二人は魔法使い
こんにちは。二週目の霧々雷那です。うーん……みなさん、リリアのキャラが……
そういえば、読者の皆様は何で、リリアなのか分かっていらっしゃいますか?わからなくても別にかまいませんが、いろいろと深いわけが……と、言っても単に名前付けが面倒+番宣なわけですが……
前書きはこの辺にして、そろそろ本編をどうぞ~
俺と夜桜は二人で街に戻ってきた。
ポータルを通るときの光から元の視界に戻ると、そこにはリリアが木にもたれかかって待っていた。朝になり、明るくなった街の様子はあまり変わりなく、相変わらず閑散としていた。
「お帰りー! 大丈夫だった?」
俺たちの存在に気が付いたリリアはウェーブのかかった髪を風になびかせながらこちらに走って近寄ってくる。
「あぁ……そう言えば、他の人達は?」
「わたしがクエスト達成されたこと言ったらすぐに町長のとこ行っちゃたよ?」
「お前は行かなかったのか?」
「今から行くよ? 頑張った二人と一緒に」
俺は自分の体力ゲージの方を見た。すると、すでにパーティメンバーは三人になっており、二人が抜けてしまっていることがわかった。
俺は軽く手を振り、メニューを開く。するとフレンド申請とともに、二人分のメッセージがあった。
これを見るのは後にしよう。今はとにかくクエストを早く終わらせてしまいたい……
俺はメニューを閉じると、そこには覗き込む形で俺の顔を見つめていた。薄紅色の丸い目が俺の視線を捉える。
「それでぇ? どこまで行ったの? お二人さん!」
「「何もしてない!!」」
俺と夜桜は同時に何かを否定した。俺はもちろん卑猥なことを想像してしまったわけだが、夜桜に関してもそうなのだろうか……
俺たちの反応を見たリリアは俺から2、3歩距離をとり、不気味に笑った。俺はその笑顔に何故か、恐怖を覚えた。特にリリアを怖がっているわけでもないのになぜだろうか……
「あれぇ? 『わたしはどこまで行ったの?』って聞いたんだよ? マップのこと言ってたんだけどなぁ……」
「あっ! お前ぇ……」
俺は少々の怒りを覚えたが、後ろでサウナに長時間いたかのように赤くなっている夜桜を見てその気持ちは一気に吹き飛んだ。まったく、夏輝は何を想像したんだ?
「にゃはははは! ひっかかった! 夜桜、顔まっかになってるよ!」
顔を真っ赤にした夜桜を見ると、何故だか俺もリリアのことを怒れなくなってくる。無邪気に笑うリリアは自由気ままなネコのようだった。
「じゃあ、わたし先に町長のとこ、行ってるねー!」
「ま……まちなしゃい!」
まちなしゃい? どんだけ夏輝はテンパってるんだよ……
俺は戦闘で疲れた体……と言ってもアバターだから疲れは精神から来るのものため、実際には感じない疲労感を軽く体を動かすことで解消して、目の前で鬼ごっこをしているリリアと夜桜の後を走って追いかけた。
◆◇◆◇
俺とリリアは町長にクエスト完了の報告をした。すると、町長のNPCはにんまりと笑顔になった。
『やったのぉぉぉぉおぉぉぉおおおおおおおおおお! お前らついにやったのぉぉぉぉぉおおぉおおおおおおおぉぉぉおぉおお!!」』
なんだ、このハイテンションなジジイは……町長ってたしかもっとおしとやかじゃなかったっけ?
