ギャル子、外交初体験
別に、魔族を怖いってのはわかるよ。
ちょーわかる。
顔怖いし、言葉は聞き取りにくいし、顔怖いし、顔怖いし。
しかもそれが昔戦争してた相手で、しかも(肉じゃないとは言え)こっちのこと食べます、とかさ。
こわいのちょーわかる。
でもそれと、こっちが下手に出るかはまた別のはなしじゃんね?
っしゃカチコミいくぜお前らー、やばばー。
>絵比奏度14
ギャル子、外交初体験
「神子がこうしてわざわざ声をかけてくれたんだ、感謝するんだな」
うるさい取り巻きその一、名前なんか言ってたけど覚えるのがめんどくさいから赤。
そのクッソださいとかいうレベルじゃない赤の革ジャンはどこで買ったの?
ドンクホーテ?ドンク?しまうらってセンスじゃないわ。
しかも革ジャン着込んでるくせにヘソだし、熱いのかよ寒いのかよどっちかにしろし。
無駄に洒落乙なベルトはクロスに交差してるんですけどなに、俺たちの運命も交差してる的な?爆笑。
「全く、こんなふざけた人たちに声をかけるなんて…、神子は優しすぎます」
うるさい青、そっちこそその演劇でもやりそうな青いマント?ローブ?はどっから持ってくんの?
さっきの赤もすごかったけどお前もヤバイよ、あとその男とは思えないさらっさらスーパーロングの青い髪は何が起きてんの?
キューティクルやばたん。
プリンゴー、ごばんだよプリン、むしってよし。
魔王が許す。
あとシャンプー教えて。
「まーあ?そー言うのも神子の良いとこじゃん?そういう優しさは俺ちゃんだけに向けてくれていーんだけどね」
一人称が鬱陶しいんですけど黄色。
帰れ、今すぐ帰れ。
俺はわかってますよー、アピールからの良く分かんないメンヘラアピもいらないから。
こいつとさっきの姫にスマホ渡して経過見たいよね、一週間で付き合ってソッコー別れそう。
ポエム作って垂れ流してたらウチとプリンで歌つけて踊ってあげるって。
マジ遠慮すんなし。
演歌調で決めてあげんね、こぶしはまかせろし。
とりあえずあれだわ。
っちょー、うっっっざ!!!
聞いて、色々言いたいことはおるとは思うけど聞いて。
ウチの努力を聞いて。
何でウチらは出会い頭早々罵倒されて良く分からない茶番見せられてんの?
せめてまずは見た目誉めるところから入れよ、コミュ障なの?
きゃー、そのカチューシャやばばー!とか言ってくれたらこっちだってスカートやばばばー!てかトータルコーデぎゃんかわー!プチプラー?とか返すじゃん?それではじめてお互い戦闘意思はないですよーってわかるじゃん?
それを何でこいつらはいきなり殴りかかってきてんの?
ビックリしすぎてちょっと怒るタイミング無くしたんですけど。
あと皆飽きてるのか知らないけど子供と縄跳び始めんのやめて、何でそういうこと今すんの。
どっすんどっすんいってるから、若干大地シェイキンなうなう。
ちょーやばたん。
「…あなたが、新しい魔王様?」
あ、そー言うはなしもう出回ってんの?
でもたしかに、それなりに日数はあったか。
「この騒ぎとか、ドライさん困らせるの、良くないですよ…。なに、してるんですか。早く、こんなのやめるべきで…」
いやドラピッピも割りと乗ってたし。
あんたがさっき鼻で笑ったオークのシュシュドラピッピ作だし。
いやあのクオリティーは雑すぎて矢場張って感じではあったけど。
てか子供にはバカウケだしだし?
す、ってウチのことを品定めするように見つめて、姫はニコ、ってウチに笑ってみせた。
如何にもしたに見てますーって感じバリッバリ、なに、ガチで喧嘩売ってんの?
ウチ買うよ?
そのつけまひっぺがすぞ。
「…いや、何をしているのか問いたいのはこちらの側だが」
「!、ドライさん!」
うわあからさまに声のトーンあげやがったこの姫。
そしてざわわ、って感じで殺気立つ取り巻き信号機。
言っとくけどドラピッピはあげないかんね、ウチだってそんなに好きじゃないけどあげる気はないし。
ドラピッピいなかったら誰が書類整理すんの。
「ここは、間違いなくユグド領だ。ここでの活動に、しかも内々のものにどうして神子殿が口を出されるのか甚だ疑問だな」
ドラピッピ言ってやれ。
あと、後で良いから神子について解説よろよろ。
「村の迷惑にも、なっていないようだし」
そう言ってスッ、とドラピッピが視線を向けるのは子供達の方だ。
うちらがせっせと集めたごみやらを脇に、賑やかに縄跳び…あ、いま缶けりしてんの?
