咎魔女
休止している自サイトで掲載していたものを改稿したものです。
拙い作品ですが、楽しんで貰えれば幸いです。
昔、あるところに『咎魔女』と呼ばれる魔女がいました。
魔女は生れた時から咎を背負って生きていました。
生まれたこと自体が罪だったからです。
そして、魔女であることが罰だったのです。
魔女には掟がありました。
一つ。魔女は魔女の村で生まれる
一つ、魔女の村は魔女のみが立ち入ることが出来る
一つ、魔女は契約を違反してはならない
一つ、魔女は魔女を殺してはならない
一つ、魔女は魔法使いと子を成してはならない
たくさんある魔女の掟で、必ず守らなければならない五つの掟。
それを破れば、魔女は魔女で在ることが出来ません。
掟を破った者は存在してはならない。
それは魔女が生れて初めてかけられる、魔女の呪いでした。
けれども、『咎魔女』は何故か魔女として存在していました。
それは、掟を破ったのが『咎魔女』ではなかったからです。
『咎魔女』は、魔女と魔法使いの間に生まれた子供でした。
魔女と魔法使いの子供は必ず『魔法使い』として生まれます。
そして、『咎魔女』は『魔法使い』として魔女の村に生まれ、存在し、それによって母である魔女を消してしまいました。
『彼』は生まれたことによって、4つの掟を破ってしまったのです。
生まれた時に『咎』を背負い、
生まれたことが『罪』であり、
生きることが『罰』なのです。
『咎魔女』
魔女はそう呼ばれました。
魔女の村から追放された『咎魔女』は各地をさまよいました。
どこに行っても、魔女の魔法は人を不幸にしてしまいました。
彼の魔法は、決して彼を幸せにするものではありませんでした。
彼の『魔法』は『呪い』だったからです。
魔法使いは『魔法』を、魔女は『呪い』を、それが理でした。
魔法使いである彼の『魔法』は咎魔女であるゆえに強力な『呪い』へと変わり、決して誰にも解くことのできない『呪』になりました。
彼自身でさえ、その『呪』には抗うことはできませんでした。
孤独な魔女は人を避け、転々と住まいを変えながら暮らしていました。
澄んだ海底の鮮やかな世界から逃げるように、暗い洞窟にただ一人、その黒い瞳に光を移すこともなく、ひっそりと。
ただひっそりと、その肉が朽ちるのを待つのです。
何もない場所で、人の温かさを知らず、暗い世界で。
それもいいかもしれない、と魔女は思いました。
生まれたことすら罪な自分には相応しい人生だとすら思いました。
魔女の使い魔は、たゆたう黒髪からのぞく青白い耳たぶにそっとささやきます。
聞こえていないふりをしている魔女に使い魔は面白くないと悪態をつきましたが、そのひそめられた眉が魔女が聞いていた証拠です。
日が昇っても、暮れても、その身を海に漂わせている魔女を見て、鮫の形を模した使い魔は心底愉快そうに口をしならせます。
「存在自体が罪なのだから、お前は幸せになっちゃいけないんだよ」
ケタケタと笑うその軽い声はただ一人以外、誰にも聞こえませんでした。
静かに瞼を閉じて、眠りにつきながら魔女は思うのです。
―願わくば、目覚めることなくこの永遠が終わるようにと。