『お前らはすでに立派な旅人じゃ! お前らが転職したお祝いにどれ、ワシが一曲、北の国で習った踊りを披露してやろう! あっそれ、キタ、キタ~!』
何故だろう……俺たちはその踊りを見た途端、力が抜けその場に膝をついてしまう。ちなみに、ここは街の中なのでダメージはおろか、状態異常にすらかからないはずだ。だが、現に俺たちは踊りが終るまで、その場を動けなかった。
やがて、踊りが終わり、俺たちはようやく体に力が戻ってくる。あの踊りは一種の呪いなのだろうか……
『ワシの踊りを見てくれたお礼じゃ。ほれ』
俺とリリアを急にまぶしいライトエフェクトが包み込んだ。俺は思わず目をつぶってしまう……
数秒後、俺が目を開けるとそこは……なにも変わっていない。まぁ、至極当然だ。だが、どうやら職だけは変わっているようだ。システムメッセージに俺とリリアが転職したことが書かれていた。
『がんばれるのじゃぞ。お前らは人類に残された最後の希望……Arcana Eaterなのだから……さぁ、お前らの狩りは進化したぞ! 旅立てぇぇぇぇええええええ!!』
これが町長の最後のセリフとなり、目の前に『クエスト達成』の文字が飾りつきで表示される。さすが一次転職だけあって豪華だ。
町長の長い話が終ると、夜桜は深いため息をついた。
「はぁ……外で待ってればよかった……」
「あれ? 夜桜って二回目だよな……」
そう、夜桜はすでに転職を終えているため、町長の変な踊りを見るのは二回目なのだ。
「そうよ! あぁ……忘れてさえいなければ……」
夜桜が気分を悪くして、部屋の隅へ……おい! ちょっと待て! これ、そこまでの威力あったか? だとしたら、これってあの『よくわからない技の輝き』みたいじゃないか……そう言えば、リリアは……
「ふ、ふーん……どう?」
リリアは一回転して自分の服を見せつけていた。リリアの服は冒険者服からすでに別の服に……
上から装備は『マジカルハット』
『マジカルマント』
『マジカルクロース』
『マジカルグローブ』
『マジカルスカート』
『マジカルブーツ』
と、完全にマジカル装備だ。武器には夜桜と同じような本……あれ? ちょっと待て! リリアって僧侶になるって自分で言ったよな……
「リリア……僧侶じゃなかったっけ?」
「ひっかかったわね……それは単なるブラフよ!」
「なん……だと……」
俺は唖然として、得意げに鼻を鳴らすリリアを見る。まったくこいつは何を考えているのやら……
どうやら、リリアは魔法使いになったらしい……そういう俺も魔法使いになったのだが……
でも、俺って武器……俺は自分の背中にささっているショートソードを見た。これは一応、魔法使いでも使えるらしいが、これ以上の剣は装備できるはずがない。
「にゃははは! それじゃ! 頑張ってねー、お二人さん!」
そう言うと、リリアは意気揚々と町長の家を飛び出していった。数秒後、HPバーの名前の表示が一つ消える。これで、パーティは俺と夜桜だけになる。
「リョ……ウ……」
青ざめた顔しながら、夜桜は千鳥足で俺の元に近寄ってくる。どんだけ、効いてるんだよ! 効果はばつぐんか? このやろー!
「おい、夏輝……あんまり無理はするなよ……」
「大丈夫……それより、良は今何レべ?」
「俺か? んーと、7だな」
サイクロプスを倒したのと、今回のクエストでレベルが一気に上がったらしい……あと、森をさまよったせいか?
夜桜は得意げに鼻を鳴らしているが、完全に顔が青ざめているため気迫は一切ない。
「はん……私は11よ。良はレベルが低っくいねー」
強がる夏輝は何だか、かわいそうに見えてくるのは俺だけだろうか……
「あー……俺は弱くていいから、宿屋行くぞ! 俺は疲れてたまらん」
本当は夏輝を休ませるためだが、ここは夏輝のプライドを守ってやるとしよう……
「あまいわね、リョウ! そんなのだから、いつまでもそのレべ……ウっプ……」
「ストーップ! もういいから、もう、俺は雑魚でも何でもいいから、早く宿屋に行くぞ!」
「しょ、しょうがないわね……」
夜桜は吐きそうになったことを反省したのか、渋々宿屋に行くこと了承してくれた。まったく、何処までも世話のやけるやつだ……あれ? それは俺もか……
◆◇◆◇
とりあえず、夜桜を宿屋のベッドで寝かせて、俺は一人、街に出ていた。
「さて……どうしようか……」
正直、今からやることが見つからないというか……勝手に出かけたら夏輝に怒られそうだ。怒られるのは面倒くさいので嫌いだ。
だとすると、俺があとやるべきことは……
「現実にでも帰るかな……」
俺は誰にも聞こえない声でそうつぶやいて、一人路地裏に入っていった。そこで、メニュー画面を開いて、ログアウトボタンを押す……
俺の体は光に包まれた……
◆◇◆◇
目が覚めると、そこは俺の部屋だった。何の変哲もない現実の世界だ。これができるのは俺一人だけ……どうやっても夏輝を助けなければ……
俺は新たな決意を固め……キッチンに向かう……
俺は冷凍庫のものを引っ張り出し、電子レンジで温めて食べる。食べながら、俺はテレビをつけてニュースを見た。ニュースでは相変わらず、夏輝を閉じ込めているあのオンラインのことを放送していた。しかし、それもすぐに切り替わり、天気予報へと変わる。
『8月18日の天気は晴れ。紫外線に注意して出かけてください』
ニュースキャスターが流暢に喋っているのを俺はただ聞いていた……あれ? 8月18日? そりゃそうだよな……俺が初めてログインしたのは8月16日なんだし……
あれ? だとすると……大学って夏休みじゃね?
