プロローグ ※
紀元前5年に戦国時代を征し、諸将の総意によって皇帝に即位した大祖が建国した古代帝国隆武は、五代宋帝の世に全盛期を迎えた。
北は寒冷地ロジカから、南は亜熱帯地バイナム、東の隈鮮、更には西のオアシス都市惇廊まで勢力を伸ばした宋帝は、積極的な外征に加え、絡め手ともいえる内政干渉で諸外国を征服し、領土を拡大した。
隆武帝国(以下帝国)の内政干渉とは、すなわち政略結婚である。
宋帝はその生涯で、百人を越える妃妾との間に二十七人の皇子と五十八人の公主を得たが、彼らは父帝に政略の駒、諸外国王室を血筋で乗っ取る道具として最大限利用された。
そして様々な異国の民と婚姻を結ばされ送り出される皇子、公主らに選択の余地はなく、当然その中には、不自然極まりない相手と夫婦とならねばならぬ者達もいた。
例えば宋帝の第五皇子と、侵略により帝国の属国となった、西域の小国トルキアの第一王女など、その最たるものだった。
宋帝は由緒正しい血筋と歴史を持つトルキアの王室に利用価値を見出し、息子である帝国第五皇子昂令と、トルキア王国第一王女リディアとの政略結婚を取り決めた。
だがこの二人が結婚した初夜において、実質的な夫婦の契りを結ぶのは、どだい無理があった。
――なぜならば婚姻時、新郎である帝国第五皇子昂令が十六歳の青年であったのに対し――新婦トルキア第一王女リディアは、まだ生まれてまもない赤ん坊だったからだ。
帝国皇帝という巨大権力者の思惑によって翻弄された青年と赤子はこうして、互いの意志とは無関係に政略結婚という契約の元で仮初めの夫婦となり、不自然な夫婦生活を強いられる事となる。
この物語は、そんな悲劇の犠牲者となり、千年を超える帝国史の片隅に消えて行った小国王と妃の。
「――いたたっ! 妃っ、きーさーきーっ! ダメーっ! 僕の王冠ひっぱっちゃだめーっ!」
「だぁーっ♪ だぁーっ♪」
「これ一応、父帝に送る夫婦肖像画なんだからねーっ!! 王様が冠落としてたら帝国皇族としての威厳が――アッー!!」
「あふっ♪」
――日常話である。
馨月あき様画
以後参考資料
Wikipedia
目で見る世界の古代文明シリーズ古代中国文明 ロバート・ノックス 佑学社
早わかり世界史 宮崎正勝 日本実業出版社
中国古典一日一言 守屋洋 PHP文庫
中国名詩選上 松枝茂夫編 岩波文庫
中国服装史~五千年の歴史を検証する~ 華梅 白帝社
中国五千年性の文化史 邱海濤著 納村公子訳 集英社
図解装飾品 池上良太 新紀元社