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ろぐ☆あうと  作者: 奈良都翼
魔術師&恋人たち
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愛の真剣出来レース!

こんにちは。今回はわたし、一葉楓です。


「……で、どうするの?」

「どうするって言われても……なぁ……」


 一時転職をし直すためにはレベルが15必要だ。レベル15になったら一時転職……つまり、職業『剣士』になれる。無論、一時転職クエストをクリアして町長の呪いのダンスを見たらだけど。……うわ、想像するだけで気持ち悪くなってきた。

 これからやるのはもちろんレベル上げ。だけど、クエストをやるかフリーのままモンスターのいるエリアをぶらつくか。

 クエストを受けると報酬がもらえるのはいいが、達成するためにいちいち街に戻らなければならない。それに限られた場所しか行けなくなることもある。

 反対に、フリーで探索しているとスタミナが尽きるまで経験地を上げることは可能だが報酬は無い。モンスターのドロップアイテムと経験地しか手に入らない。


「……どっちがいい?」

「うーん……私はどっちでもいいけどね」

「桃鹿でも狩るか?」

「殺す!」

「……桃鹿はやめようか」

「うん」


 うわぁ……こえぇ……。一瞬夜桜の背後に死神が見えたような気がした。それも桃鹿専用の……。

 桃鹿がだめとなると一時クエストで行った森か、ゴブリン洞窟の奥のオークがるエリアがいいかな……うん?

 頭の中でエリアマップを広げているところで思い出した。俺がリリアと転職クエストに行く前に死ぬために立ち寄った桃鹿のいる森。夜桜が植えた羅刹のごとくひたすら桃鹿を殺していたその奥。俺が落ちた……もとい、バンジージャンプした崖の下。


「ちょっと心当たりがあるところがあるけど」

「ふぅん? どこ?」

「桃し――」

「殺す!」

「……ぅ」

「……どうしたの、良?」

「いや……えっと……と、とにかく行きたいエリアがあるからさ」

「そう? どこ?」

「い、行けば分かるよ、ははは……」

「ふーん」


 精一杯の笑顔で答えたが、乾いた笑い声しか出てこなかった。だって……夜桜の後ろに死神が立っているようにも見えるんだもん……。

 とても「桃鹿」と口に出すことはできないので黙ったまま桃鹿のいるエリアに歩を進める。もし口にだそうならば俺までも夜桜の魔法の餌食にされかねない。HPがすぐにレッドゾーンまで削られるかも……いや、俺は死ねることを知っているからエンドレスデッドスパイラル!? お、なんかの必殺技みたいだ。「終わりの無い死への螺旋」……? 英語って不思議だな。日本語から変換するだけでなんだかかっこよく聞こえたりするんだからなぁ。


 夜桜には言っていないが、実はレベル上げのほかにもう一つだけ俺の願望があった。このジョクラトルオンラインの中でも絶品とされる肉……桃鹿の肉をぜひ食べてみたい! 聞いたところによると、初期のレベルでも手に入る食材で味、スタミナの回復率共にトップクラスの肉らしい。しかもドロップする肉はすべて「桃鹿肉」と表示されてはいるが、味、歯ごたえは千差万別。豚ロースのように脂身ジューシーなものもあれば、アメリカンステーキのようなさっぱりした肉の味が楽しめるものもある。ぜひすべての味を堪能してみたいものだが何種類の味があるのかは分からない。大きさ、性別、スポーンした地点、行動距離……これらをすべて考慮した末の肉なので何種類あるのか見当も突かない。しかもだ! 桃鹿の肉は味の多様性とあいまって極めてドロップ率の低い食材アイテムだ。そのドロップ率の低さと味の多様性からユーザーの間では桃鹿専用料理店を出すものもいるが値段は破格の――というヤバイ数字だ。だが、そんな肉だからこそ……俺は食べてみたい。低いドロップ率のその数字にかけて俺は……一度でいいから桃鹿の肉を食べてみたいんだ!


