のことを言って、そうしてどうなる?
信じてもらえるだろうか、いや、クラスメイトの半分以上が既に伊東くんの味方だ。
物的証拠がない以上、俺の能力でしか犯人と特定できない以上。
伊東くんのみを追い詰めることは不可能だ。
だから俺は、何も言うことが出来なかった。
ただ黙るしかなかったんだ。
「ほら、やっぱり言いがかりじゃない」
「どーせ伊東くんが人気だから嫉妬したんでしょ」
「うわキッモ! 絶対それだよねー!」
「陰キャ丸出しのくせに調子乗んなよな」
「死ねよ」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「消えろ」
「キモい」
「鬱陶しいんだよ」
「近づくな」
「最低」
「ゴミ」
「人間の屑」
「死ね」
「最低」
「イキリオタクじゃん」
「どっか行けよマジで」
「消えてくれよ」
「キモいんだよ」
「死ねっ!!! 設楽田奏音!!!」
×××
あぁ、また変な夢を見た。
チュンチュンと鳥が鳴いた。雲の少ない清々しい晴れ晴れとした早朝かもしれないと言うのに、どうも気分が浮かばない。
しかし恐ろしいまでの量の汗が出ているもんだ。水分不足で永遠に眠っていた可能性もあったのではないかと思えるほど。
原因はおそらくというか間違いなく、さっきまで見ていた夢のせいだ。
どっかの調子に乗ったバカの夢。不思議な力をもって生まれた自分はなんでもできると思い込んでいた馬鹿な男の落ちぶれるまでの夢。
思い出すだけで頭痛がする。
俺は右目の少し上を押さえる。ここのたんこぶも、すっかり直ったな。
……あの日以降、俺は中学校生活が終了するまで、本当に腫物扱いされていた。
机をボロボロにされたり、教科書をトイレに捨てられてたりしていた。
いじめを受けていたといえばそれまでだけど、俺は不思議といじめられている気がしなかった。
当然だ。その通りだ。と、そう思っていたんだ。調子に乗っていた自分への戒めのように思えたんだ。
彼らの言葉は全て正しかったからだ。
イキって、探偵気取って、自分の力に溺れて。これだ。
愚者にもほどがある。笑えるレベルで情けない。
全く、自分に特別な力があったからなんだっていうんだ。
神様もまぁよく俺にこんな力を与えてしまったものだ。もっと特別な人格者とかにこの力を与えるべきだと心底思うね。
そうだ、この力が悪いわけじゃない。
俺が悪いんだ。
白鳥だと自分を信じ込んでいた、ただの醜いアヒルだったってだけだ。
だから、心底願う。
もう一番星には憧れない。そんな大層なものなんか望まないから。
平凡な日々を、俺にください。
それは『歩』でもあり、『兵隊』のような、ありふれた存在であることの証明。
名もない星屑のようになりたい。俺は『どこかの誰かになりたい』と、強く願っている。
ベッドから身を起こし、カーテンを開く。
爽やかな朝日が俺を包んだ。ブルグミュラーの『朝の鐘』とか流れそうな雰囲気のある爽やかさ。
輝く太陽が眩しい。そうしてそらした視線の先に置時計が見えた。時間を確認してみると、なんてこった早朝すぎる。日曜日だっていうのになぜこんな早起きをしてしまったんだ。神様だって多分まだ寝てる。
じゃあ多分何言ってもバレないよな。死ね神様。神は人の上に人を作らずじゃなかったのかよ。特殊な能力とか作ってんじゃねぇよ。てかこれ人間の言葉じゃん神様冤罪じゃん。俺みたいだ。
もう一度寝ようと考えたけれど、あいにく日の光の効果により目がパッチリと覚めてしまった。
こんな朝早く、しかも冬に起きて、何をしろというんだ。雪かきか。
しかも今冬休みだぞ、寝るなら今しかねぇんだよ。受験も合格したし、自由にしたい。
「……コンビニにでも行くか」
寒い中外に出るという行為は、嫌いじゃない。
むしろのちの通常な男子高校生たるもの、雪には活発でありたい。無駄な活動はしないと誓ったけれど、雪ではしゃぐのは男のサガだ。
しかも、新鮮でいいかもしれない。
そう決めて、パジャマがわりに使っていた中学のジャージを脱ぎ捨て、身支度をした。寒い。
でも、外の方がもっと寒い。そう考えれば気が楽に……なるはずない。むしろモチベーションが下がっていった。
まぁちょっとコンビニに行ってジュースとかお菓子とか買うだけだ。ティラミスがあればなおよし。
雪国の冬に長靴以外の選択肢はない。スポッと履いて、ちょっと重いドアを開けた。
視界に広がるは広大な白。全てが雪に包まれているのではと錯覚するほどの白。
早朝から雪かきをやってる人もいた。尊敬する。今からその人を横切ってコンビニに行かなければならないと思うといささか心がチクチクと痛んだ。
雪国の朝、若いのに雪かきしないなんて異端だ……ってな。冗談です。
「……でだ」
ここまでの光景なら、ここに住んでいる人々は毎年二桁は見てる。日常だ。
だが俺の眼の前に、今まで見たことのないような非日常的なものが転がっていた。
雪に埋もれて、見えにくいが、間違いなくそれは。
「……誰ですか?」
…………雪の中ぶっ倒れていた女の子だった。
これが、俺と彼女の初めての出会い。
高校生活で非日常はごめんだと願った。まさかその願いを始まる前から叩き落されるなんて思いもしなかった。
多分、こうなったのは神様が起きていたからでしょうね。悪口聞いてらしたようです。ごめんなさい。
謝りますから、この女の子、別の家のところに置いておいてくれませんか?
これから執筆がんばるぞい!