弁当の件~物書きみんなの文体でカップ焼きそばを書こうよ企画~
「これ、どうして弁当なんだと思います?」
やたらと神妙な顔で、妻の幸が呼び止めてきた。
ここはコンビニ。
幸の手にはカップ焼きそば――否、やきそば弁当が握られている。
「気になるなら買ってみたらいい」
「いいんですか!? ……でも、いつ食べよう」
夜はこれからラーメン食べに行くし、明日の朝はホテルのおいしいご飯が。
ぶつくさ言いながら、幸の手はやきそば弁当をしっかり握って離さない。よほどご執心らしい。このままだとしばらく動かなさそうなので、稜は解決策を提示することにした。
「夜食に半分ずつでいいんじゃないのか」
「それだー!」
天啓に打たれた幸は、大事そうにやきそば弁当をカゴに入れた。
会計を済ませて外に出ると、雪国の冬らしく、闇夜に粉雪がちらついていた。
そして、夜。
件のやきそば弁当のフィルムをはがし、蓋を開けた幸が、固まった。
「どうした?」
「稜さん、これ、弁当じゃない」
「は?」
「なんかスープがついてます。でも、それだけ……」
しょぼくれた犬か。
単なるやきそば弁当にどこまでの期待をかけていたのか、その感性の豊かさが稜にはまぶしい。
「ご飯とかおかずとか、付いてないのかあ」
「そういう意味か。弁当って、箱の形が四角で似てるからついた名前だぞ」
「えっそうなんですか!?」
驚きに幸が目を丸くする。
「稜さんて、ほんとなんでも知ってますよねー」
すごいなーなどと呟きながら、幸は説明書きを読みつつ手を動かしている。かやくの袋を開け、ホテルの部屋に備え付けのカップにスープ粉末を入れ。
幸がたわいもない話をする間に、三分はあっという間に経った。
「お湯をスープで再利用とか頭良いなあ」
湯切りに油断し、蓋が外れた時の悲劇を語りながら、幸はご機嫌でカップに湯を注いでいる。「これならひっくり返しても救出できますね!」などと重ねつつ。
仕上げにソースと、青のり紅しょうがのふりかけをぱらり。
「いただきます!」
言うが早いか口いっぱいにやきそばを頬張った幸は、その名のとおり幸せそうに笑った。