 と……俺が桃鹿の肉を頭の中で妄想大サーカスをしている間に街の門に着いた。街を出る前に手持ちアイテムの確認……HPポーション、MPポーション、スタミナ回復のためのパン、脱出玉、縄……うん。大丈夫だ。


「夜桜、お前脱出玉は持ったか?」

「うん。大丈夫、持っているよ。それより……どうして縄なんて持ってるの?」

「まあそれはいずれ分かるよ。今は秘密にしとく」

「えー」


 不満垂れ流しの夜桜を無視して街の外の森に入る。柔らかな日差しが枝の隙間から覗く少し明るい森は全く恐怖感や不安感を煽り立てるような感じはしない。さーて、あの崖に向かいつつ桃鹿を殺していくかー。もちろん肉のドロップを祈りながらね。

 すると早速茂みの中から桃鹿が出てきた。平均より少し大きめな体で角が成長しかけている桃鹿だ。でたでた、じゃあ早速――

 俺が背中からショートソードを引き抜こうと柄に手をかけた時、俺の後ろの空気が一気に熱くなり、肩をかすめながら飛んできた。高温の火の玉は勢いを緩めることなく目の前の桃鹿に直撃し、光の粒に変えた。

 基本の下級魔法「ファイア」だ。放ったのはもちろん……。


「桃鹿……殺す」

「またお前か!」

「桃鹿は死すべき」

「そんなに桃鹿ばっかり殺すなよ! MPもったいないだろ!」

「桃鹿のためならば喜んで消費しよう」

「そもそも『桃鹿かわいい』って言ってたお前はどこいったんだよ! あっちの夜桜のほうが今よりずっとかわいかったのに!」

「仕方が無い……え? 今なんて言ったの?」

「『桃鹿かわいい』って言ってたお前のほうがかわいかったって」

「え!? それほんと?」

「少なくとも今の桃鹿を殺すときの顔よりはずっと」

「え……」

「あのころのほうが良かったなーかわいかったなー」

「直します! 笑顔で怖くないようにします!」

「おーし。そっちのほうがいい。じゃあ、先に進もう」

「うん!」


 よし! あの恐怖の桃鹿殺しの夜桜から今までのかわいかった夜桜にさせることに成功だ! 何とか治ってもらわないと、この森じゃあモンスターよりも夜桜におびえながら剣を振るうことになっていただろうからな……それはいやだ。


「ふふふ、かわいいって……ひゃぁ。うー……」


 なんだかくねくね体をよじらせているけど、ほっとこう。

 するとまたもや桃鹿が出てきた。気の間を抜けたところに三匹の桃鹿が草を食んでいた。二匹は大きな角を生やしたオスのようで、もう一匹がメスのようだ。こちらに気が付くと角の生えている二匹のオスが角を振って威嚇して、角を前に突き出しながら俺たちに向かってきた。

 よし、今度こそ倒して桃鹿の肉をドロップさせて――


「テオファイア!」


 瞬間。目の前にいた三匹の桃鹿は真っ赤な火に包まれてすぐに光の粒に変わった。桃鹿が逃げられないような広い範囲に放たれた炎は余波で周りの木まで燃やしている。


「うふふ。苦しいのは誰だっていやだもんね、痛くはしないからねー」


 もちろんテオファイアを放ったのは夜桜。振り返るとあの鬼のような相手を恐怖のどん底に突き落とすような顔は無く、それはもういつも通りのかわいらしい笑顔の夜桜は……やっぱり怖かった。


「痛くないよー。わたしが一瞬で殺してあげるからぁ」


 うふふと夜桜はとても優しそうな笑顔で言う。十人いれば十人が『かわいい笑顔だ』と言うほどのパーフェクトスマイル。

 俺にとっての……デススマイル・オンリー・フォー・桃鹿。


 やっぱり離れない背中の恐怖に気疲れを感じながら、俺は一度死んだバンジージャンプの崖へと向かった。


◇◆◇◆◇◆


 時折出てきた桃鹿を慈愛に満ちた笑顔できっちり、しっかり、一発で虐殺しまくる夜桜のせいで予定より少し遅れて着いた思い出のバンジージャンプの崖。俺と鬼夜桜の思い出の崖。


「ここは……!」

「知っているのか?」

「うん。追っていた桃鹿がここに落ちたんだ。いや……逃げたのかな? 絶対に苦しませずに殺すのに……もったいない」


 今ほど夜桜から逃げて良かったと思ったことは無い。つまりは俺も虐殺……うわああ! 考えちゃだめだ! 考えたら膝が震えてここから真っ逆さまだぞ! 死んでも死なないけど。


