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終幕後 ――艶笑小話

本編で入らなかった、馬鹿馬鹿しい下ネタ小話です。下品注意。

 王と妃が本当の夫婦になったその後――とある平和な昼下がり。


「飛刃、これは…………………………………………………………美人椅だな」

「……ほ、本当の御夫婦になられた陛下と御妃様への、贈り物っす~」

「……」

「……」

「……ん? 陛下っ、これは飛刃が持って来たのか?」

「――っ!!」


 隆武帝国属トルキア国王昂令は、腹心の武将呂飛刃が、こっそりと持って来た『贈り物』を冷たい視線で見下ろしていたが、それについて妃に問われた途端、顔を引きつらせた。

 そして。


「持って帰れぇえええええええええええええええええええ!!」

「そんな殺生なぁああああああああああああああああああ!!」

「あれー?」


 ガシャアアアアアアアアアアアン!! とけたたましい音を立てて、普段の王にあるまじき荒々しさで、『贈り物』を部屋の外へと蹴り飛ばした。


「持って帰れこの痴れ者!! むしろその恥具を、衆人環視の中背負って帰れこの破廉恥漢が!!」

「あああっ!! そんなご無体な陛下ぁああっ!! オイラの真心っすよぉおおお!! もらってくれっすよぉおおおお!!」

「これ以上ない程いらないよこんなモノ!! お前が使えこの新婚さんが!! 今なら新妻の乳姉妹ちゃんも、寛容な気持ちで許してくれるかもしれないぞっ!!」

「いやあああっ!! 無理っす!! 絶対無理っす!! っていうかっ!! これ一度新居で乳母殿に見られてっ!! 屠殺前の豚でも見るような目でオイラ見られたっす!!」

「益々そんなもん私に押しつけようとするなぁあああ!!」

「……んー?」


 妃は憤怒に燃える王と、その王に縋り付く近衛武将を横目で見ながらすり抜けると、廊下に転がっている物の傍に座り込み、その様子を検分した。


「ふむ……これは……肘掛け寝椅子……とかか?」


 それは妃には、木製のやや幅広で長い丈をもつ、寝椅子のようなものに見えた。


「ふーん?」


 成人男性の頭から足の先までをすっぽり覆うほど長い、緩やかに傾いた寝椅子のような木製品の両端には、やはり長い、かなり丈夫そうな肘掛けらしい部位が作られていた。

 更にその肘掛けには、艶やかな飾り紐が巻き付き、鈴が飾り付けられている。


「ふむふむ……普通に座る椅子……にしては、少々背もたれが倒れすぎな気がするが……」


 だた座る椅子にしては、少々おかしい構造のようにおもいながらも、木の素材や磨き、そして随所に彫り込こまれた紋様などを見る限り、妃にはそれが中々の良品に見えた。

 これを見て何故夫があそこまで怒ったのか、妃にはいまいち判らない。


「――大体だな!! 使う気もない癖になんでこんなもの手に入れてるんだこのバカ飛刃!! バカ刃!! バカン!!」

「ドンドン名前減らさないでくれっすよ陛下ーっ。お、オイラが買ったんじゃないっすこんなもんっ。当然使おうなんて……ちらっとしか思わなかったっすよ!!」

「ちょっとは思ったんかい!!」

「だってーっ!! 新婚さんの戯れで一度くらいーとか思ったっすよーっ!! 乳姉妹ちゃんにゴミでも見るような目で睨まれて、諦めたっすけどーっ!!」

「恥じらいを知る良家の女人なら、それが当たり前の反応だ!! やりたきゃ妓楼に行け!!」

「なぁ、陛下……」


 ならば聞いてみようか、と王を振り返っても、王と飛刃はまだ言い争っている。


「でっ?! 自分で手に入れたんじゃないなら、どうしたんだこんなもん?!」

「う……そ、それはそのぉっすねぇえ……一身上の事情というかなんというかぁ……」

「言え」

「……この前、近衛武将達の宴会で……昔馴染みの元妓女にばったり会いましてぇ……」

「ほう、それで?」

「えーと……彼女今、料亭の女将さんになってまして、主人が最近逝って寂しいから、ちょっと寄って行かないか……とか誘われまして……」

