そして夜は明ける
練習です。
息抜きのために、夜川灯は窓を開けた。午前3時の冬の空気が流れ込んでくる。部屋の暖気を蹂躙していくようだった。少し暖房をつけすぎたのかもしれない。痛いくらいに冷たい感覚が心地よかった。勉強で疲れた頭が解れていく。少し根を詰めすぎたようだ。
窓の外は住宅街が広がっている。夜川の家は丘の上にあるので、少し見下ろす形だ。街の奥に戸平山のこんもりとした影が見える。夜の暗さのなかで見るせいか、いつもより巨大に見えた。
さすがにこの時間にともっている明かりの数は少なく、点々としている。逆に綺麗な光景だと夜川は思った。煌々とした明るさより、闇に浮かぶ光の方が目に映える。部屋の温度は下がり続けていたが、窓を閉めることはしなかった。
藤白も。夜川は思った。
藤白もまだ起きているのだろうか。
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藤白美夜美は台所に立ち、ココアを作っていた。鍋にココアパウダーと牛乳を入れ、弱火でゆっくりかき混ぜる。パウダーが溶けきり、全体が温まったところでバターをひとかけ。バターが溶けたらカップに注ぐ。藤白にとって、この上ないご馳走だった。
冬休みの宿題を、休みが始まって一週間で片付けると自分に課し、きょうがその一週間目。昼食をとり、ラストスパートをかけた。すべての作業を終えると深夜3時だった。集中していて時間を忘れていた。時刻を把握した途端に空腹が襲ってきたが、食事を作るのが面倒くさいのでココアを飲むことにしたのだ。
カップを持って部屋に戻ると、窓の外の変化に気付いた。一口飲んで机に置き、窓を開けた。空から白いものがふわふわと降っていた。雪か……。藤白は雪が好きじゃない。この雪はつもりそうだ。朝になれば、家々の屋根も、戸平山も白く染まるのだろう。
夜川も。藤白は思った。
夜川もこの雪を見ているのだろうか。
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この夜を境に、藤白美夜美は姿を消した。