「で、ここでなにするの?」

「下見てみろ」

「うん……あ!? すっごいおっきい森!? こんなのがあったなんて……」


 まあ知らなかったのも無理は無い。プレイヤーのマップは一度行ったところは地図に表示されるが、言ったことの無い場所は白紙だ。俺は崖から落ちたことで地図が埋まったが、この下の森に行ったことの無い夜桜は知らなくて当然だろう。そもそもあいつは桃鹿のスポーン地点の近くで狩りをしてたこともあるしな。


「今日はこの下の森に行ってみようと思う。新たな狩場の開拓だよ」

「うーん。でもどうやって下まで行くの? ……あ、だから縄?」

「そう。この縄を使おうと思う。しかもこれはこういう崖の移動のための縄だからある程度の距離がある。こういう地形にはもってこいだ」

「へー。良ってけっこう考えてるんだねー。レベルは低いけどスゴーイ」

「レベルが低いは余計だ」


 夜桜は手を叩いて賞賛してくれたが、実際のところ俺の懐は痛かった。この縄……転職クエストと今までのお金を全部使ってやっと変えたんだよなぁ。パンやポーションはストックがあったから、縄しか買う必要が無かったとはいえ……痛かったなぁ。


「じゃあ早速行こうよ!」

「おう。ちょっと待ってろ……」


 アイテムメニューを開いて「縄」を選択する。アイテムボックスから縄のアイコンが消えるとフィールドに縄が現れる。見た目こそ短そうな縄だが、この縄はお値段がお財布に不健康なだけあっての優れもの。いくらでも伸びる縄なのだ!

 俺は近くの木の幹に縄の一端をしっかりと結びつけ、もう一端を崖下の森に向かって投げる。機につながれた縄はお値段がお財布に不健康な――使用者が解除しない限り絶対に解けない縄なのだ! ちなみにいくら体重が重くてもそこはお値段がお財布にふけ――絶対に千切れない!


「じゃあ、脱出玉の準備はいいか? 危ないモンスターが出たりしたらすぐに使うんだぞ?」

「分かってるって。だいじょーぶだいじょーぶ」

「じゃ俺から行くぞ。下に着いたら縄を二回引っ張るからそしたら降りてくれ。二人以上のプレイヤーが同時に降りると千切れるからな」

「へーそうなんだ。うん分かった」


 夜桜の返事を聞いて俺は両手で縄を掴んでゆっくりと降りていった。うわっ……崖、高すぎ……。おれ、ここでバンジージャンプしたのか……。勇気あったな、俺。いや、あの時の夜桜に比べればこんな崖なんてちょろいもんだ。ほら、あの時の夜桜を思い出せば……うわああ! 夜桜こえええ!! やめろ! 俺の頭を支配するな! 崖のことだけを考えろ! 降りる事だけを! あのときの夜桜は夢だ幻想だ蜃気楼だああああ!!

 冷や汗びっしりかきながらただ足を下に持っていくと……いつの間にか着いた。とんっと地面に両足を下ろす。うん。やっぱ地面の感覚はいい。しっかり大地に立っていることがどれほど幸せなことなのだろうか、今実感させられた。


 崖から垂れているロープを軽く二回引っ張って夜桜に合図を送る。すると、崖のふちから人影が現れてゆっくりとロープを降りていった。

 どこか危なっかしい感じもしたがそこの心配は無用。使用者が設定すると縄をセーフティモードにすることができるのだ。いくら使用者が運動能力に自信が無くても大丈夫。流石はお値段がお財布に――セーフティモードにすると行動補正がかかってこの縄から落ちることは絶対になくなるのだ!

