第四話:魔王の過去
「えっ」
「この世界には、強くなるための要素として
基礎的な能力を向上させるレベルアップ
修練を積むことで得られる熟練度
契約による加護の三種類がある」
これはゲームとかで聞いたことある。
経験値でレベルアップ、スキルの連続使用で熟練、おまけ程度に加護、といった印象だ。
「この中で、レベルアップが問題なんだ。枝も折れるかわからねえやつが、いきなりドラゴンに一撃で大穴開けられるようになるって言えば、その異常性はわかるだろ?」
今枝が折れないとかドラゴンとか色々聞き捨てならないセリフがあったが、ここはスルーしよう。
「簡単に言えばこれからお前に起こるのは、"死ぬほど辛い成長痛"だ」
「死ぬほど、ですか」
「ああ。俺が経験した痛みや苦しみ、斬られ、焼かれ、毒に侵され、全身の骨がバラバラになるような経験、体に宿る記憶といってもいい。これがお前の体に流れ込む。しかし、どれだけ苦しくても体が実際に傷つくわけじゃねえから死ぬことはない」
「そういうのって、基本精神崩壊で廃人になったりするんじゃ…」
死ぬほど辛い苦しみを死ねない体で受け止め続ければ、いずれ精神の方が崩壊するのではないか。
そうなっては、生きていても意味がない。
「そうだな、今のお前の精神じゃ負荷に耐え切れずぶっ壊れるだろう」
「えぇ…そこは大丈夫だとか秘策があるとかじゃないんですか…」
結局僕は死ぬのか。
ああ、もう一度だけみたらし団子が食べt「あるぞ」
「え?」
「あるぞ?」
「秘策が?」
「ああ。これを使う」
魔王が手のひらに出したのは、指輪だった。
「指輪、ですか?」
「ああ、ペナルティリングという指輪で広く呼ばれている呼び名は弱虫の指輪だ。肉体ダメージと精神ダメージを軽減する代わりに得られる経験を1/4にする。冒険者の初心者が、死を免れるために装備するものだ」
弱虫って…いやでも死ぬのは怖い。
「これで、得られる経験は減るがお前への負担は1/4。まあ、これを使っても賭けにはなるがないよりマシだろう」
「それでも賭けなんですね…」
「なんだ、文句言うなら貸さねえぞ」
「さっせん!貸してください魔王様!!」
「よろしい」
指輪を通すと淡く光ったかと思うと、軽く締め付けられる程度に指輪が小さくなった。
実に高性能だ。
「一つ目の苦しみはいいな。じゃあ次は、っと」
頭をガリガリ掻きながら乱暴に紙をペラペラとめくっていく。
「これだな。お前はこれから人類では最強の部類になるわけだ」
「はあ」
「お前が力を望むように好き勝手に振り回せば、欲しいものはなんだって手に入る。国だって簡単に堕とせるだろう。しかし、過ぎた力はお前から皆を遠ざける。お前は一人になる。バケモノと呼ばれることもあるだろう」
魔王はそう言うと立ち上がって、背を向けた。
「命懸けで守った人達や仲間になったやつら、愛する人にさえ、畏怖の目で見られ蔑まれ怯えられ拒絶される」
過去にそういうことがあったの、とは言えない。
魔王の背中に深い悲しみが見てとれたからだ。
「…まあ、そういうこともあるかもしれないって話だ。英雄になるのも、バケモノになるのも、そう大差はねえ。過度な期待はすんなっていう教訓だな」
「悲しいお話ですね」
「多くを持つってなぁそういうことなんだろ。人より多く持つものは人より多く憎まれるもんだ。まあ俺は殺戮・悪事なんでもござれの魔王だからな、恨まれて当然だが」
「なんで魔王に?」
「俺がそういうやつだったってだけだ。人から魔族への片道切符、人魔転生もなんの抵抗もなく済んだからな。人間を超えた力で、俺は正真正銘のバケモノになった。気楽なもんだぜ、バケモノってのもよ」
相変わらず背を向けて飄々と話す魔王。
きっとこの魔王は、嘘をついている。
根はいい人なんだろう。
殺戮の限り、悪事の限りを尽くした、終末の魔王。
過去を思い出し語るその顔はこちらから見えないが、きっと泣いている。
涙はなくとも、泣いているんだと思った。