結構レトロな遊びいくじゃん。
ウチもちょーやりたい、あとプリン隠れんの下手すぎ。
「こんな騒ぎ、」
なおも食い下がる姫様に、ウチも思わず口を開いた。
「…あ!あのシュシュドラピッピ作じゃんね?」
「?あ、…ああ、そうだが」
「この計画聞いたときドラピッピも悪くないなーみたいな反応したじゃんね?実際どう?」
「…まあ、奇想天外ではあったが、そうだな。…それなりに、効果はあるようだ」
「つまりドラピッピ推し計画?」
「…、まあ」
若干!嫌そうな色は消えはしないが、ドラピッピが頷いた。
姫の表情が変わる。
そうだよね、なんか明らかにあんたの“推し”は、この空間じゃドラピッピっぽいもんね。
その計画全否定する?
ウチならしない。
恋は全肯定から無理矢理作るもんだし?
あ、これウチのポリシーだから。
誉めて誉めて誉めたおす、これ一番。
姫だって、絶対そうする。
「はあ?このふざけた内よ、」
「そうなんですかー?たしかに、明るくて楽しい感じですよねっ!」
ほーら。
「ドラピッピすごい推してたよね、だってこれ暴力もないしちょー平和なプランじゃん?さすがドラピッピー」
ドラピッピが何いってんだこいつ、みたいな顔をするのを無視してウチは笑う。
良いから頷け、何がなんでもうなずけ。
とりまさんせー、でいいんだってドラピッピ。
気圧されるようにしてうなずいたドラピッピにウチは満足した。
噛みつくようにして口を開いた赤を遮って、姫が一歩ずずいっと前に出る。
「あっ、あっ、やっぱりそうなんですかぁ?」
「それでぇ、神子様なにしに来たんだっけ?挨拶?計画邪魔しに来たんじゃないよねー」
「違いますよぉ!」
「だよねー!」
ウチとドラピッピの考えは、たぶん一致してるはずだ。
姫には、早々に帰って欲しい。
OHGは邪魔されたくない。
あと早く家に帰りたい。
マジで。
「えっとぉ、みなさんに、挨拶しなきゃって思ったんですっ!だって、差別って良くないじゃないですかっ」
「やーん姫様ちょーやばたんー、頭やばばー、…あっ、でもドラピッピだいじょーぶ?」
「えっ?」
「だいぶん頑張ってそーじしたし?へろへろ?ちょーやばばじゃない?あ、でもせっかく姫様来てくれたし?挨拶とかちゃんと」
「あっ、だいじょうぶですよっ!私たちもう帰りますからっ!」
「「「えっ」」」
「えー、ほんとー!」
ウチとドラピッピの視線がぶつかる。
間違いなく今だけは、ウチらは共闘していた。
「そうか…それなら助かるな」
「やーん、さすが姫様マジ空気読めてるー!KYー!」
「えっ、それって意味、」
「気を付けて帰ると良い、魔獣も出るからな」
「えっ?え、あ、はぁい!気を付けますっ」
姫の方は帰る気満々だ、よっしゃ。
最後にウチはぽかん、としている信号機の方を見た。
「皆馬できた系?馬準備できてる?姫もう帰るってー」
「神子?もう良いんですか?」
「うんっ!新しい魔王様ともお話しできたから…私、これからもちゃんと向き合っていけたら言いなって思う!」
「神子…!」
ここで感動するのほんといみふ。
姫はふわっふわのスカートを揺らすと名残おしそーに一回だけこっちを振り向いた。
「それじゃあ、また会いましょうね、ドライさんっ」
ドラピッピご指名じゃーん!
めちゃもてー!あとウチを無視すんなし。
「…あーあ」
馬かと思ってたのは天馬系のあれだったらしい。
ふわわ、っと白い羽をどこからともなく生やした馬に乗って姫が遠ざかってく。
落ちてきた羽が辺りには散らばっていて、ウチらはもう一頑張りしなきゃいけないっぽいのがマジでなえぽよ。
「マジで何しに来たのあの人」
「俺が知るか」
お帰りくださいませご主人様。
プリン、塩巻こうよ塩ー。