俺はキッチンに立てかけてあるカレンダーを見た。あのカレンダー……一ヶ月前のものだし……
俺は自分の犯した失態に頭を抱えた。
なにが、大学に行かなきゃだ……夏休みなのにわざわざ大学に行く必要なんてあるかよ! 長い休みだからこうして実家に戻ってきてるんだろ……
「あぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の驚きが誰もいない自宅に響いた。ちなみに俺の両親は旅行に行っていていない。だが、帰って来る予定日は今日……
だとすると、俺は少々動きづらくなってくる。母親に『ゲームのやり過ぎだ!』なんて言われて取り上げられた日には最悪だ。
俺は素早く残っていた冷凍チャーハンを食べ終わり、食器を洗い、旅立つ用意をした。忘れ物がないように……場所を移動するんだ! 親が帰ってく前に……俺はまとまった荷物を持ち、早歩きで移動しながら、大学の宿舎に帰るメールを母親に送る。
大学の宿舎は電車で二時間半ほど……俺があちらで再接続したころには夜桜が目を覚ましているだろう……
目を覚まして俺がいなければ、また夜桜に怒られちゃうんじゃね? あれ? やばくね?
俺は背中に嫌な汗が噴き出ているのを感じながらとにかく帰路を急いだ。電子ロックを素早く入力し、アナログのカギで自分の個室に滑り込む。俺の大学の宿舎はマンションのように各部屋で区切られているため、あまり互いの干渉は少ない。ネトゲをやるにはもってこいだ!
俺は荷物を即座において、中から取り出したヘットギアを起動させる。その間にトイレを済ませる。もちろん大きいのも、だ。トイレの水を流し、俺は即座にヘッドギアを被って、ジョグラトル・オンラインを起動させる。
間に合え! お願いだから間に合ってくれ!
一瞬の無重力空間の後、俺の視界は再びあの路地裏に戻ってくる。俺は視界がクリアになるか否か、というギリギリのタイミングで走り出した。目指すは夏輝の寝ている宿屋……
俺は滑り込むように宿屋の中に入った。俺と夜桜で二人部屋を借りたので、入れなくなる心配はいらない。俺は部屋のドアをそーっと開けた。
すると、未だにベッドで寝ている夜桜の姿……
俺は安堵の息を吐き、音を立てないようにゆっくり入った。
「んっ……」
俺がドアを閉めると同時に、夜桜が寝息をたてたため、俺の体はビクついて大きな音を出してしまう。そんな音に反応し、夜桜は仰向けの体をこちらに傾け、眠気眼でこちらの方を見た。
「リョウ?」
「わりぃ……起こしちゃったな……」
「いいよ……もう、スッキリしたし……」
夜桜は三時間前とは全く違う、明るい顔色に戻っていた。どうやら、完全復活したらしい。
「ねぇ、リョウ……私たちってどちらも魔法使いだよね……」
「あぁ……そうだな……」
「それってバランスが悪いと思わない?」
「たしかにな……」
俺は相槌をうつように頷いた。実際、俺たちは魔法使い二人パーティという前衛も後衛もクソもない最悪なパーティだった。それはどうしようもない事実だ。
「それで私思ったんだ……」
「何を思ったんだ?」
「バランスが悪いなら15LVになってもう一度、一次転職をやり直せばいいじゃない!」
「はあああぁぁぁぁぁぁ?」
これから、俺たちのレベル上げの苦難の日々は始まったのだった。何が苦難だって? そりゃー決まってるでしょ。前衛がいない! あと、俺のステ振りが完全に剣士になっている。あっ! そうか、俺も一次転職をやり直せばいいじゃないか!
こうして、俺はもう一度、一次転職をやり直すことを決意した。もう一度、剣士を目指して……
はい。今回はこれで終わりですね。私から始まって、私で締めくくる形になりましたね……あれ? また、私から始まっちゃう? いやいや、そんなことはないですよ。きっと一葉楓さんなら何とか新しい話をしてくれるでしょ。現実の話を二連続なんて茶番にはならないですよね。だってこれ、VRMMOですしねー。
じゃあ、あとがきもこの辺にしたいと思います。
一葉楓さんがんばってね~ノシ