よいお年を
「藤白知らない?」
夜川の携帯電話にメッセージが届いたのは大晦日の夕方6時。夕飯の知らせにリビングへ向かおうとしたその時だった。差出人は百合園真琴。夜川のクラスメイトだ。
「藤白のことは知っているぞ」
「それなら私も知ってるよ! じゃなくて、藤白の行方」
「どういうこと?」
「んー、行方不明らしい」
百合園によれば、藤白は12月25日から連絡が取れない。メッセージを送っても、電話をかけても、インターフォンを鳴らしてもなしのつぶて。そういうわけで百合園は知り合いに、藤白の行方を聞き回っているそうだ。
「ちなみに捜索願が昨日出されたよ☆」
「言い方に気を配れ」
藤白の両親は著名な考古学者で、一年のうち10カ月くらいを海外で過ごしている。今もそうだ。藤白は基本的には豪邸で一人暮らし。羨ましいことこのうえない、と夜川は思っている。その両親と百合園は仲がいい。藤白と百合園は中学校のクラスメイトで、その時に仲良くなったという。なぜそこで本人だけでなく両親とも仲良くなるのか夜川には分からなかったが、百合園はそういうタイプだ。基本的に人に好かれる。きっと今回も藤白の両親に連絡を取り、動かしたのだろう。
「穏やかじゃないな。しかし僕は藤白の行方に心当たりがない。よいお年を」
夜川はそう送信し、リビングへ向かった。
「遅いよお兄ちゃん」
リビングに入ると罵声で迎えられた。夜川煌。夜川の2歳下の妹だ。
「おせち抜きね」
「なんでお仕置きが予約制なんだよ」
夜川は抗議しつつ卓に着く。今年最後の食事ということで、さまざまなご馳走が並んでいた。蕎麦もある。面倒くさがりな母親がまとめて作ったのだろう。
「早く食べないと無くなるわよ」
「お母さんったらもう……」
当の母親はさっさと食事を始めていた。どうやら煌は律儀に夜川を待っていたようだ。苦笑いを浮かべつつ、夜川は妹と食事にとりかかった。
食べながら夜川はふと思った。藤白はどこかでなにかを食べているのだろうか。
それはまったくの偶然だった。煌がテレビを点けた。どの局も年末の特番を放送中だったが、そのチャンネルはたまたま番組と番組の間に挟まれた短いニュースを流していた。浮かれトンチキな空気を一切まとわず、キャスターが淡々とニュースを伝えていた。
「……次です。名首市の山中で、市内に住む17歳の女性とみられる遺体が発見されました。遺体に目立った損傷がなきことから、警察は事故死とみて身元の確認を急いでいます」
え、これ、うちの近くじゃない、という煌の言葉が夜川の頭に響き渡った。