 モンスターの気配が全くしないのでのんびりと下りてくる夜桜を見上げる。


 ――!! み、見え……見え……チッ。ロングスカートではなかなか見れないか。上手く隠れて見えるのは太ももまでだ。


「ちょっとなに見てんの! しっかりモンスターの警戒してなさい!」


 ……怒られた。しぶしぶ顔を森の奥へと戻してモンスターの警戒をする……が、全然気配は無い。

 崖の上の森と同じような柔らかな光が差し込む森は全くのんびりしたもの。なにやらおぞましいモンスターが出る気配はないし、イメージも無い。桃鹿のような鹿とか、犬とか猫とかいそうな森だ。

 とっと後ろで音がしたかと思うと夜桜が立っていた。無事に降りられたようだ。さすがはお値段――。


「なんかどっかのセールスマンみたいにその縄のこと褒めてるね」

「地の分を拾ってんじゃねぇよ。さて……行ってみるかな」

「うん。どんなモンスターが出るんだろうね?」


 森に入って話しながら歩く。本来ならば突然モンスターに対してかなり注意散漫なのだろうが……ここにはモンスターの気配がぜんぜんしなかった。それは夜桜も感じているのだろう。だからこんなに呑気に話しながら歩いていられるだろう。


 だが、そんなゆるい雰囲気は突然ぶち壊された。


 俺の鼓膜を震わせたのは軽く、乾いた音。少ない火薬が爆発したような音は緩みきった緊張の糸を一瞬で張り詰めた。はじめの一発に続いて二発、三発とあちこちから乾いた音が響いた。

 すぐさま背中のショートソードを構えてモンスターの気配を探し回る……が、音に邪魔されて上手くモンスターの音を見つけられない。


「なに!?」

「モンスターか!? どこだ?」


 気配はない。相当身のこなしの上手いモンスターなのだろう。俺と夜桜は来た道をじりじりと交代しながら木々の間に視線を探る。

 そのとき、一気に火薬の爆発する音がして目の前に白煙が上がった。


「おめでとうございます! わが『月光猿森連合軍』はあなた方を歓迎します!」

「「…………は?」」


 妙な男の声が聞こえたかと思うと、どこからか陽気な音楽が流れ始め、森のあちこちから猿が出てきた。……全員、人間用の戦士や魔法使いの装備を着て。

 白煙の中から現れたのはシルクハットとタキシードに赤い蝶ネクタイをつけた猿だった。タキシードの猿はグッド営業スマイルを浮かべて、


「お二人が初のこのフィールドの来場者となります。お二人は恋人同士のように察します……そこで、当フィールドからの特別プレゼント!」


 突然のモンスターらしき猿軍団の登場に呆然とする俺と夜桜なんてかまわずにタキシード猿は来場者プレゼントを告げた。

 ……確かにプレゼントを貰えるのはうれしいのだが……すまん。頭が追いつかないらしい……装備を着た猿と軽快な音楽。……頭が変になりそうだ。


「そして、ここに『愛の力で乗り越えろ! 月光猿森から噴水広場までのガチレース!』を開催します!」


 タキシード猿がなんだけわけの分からんことを行ったかと思うと周りの猿から歓声があがった。

 ……もう、帰っていい? 意味わからなさ過ぎて頭がショート寸前だよ……。

 だが、とまった俺の頭は一気に起こされた。気を抜いて周りの様子を傍観してたら……


「むぐ――!?」

「――ッ!? 夜桜!?」


 いつの間にか背後に回られた数匹の猿に夜桜が縄で縛られた。突然のことで夜桜は対応できず、なされるままに縛られた。


『イーヨロットイーヨロットイーヨロットイーヨロットワットワーイ……ワアアアァァァ』


 おそらく全知全能のゼウスですら、イスラム教の唯一絶対神ですら、日本の八百の神々の英知を結集したとしても解読不可能な意味不明の謎過ぎる掛け声で……夜桜がどこかに運ばれた。

 フリーズした頭に軽快な音楽が流れて……しばらく呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


「おい! 夜桜をどこやった!?」

「ご心配なく、噴水広場に運びました」


 ショートソードを構えてタキシード猿に詰め寄るも、猿は涼しい顔をしながら続ける。


「あなたにはこれからレースをしてもらいます。スターと地点はここ、ゴール地点は夜桜さんのいる噴水公園です。夜桜さんの頭に触れると自動的に縛った縄は解けますよ」

「ふざけんな! レースなんかに参加するか! 俺はもう帰る!」


 何だこれは!? ふざけすぎだろ! 誰がレースに参加するか! さっさと帰る! 別の場所でレベル上げはする!