「お前、まさか……」

「いやいやっ!! 勿論断ったっすよっ!! 新婚早々そこまで節操無しじゃないっすっ!!」

「乳姉妹ちゃんを大事にするって、妃にも乳母殿にも誓ったものな?」

「それは、肝に銘じてるっすよ。……それを、誘われた彼女にも言ったっすよ。……そしたらその……まぁなんというか……」


―まぁあっ、呂将軍は独身主義者と思っておりましたわっ―

―私をポイした時も、そうおっしゃいましたしっ―

―奥様十五歳。十六も下っ。まぁああっまぁああっ、とってもよろしいことっ―

―若い頃は遊ぶだけ遊んで、その気になったら若い娘と御結婚ですのっ―

―それはそれは、謹んでお祝い申し上げますわっ―

―……粋な遊人が、つまらない男に成り下がりましたこと―


「……とまぁ、散々嫌味を言われて……」

「……言われて?」

「……その数日後に……御結婚祝という手紙付きで、これが贈られて来たっす」

「……」

「……」

「なぁ、へい――」

「自業自得だこのドアホぉおおおおおおおおおおお!!」

「自覚はあるっす!! でも彼女が嫌味言う気持ちもよく判ったっす!! オイラが恋人として、彼女に不誠実だったのは確かっすからっ、最後の嫌がらせくらい大人しく受け取ろうと思ったっすよーっ!!」

「今更つまらん誠意を見せんでいいわ!! というかそれなら尚更、私達夫婦に回そうとするな!!」

「だって使わないのは、もったいないじゃないっすかー」

「おーい」

「私が嬉々として使うとでも思ったか?!!」

「……結構陛下って、ムッツリなんじゃないかと――」

「不敬罪鉄拳(パーンチ)!!」

「へぶっ?!!」

「よっこいせ……と。おーい、おーい」


 寝椅子のような木製機具を起こしながら妃が呼びかけても、男二人がケンカをやめる事はない。


「うーん、困ったなぁ」 


 飾りの鈴をチリンチリンと鳴らして遊びながら、妃は首を捻って困る。

 正直、王が真っ赤になって怒っているこの木製機具には、かなり興味が湧いた。そしてできる事なら、その使用法を聞いてみたいと思った。


『知識はどれほど持っても、邪魔にならない財産……というものな。知りたいと思ったら、尋ねるべきだろう』


 それが向学心だ、と頷き、妃はその木製機具をズルズルと引っ張って、王の部屋の中へと戻した。


「?! 戻さないで妃?!!」


 妃にやっと気付いた王は、慌てて周囲に控える女官達に命じた。


「この……椅子をっ!!、物置に持って行くようにっ!!」

「駄目だっ」


 と同時に、妃がそれに待ったをかける。

 

「妃っ!!」

「陛下、これはなんだ? 何に使うものなんだ? 夫婦で使うものなのか? 私にも使えるものなのかっ?」


 夫婦どちらが勝つか判らないため、女官達は微笑みを浮かべながらその場に待機し、成り行きを見守った。

 そして王は、妃の言葉に真っ赤な顔を引きつらせ、数秒後慌てて首を振る。


「こ――こんなもの子供が知らなくてよろしいっ」

「私はもう、子供ではないぞ。陛下もそれを認めたはずだ」

「うぐっ」


 そして、今まで通じていた大人の強権発動に首を振る妃に、言葉を詰まらせる。


「こ……子供じゃなくても、淑女は知らなくてよろしいっ!!」

「えー? じゃあ義母上は、これを知らないのか?」

「っ!!! …………あっ、当たり前じゃないか妃っ。隆武皇帝の淑やかな后妃たる母上が、こんなものを知ってるはずはないだろうっ!」

「……陛下、嘘付いてるな?」

「ななっ何を根拠に私の言葉がうう嘘などととととっ」


 聞けば判ると、妃は思った。


「……陛下、腹黒通常装備なクセして、本当に御妃様にだけは嘘が下手っすねぇ?」

「お前は黙ってろバカ!!」

「とうとうオイラの名前が一文字も無くなったっすっ!!」

「自業自得だ!! だから女人との付き合いは誠実であれと言ったんだこの大バカ!!」

「これでも、面倒にならない女を選んでたんっすけどね~っ」


 再びケンカを始める三十代男二人。もしくは国王と将軍。

  

