あなたと
あなたとの登下校。
学校ではなかなか会えないから、私はこの時間を大切にしている。
あなたは私を待たせてばかり。
別に寂しくはないけれど、もう少し、早くてもいいんじゃない?
あなたはずっと考え事。
話しかけても、いつも返事は返ってこない。
もう少しかまってほしいけど、私はこれでいいと思っている。
あなたの顔をずっと見ていられるから。
ひとつ困っていることは、ボーっとして前を見ないから、危ない目に何度あったことか……
壁や柱にぶつかったり、道を外れたり……
も~~~しっかりしてよ。
そんな頼りないあなただけど、本当は優しい人だということを私は知っている。
ねぇ、覚えてる?
私が調子悪かったときは、私のペースに合わせて、ゆっくり一緒に歩いてくれた。
病院まで連れて行ってくれるのはうれしいんだけど、診察が終わるまでいなくてもいいんだよ?
ちょっと恥ずかしいんだから……
そんなあなたと別れが近づいている。
卒業式の帰り道。
あなたと出会ったのは中学の少し前だったから、ちょうど六年になるのかな?
そんなに長く、私たちはずっと一緒だったんだね。
会ったその日から、私たちは仲良くなって、入学式の日には一緒だった。
高校も一緒に行けることが分かったとき、私がどんなに喜んだか……
それだけに、あなたとあまり会えなくなってしまうのはつらい。
一生会えないわけじゃない。
それが分かっていても、悲しいものは悲しい。
もっと一緒に居たかったよ……
今日のあなたはもう何も話してくれない。
ねぇ、なにか話してよ。あなたの声を聞かせてよ。
そう何度も思うのだけれど、この想いはあなたに伝わらない。
そして、とうとう家に着いてしまった。
あなたと過ごす時間はいつも短く感じるけれど、今日はより一層短く感じた。
時よ止まれ、時よ止まれ。
何度もそう唱えても、私の願いは届かない。
あなたはいつものように別れを告げず、私から離れていく。
待って。そう思ったときだった。
あなたは足を止め、私の方へ引き返してくる。
「頻度は減るけど、また次も頼むぞ」
私を軽くトントン、と叩いてあなたは言った。
不意を突いたその言葉がうれしくて、私は満たされる。
うん、こちらこそよろしくおねがいします。
あなたと行く道は短いけれど、あなたと一緒にいる未来は長く続きそうだ。
卒業式の日に、部員にのみ公開した作品です。
あらすじから勘の鋭い人は気付いたかもしれませんが、主人公の裏設定は自転車です。
私も中学高校と6年間、世話になりました。