 武器を収めてさっさと崖に戻ろうとした俺に、タキシード猿は声色を変えずに言った。


「もし断るのなら……夜桜さんを我ら『月光猿森連合軍』の総帥……《皇帝》の二つ名を持つあの方に……差し上げますよ?」


 猿の声は変わらないが、冷たい死の宣告のようにも聞こえた。

 皇帝……このジョクラトルオンラインをクリアーするためのボスの一つだ。当然、今の夜桜や俺のレベルで勝てる相手ではない。


「《皇帝》は他のボスと違ってお強いですからねー。きっと……一ひねりでしょうね」


 にやりと口元をゆがめたタキシード猿の言葉に、俺が反論することは何一つ無かった。

 結局、俺はタキシード猿に向き直り話を聞くことにした。回りに常に流れる音楽がひどく深いにも感じられた。


「わが連合軍最速の猿をご用意いたしました。このことレースをして勝ったらあなた方にプレゼント。負けたら……この森で猿たちを全員を敵に回してサバイバルしてもらいましょう」


 断る理由は何もなかった。断れなかった。

 タキシード猿は武器こそ持っていないが、こいつの言葉は俺の心臓にナイフのように刺さる感じがする。

 ……ん? 待てよ? このレースのゴールって……。


「では用意はいいですか?」

「……おう。いつでもいいぜ」


 これはもうできレースみたいなもんだ。俺相手にゴール地点を(・・・・・・)噴水広場にして(・・・・・・・)勝負を挑んだのが間違いだ。

 タキシード猿の後ろから出てきたのは小柄な猿だった。来ている装備は……どうやら『忍者』の装備のようだ。速度重視の職業だ。普通に走っていたら魔法職の俺が勝てるわけが無い……が。


「位置について、よーい……スタート!」


 タキシード猿の合図とともに俺と忍者猿は走り出す。流石は忍者だけなあって早い。俺とは比べ物にならない速さで木々の間を走る。

 俺と忍者猿の間はどんどん広がり、やがて俺の周りに猿は見えなくなった。忍者猿もタキシード猿も音楽を奏でる猿もいない。


「……よし」


 俺はメニューの設定画面でリスポーン設定を『最後にログアウトした地点に戻る』にして、背中のショートソードを引き抜き。


「せい!」


 自分自身を切りつけた。

 ――――ッ!! い、いってぇ!? 思ったより痛い!? 腹がえぐれる! 内臓をかき乱される! ……って実際、自分がやってるんだ。

 腹にショートソードを刺して力をこめるとHPがみるみるへり、レッドゾーンに入り……目の前が真っ暗になった。


◆◇◆◇◆◇


 晴れた視界に映ったのは、いまや馴染みとなった人気のない路地裏。

 俺は全速力で噴水広場に向けて駆け出す。人の間を縫うように走って……。


「……いた」


 噴水広場には縛られた夜桜がいた。人がちらほらといる広場のベンチに縄で縛られたまま一人で座っている……どんな羞恥&放置プレイだよ。

 当然のことながら忍者猿はいなかった。まぁ当たり前だよな。はじめからあいつの負けは決まってたんだし……。


「ほい」


 夜桜の頭に手を置いて縄を解く。よし、圧勝。


「……最悪」


 顔を赤らめたまま夜桜はベンチから動かない。そりゃあんな人がいるところで縛られるなんて……俺なら絶対拒否するね。死んでも。


 しばらくして忍者猿が息を切らしながら噴水広場に着いた。


「はぁ……はぁ……あいつは来てない……僕の勝ち――ッ!?」

「お前……忍者の癖に魔法使い、しかもこんな低レベルに負けるのかよ」

「え……? え……!?」

「お前……遅くね?」


 『勝った』という確信に満ちた顔は俺を見ると一気に反転。目に涙をたくさん溜めて歯を食いしばりながら泣きそうな顔になった……あ、泣いちゃった。


「プ、プレゼントは後日。わたしたちの森まで着てくさい。で、では!」


 忍者猿はそういうと、涙の大洪水を起こしながら森に走って帰って行った……あ、転んだ。


「……良。どうせチート使ったんでしょ?」

「きれいごとはいらない! 要は勝てばいいのさ!」

「……全然かっこよくないから」


 でも……あの忍者猿の速度の自信を奪ったのは悪かったかな?

うわ……ちょっと長かったですねww

次は彩菜さんです! がんばってください!

あ、あと、感想よろしくお願いします

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