「うーん……仕方ない。」


 このままでは埒があかないと思った妃は、王に効果が在りそうな言葉を探し、口にする。


「陛下が教えてくれないと言うなら――お義母様に手紙で、これについて尋ねるか」

「駄目ぇえええっ!!!」


 王の制止は、非常に素早かった。


「『王が嬉々としてこれを、私に使ってみたいと……』と書いておけば、懇切丁寧に……美人椅だったか? その正しい使用法やより効果的な使用法を、きっと書き綴って送って下さるだろうお義母様なら」

「やめて妃!! 後宮への手紙って検閲入るんだよ!! そんな楽しい手紙、皇上(クソオヤジ)に見つかったら大笑いされる!!」

「そして、『やっぱりムッツリだったか』と皇上に納得されるんっすね」

「黙れ飛刃っ!! 誰がムッツリかっ!! とにかく母上にそういう事を聞くのはやめなさい妃っ!!」

「でも……陛下は教えてくれないんだろう?」


 できるだけ困った風に、妃は言った。王は渋顔になる。


「……妃、なんでそんなに知りたいんだい?」

「知的探求心だ。陛下がそれほど動揺なさる、これの正体を知りたい」

「……べべべべ別に、わわ私はどどど動揺してなななんか……」

「……じゃあ飛刃に聞こう。なぁ飛刃、これは――」

「駄目だって言ってるだろう妃っ!!」

「陛下が、教えて、くれるまで、聞くのを、やめないっ」


 念を押すように、妃は一々区切りながら主張した。

 そして、涙目――に見える表情で王を見上げ、小首を傾げて小声で続ける。


「……判らない事があったら、判るまできちんと調べなさいと私に教えたのは……貴方ではないか、陛下?」

「~~っ!!」

「私は……陛下のために、様々な事を知っておきたいのに……」

「き……妃……っ」


 義母の手紙直伝。『殿方に罪悪感を抱かせつつその気にさせる体勢(ポーズ)』をとった、妃の効果は抜群だった。


「陛下陛下っ、――そこで『……なら、君で使い方を教えてあげようね……妃』からの暗転っすよごぉおっ!!」

「貴様はもう、しゃべるな飛刃っ!!」


 背後から茶化す飛刃の顔面を手にしていた扇で殴った王は、顔を押さえて呻く飛刃をしばらく冷たい目で見下ろした後。


「……どうしても知りたいかい妃?」

「うんっ」

「わかった」


 妃が頷くのを確認して言う。


「なら、使い方を教えてあげようね――こいつで」


 えっ、と顔を上げた飛刃を、王の命令に従った笑顔の女官達が取り囲んだ。



「――さて、美人椅とは、平たく言うと、女人と戯れるための椅子だ」

「うん」

「特徴は、普通に座るにしては少々幅広で、そしてここ、丈夫で長い、肘掛けの部分だ。――これは、肘をかけるだけにしては、妙に丈夫で長いと思わないかい?」

「うん」

「これはね――こう、女人が左右に足を開いてね、膝を立てて、足を絡ませるものなんだ」

「う、うん。――キリシャ語の、M μ(ミュー)の字のようだな」

「そう、正にM字開脚だね。つまりこの椅子は、女人をこういう体勢にして、楽しむものなんだ」

「う、うん」

「そしてこの紐は……こうして、肘掛けに乗った女人の手足をこう、縛めるもの。付いてる鈴は、女人が動く度、チリンチリンと音を立てて、戯れる者達の耳を楽しませるものだ」

