第一話:封印された壺
僕は宮藤了。
日本人らしいつるんとした黒髪を清潔感のある長さに切り揃え、髪型はアシンメトリーで分かれている。
中肉中背が僕ほど当てはまる人間はいないのではないかと思うほどの標準体型に、顔は「えーと、あ、私の友達に似てる!」というレベルで特徴がない。
唯一、目の色だけが祖父譲りの淡い碧色をしているところが僕の特徴らしい特徴だ。
19歳、大学生、趣味は…読書?これくらいしか自己紹介が思い浮かばないくらい、つまらない人生を送ってる。
夏季休暇の為一週間前から母方の実家に帰省中、場所はど田舎もど田舎、それも山の中だ。
どれくらいかというと、人様の玄関にクワガタとカブトムシが揃って訪問して、夜になれば裏の池でホタルがパーティ、蛾やコウモリなんかが網戸にこれでもかというくらいダイブしてくるレベルの、ガチの山の中だ。
そして所謂"ご近所さん"までは歩いて10分山を下らないと会えない。
もちろんコンビニエンスなお店など無い。
そんな素敵な場所で今僕がやっていることといえば、お墓の掃除、家の補修、蔵の整理とやってることは大学生の夏休みにふさわしいとは言い難い、ほとんど雑用だ。
友達からの誘いなど皆無の僕にとっては、まあ、適任といえば適任なんだろうけど。
どうしてだろう少し切ないのは。
今日は朝からずっとこの古くてだだっ広い蔵の中で片付けと言う名のお宝探しをやっている。
鋼鉄の門を開けると、中は暗く、古い木の匂いとカビの臭いとが鼻をつき、普段から締め切っているためかジメッとしていてまるで蒸し風呂のように暑い。
この蔵は一階から三階まで、壁伝いに階段が作られている。
階段が狭い作りになっている為か、二階と三階にはこれといって大きなものはないようだ。
二日間で一階と二階のお宝とゴミとを分別し、本日は三階部分のお宝探しをやっている。
最上階ということもあるのだろう、貴重な(雰囲気)の品々が多い。
古びた巻物、何年物か分からないお酒、鍵が無い金庫、抜けない刀と錆びた鎧、そして…
「お、また高そうな箱みっけ」
もはやこんな遊びでもしないとテンションが上がらない。
「さてさて中身は…っと」
第一こんな広い蔵、片付けしなくてもいいだろうに。
「よっと。これは…壺?うわっ、お札ベタベタ貼ってるしやばいやつじゃないのこれ」
全部売っぱらえばいいんだこんなガラクタばっかり集めやがって。
「でも綺麗な壺だなー。開けたら中にすげーもん入ってたりして…金銀とか…」
この壺だってどこかに売ればそれなりの値がつきそうだ。
このベタベタ貼ったお札がなければ…
「まあ、呪いとか信じてないし。いけるいける。…いけるよね?」
恐る恐るお札を剥がす。
一枚、二枚…変化なし
蓋と壺とを塞ぐようにお札が貼られている。
三枚、四枚…多分変化なし
仕舞われていた箱も相当高そうだし、きっとこれは由緒あるお宝に違いない!
五枚、六枚、七枚…黒い霧が漏れているような…まあ暗いから目の錯覚だろう
開けたら金銀財宝ざっくざkーーー
八枚、九枚、十枚ーーー
暗闇が僕を飲み込んで、そこで僕の意識は途切れた。
9/24:修正、追加