ギャル子、キラキラする
中二病はなーって言ったけど、今ウチは万天なんちゃらかんちゃらさんで。
手の甲には、洒落乙な紋章?があって。
具体的な効果は分からないけど、この“名前”は凄いらしくて。
「…くろぽよくろぽよ、具体的にこれ、どんな効果があんの?」
「…あー、そうだな、つまり、キラキラする」
「…は?」
「キラキラする」
ウチは今、キラキラしてるらしい。
>絵比奏度 20
ギャル子、キラキラする
ーーー…名前とは。
名前とは、他とは一線を画する能力を持った魔物の、その“能力そのもの”を示すものである。
その能力は紋章として身体に刻まれ、それを見た者は紋章の主に畏敬の念を抱かざるを得ない。
解答のない人生において、名前を獲得したものだけは、何らかの境地へと至ったことの証明だからである。
そう名前獲得とは、ありとあらゆる生き物の一種の憧れだ。
「…ちなみにさあ、その名前って、誰が付けてくれんの?」
「誰が付けるわけでもない。聖典の中から、相応しい語句が選ばれるんだ。名前を得たことは、隠してもすぐに伝わるからな、勝手に周りが付け出して、やがて統一されてくんだよ」
「聖典?」
ウチはくろぽよを抱えながら、手の甲の模様を見つめた。
ええと、なんだっけ。
光がどうちゃら、というこの名前は、キラキラするものらしい。
「聖典ってのは、まだ世界が混沌とした時代に、神が記した書物のことだ。この世界の行く末が描かれている、と言うが、話が抽象的すぎてほとんど分からねぇ」
「くろぽよでも?くろぽよめちゃイケなんしょ?」
「…まあ、俺様にだって分からないことくらいある」
そりゃそっか。
けれど、ちょっと困ったな、とウチは名前をねだったことを後悔していた。
だってこれなんか、鬼重要そうな感じじゃん?
ウチ気軽に、ドラピッピにあーげよ!とか思ってたけどこれダメそーな感じじゃん?
しかもキラキラするって何?
「ちなみにキラキラするって、もしかして暗いところとかで?」
「ま、そうだな」
「歩くネオンサイン的な?」
「ねおんさいん?」
「歩く松明的な?」
「そうだな」
マジかよ。
半信半疑なウチに呆れたのか、ほら、とくろぽよは再度ウチの腕を飲み込ん…のみこん、で、
「…うわぁ」
そしてぼわっと、光った。
こう、電球をゴムとかで隠すと、内側がぼわーっと光るあの感じ。
しかもちょっと点滅してる、キラキラしてる。
…うわあ、これないわ。
夜とかちょー目立つべ、一人カーニバルかよ。
やばばば…。
「…ウチさあ、名前、くろぽよから貰ってドラピッピにあげようかと思ってたんだけど」
「はあ!?」
「だめぽな感じ?」
「正気か!?」
えっそんなレベル?
ぽよんぽよん動揺したように跳ねるくろぽよは、あーだのうーだの色々唸ったあと、ウチを見上げた。
なんかすごい真剣な目つきなのチョーウケる。
これなんかややこしい勘違いとかされてるくね?
「お前…あんなのに惚れてるのか…」
あんなのとか言われてるドラピッピマジウケるんですけど。
「けど、名前を貢いだからって振り向いてもらえるわけじゃねぇからな、覚えておけよ」
「なんか実感こもってない?くろぽよやったことある系?」
「うるさい!」
「あとウチ別にドラピッピに恋する乙女的なアレではないんですけど」
ドラピッピはさー、マジイケメンオールバックスーツだけど、性格で減点どころかマイナス吹っ切れるじゃーん。
あと姫と好み一緒とかないわ。
それにウチリツ様一筋だかんね。
「ならなんでだよ」
「やー、ドラピッピ欲しがるかなって。ウチ割といつもお世話になってるし?それに上司だし?」
「…上司?」
「そーそー、まあお飾りだけどさー。色々説明してもらったりしてるし、お礼大事じゃん」
部下が中二病患ってるならウチもちょっと盛り上げとこかなーみたいな。
アゲてこ的な?
でもウチ頭悪いから、ほら、あんまかっこいい名前思いつかないし。
そこまでもそもそ説明してから、ウチはさっきからくろぽよが沈黙してることに気がついた。
くろぽよを見下ろしてみる。
うわこっちガン見なんですけど。
「…あれ、魔王の側近だろう。魔王直属第一親衛隊隊長、だかなんだか」
「そーそー、名前長すぎて名刺つくんの怠そーじゃんね。名乗る時に噛みそう」
「なら、その上司は魔王じゃないのか」
「…ん?」
「お前、まさか」
くろぽよが、有り得ないものを見るような目でこっちを見てた。
ちかちかと、その赤い瞳が、意味ありげに煌めく。
段々と、いつもの手持ちサイズから、変化しているような気もした。
くろぽよは、魔王を、殺したい。
…あっやべこれフツーにやらかしたかも。