「……」

「この体勢にした女人を、男は鑑賞したり、辱めたり、時には道具で苛んだりして、好きに遊ぶわけだ。妓楼などでは珍しく無い玩具の一つで、椅子の上でそのまま情交に至る事もできるよう、最近では大型で丈夫に作ってある物も多く出回っている。素材は木材が圧倒的に多いが、高級感を出すため大理石や金銀製のものもある。紐部分も、絹糸の網紐が主流されるが、最近では暴れる女人を強く拘束するため、皮に金属留めが付いた丈夫な物を、買い手が望む場合もあるらしい。家具屋は購買者の様々な要望に応え製作するため、変わった形や素材のものも製造され、中には芸術品として飾られるような一品も――……」

「……陛下」


 なに、と棒読みで説明を続けていた王は、妃を振り向く。


「……見てて楽しいか、それ?」

「全然」

「……うん。だよな」


 だったらやめてくれっすーっ!!

 という悲壮な悲鳴が、王の目の前で、女官達によってM字開脚で美人椅子に拘束されている、呂飛刃国王付近衛武官長(三十一歳既婚男性)の口から発せられた。


「自業自得だ。まさか女官達を、こんな破廉恥な道具に使うわけにもいかないからな。精々妃のお手本になってしまえ、この馬鹿者が」

「へー、男が乗って暴れても全然平気なんだ。丈夫なんだな~これ。……ほうほう、拘束紐も割と丈夫なんだな……」

「御妃様ーっ!! 真面目に検分してないでっ、やめてくれっすよーっ」

「……こんなものを、一回ぐらいと、乳姉妹に使おうとしたのか飛刃? ……こ・の・助・平・親・父・めっ」

「ひぃいっ!! 笑顔なのに御妃様の目が笑ってないっ!! ――あっ!!」


 そんな騒動が巻き起こった王の部屋に、静々と茶道具を捧げ持った年若い女官が一人、入室してくる。 


「失礼いたします。国王陛下、御妃様。お茶をお持ち――――」

「ああっ! 乳姉妹ちゃん助けてくれっすーっ!」

「……」


 女官は――つい先日呂飛刃の妻となった乳姉妹は、騒ぎの中心であられもない姿で拘束されている夫を見た。


「――お茶をお持ちいたしました。お入れいたします」

「乳姉妹ちゃぁあああああんっ!!!」


 ――そして、笑顔で見なかった事にした。


「乳姉妹ちゃあああん!! 乳姉妹ちゃあああん助けてくれっすーっ!! オイラ虐められてるっすよぉおおおおおっ!!」

「乳姉妹、呼んでるぞ」

「御妃様、私は何も聞こえませんわ」

「うわっ、良い笑顔だな乳姉妹」

「……御妃様。私の旦那様は、国王陛下の尊い御身を守る立派な武人様です。昔の女に恥具を送り付けられ、それを国王陛下に押しつけようとして拘束されるようなアホでは、断じてございませんわ」

「英雄色を好むって故事もあるんっすよぉおおっ!! 武人は基本助平っすよぉおおおっ!!」

「……はっ」

「新妻に鼻で嗤われたぁあああああっ?!!」


 妻に見捨てられ、ジタバタと暴れる飛刃を、ほほほと笑う女官達は更に紐で拘束し、鈴をチリチリと鳴らして遊ぶ。


「なんにしろ……男の欲望って、阿呆だなぁ陛下」

「それは否定はしないよ妃。……だから、知らなくて良い事もあるんだ、判ったろう?」


 その騒ぎを眺めながら、ため息混じりでそうぼやく王の傍に寄った妃は、少し考えた後王の袖を小さく引き、その耳に唇を寄せる。そして。


「……でも、陛下が……どうしてもああいう事をしたいって言うなら。……は、恥ずかしいけど……私は、がんばる、ぞ?」

「…………………………………………………………………………………えっ」


 恥じらいながらの妻の囁きに――王は大いに狼狽え、持っていた扇を床に落とした。



 トルキア国王夫妻によって、美人椅が使われたかどうか

 ――語る帝国歴史書は存在しない。

美人椅……足を開いた女性観賞用椅子。実に(変態)紳士用です。


大変失礼しました。

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