二人の秘密
一周してまた戻ってきました奈良都翼です^^
「……はぁ」
死んだ後に俺は重大な過ちに気づいた。俺はあの時死ぬべきではなかった。じわじわとにじみ出る冷や汗に体を震わせながら、急いでコンビニで買ってきた焼きそばパンをお茶で一気に流し込む。
問題がいくつかある、一つはパーティーとして行動をしていたことだ。あいにくパーティメンバーが死んだことの通知は行かないようだが、居場所情報は提示される。つまり死んだ俺はリスポーン地点である、始まりの町の路地裏にいるということだ。なぜ、いつ、どうしてそこに行ったのか俺は仲間達に説明しなくてはいけない。そしてもうひとつ、夜桜に死んだとこを見られたということだ。この前はパーティー申請をしない状態での死だったため気づかれなかったが、今回はパーティー申請をしている。気配=パーティーメンバーの誰かもしくは俺だという事を気づかれたかもしれない、そしてその気配は崖から飛んで行った。浮かび上がる疑問、それに対する追求。それが意味する答えは俺のバグの発覚だ。
「まったく、今日も大学にはいけなそうだな……」
だが今の俺にとって留年なんかよりも、あの夜桜の変わりきった姿だ。それが俺に向けられることだけはなんとしても回避したい。
「……行くか」
余ったお茶を一気に飲み干し、俺は再び悪魔の誘いに乗った。
◇◆◇◆◇◆
「えっと……」
「じーっ」
「じーっ」と口で言って人を見るやつに突っ込みたい気持ちを抑えながら、俺は夜桜と目をあわせようとはしなかった。
「言ってくれれば食料くらい分けたのに」
「いやこればかしは迷惑かけられないからさ」
パーティーメンバーにはスタミナ回復アイテムが切れたため町まで戻ったと言い訳をした。しかし案の定、夜桜だけは信じてくれなかった。言葉には出してはいないがこの表情と目が何よりもの証拠だ。
「しかしこれからどうする、このクエストのクリア方法はまだ見つかってないし」
話題を打ち切り、トモキが口を開いた。
「それなら晩のうちにそれらしい所を見つけておいた」
俺を見る目を動かさずに夜桜が会話に参加した。
「ホント! さすがは夜桜」
奥にいる敵とやらを探す途中、夜桜に聞いた話によるとその敵は固定ではなく毎回変わるらしく、ここまで見つからない俺たちはすさまじく運がないらしい。 夜桜は黙ってマップを開くと一点を指差した。
「ここ、5人での攻略だから強さも高いはず」
場所はそう離れてはいなかった。前々から思っていたが口調や素行が俺の知っている夜桜ではない気がする。おしゃべりなあいつが必要最低限のことしか言わないし、笑いもしないまるで別人のようだ。
「了解、早くクリアーさせよう」
天真爛漫な微笑みばら撒き、リリアは歩き出した。
◇◆◇◆◇◆
「もしかしてあれ?」
「私のときはもう少し弱そうだった」
見るからに強そうな大型モンスターが目の前にいた。サイクロプスという一つ目の怪物だ、大きな斧を手にしていてあれで切り裂かれたらひとたまりもないだろう。
「動きは遅いから、しっかり攻撃を見てよければ大丈夫」
夜桜の助言に皆がうなずき行動を開始する。真っ先に動いたのは戦士志望のトモキ、大胆に剣を振るい戦いの開始を告げる。俺もその続く、成り行きで魔法使いを選んでしまったが、元は剣士志望ここで動くのは当然だ。
「てやぁっ」
その丸太のような足になぎ払いをかけ反撃を予期しクールに去る。思惑通り攻撃は俺のいた場所へと振りかざされていた。
「ファイヤー」
夜桜の杖の先端を軸に描かれた魔法陣から炎の柱が噴出す。仲間に当たることを考え範囲攻撃であるテオ・ファイアの使用を避けたんだろう。
「これならいけそう」
遅れながらも攻撃に加わったミズキが呟く。それにリリアが続く。5人の猛攻に見る見るとサイクロプスのHPは削れていきついには半分をきった。
「余裕だ……がはっ!」
突然トモキのHPが大きく削れた、だがサイクロプスの攻撃は今俺に向けられている。攻撃が当たるはずがない。
「うそでしょ!」
目を見開き驚きの表情を浮かべるミズキ、そこには2匹目のサイクロプスがいた。
「2匹も同時に相手するってこと」
「いや……それだけじゃない」
転職クエスト分の4匹すべての巨人が茂みから続々と行進してきた。
「どうする……」
いくら遅いといえど4匹すべての攻撃を裁ききれる気はしない、その一撃の強さはHP半分以上削られたトモキが証明した。となると俺だけにできる手段を取るしかない。
「俺が囮になる、その間に逃げてくれ」
「なにいってるの」
信じられないものを見るようにリリアがこちらを見る。
「早く行けよ。自分で言うのもなんだが、俺ゲームだけはうまいぜ」
「死なないでね」
ダメージで鈍くなったトモキにミズキが肩を貸し4人はその場を離れていく。
「死ぬけど死にはしないさ」
ショートソードを高くかざし俺は走り出た。もう何も怖くない。
◇◆◇◆◇◆
「ここまで追ってこないはず」
「リョウは大丈夫かな?」
誰とともなく不安を口にする。
「あれだけの大口をたたいて死んだら間抜け、それに……彼ならたぶん死なない」
私の予想が合っているならリョウは良だ、そして彼が良ならばおそらく死ぬことはない。
「私は行ってくる、みんなは町に戻ってて」
その真意を確かめなくてはいけない、彼が彼でいれるように。
森を走り抜け彼の元へと急ぐ、彼ならきっと生きている、死ぬはずがない。
「良!」
その動きは紛れもなく彼のものだ。自分の動きを完全に理解し、相手へと攻撃を繰り出していく。先ほどまで5人で戦っていたサイクロプスはすでに地に伏せている。
「何で戻ってきた」
「もう私は足手まといなんかじゃない、伏せて」
杖を軸に大きな魔方陣が描かれていく。
「テオ・ファイアァッ!」
ファイヤーの数倍の業火があたりを火の海にしていく、それは巨人たちを飲み込みがつがつとHPを削っていく。
「今度は俺が足手まといかな……」
ぼやきながらも良は再び相手に切りかかる。
「テラァッ!」
◇◆◇◆◇◆
二人の息のあった連携は揺らぐことなく、そのまま3体を地へとねじ伏せることができた。
「良なんでしょ? ねえ」
「…………」
良は黙ったままうつむいた。
「私怒ってないよ、良が生きててうれしいだからほんとのこと教えて」
本当は少し怒ってた。けど良が話を切り出しやすいよう、優しい嘘をついた。
「分かった、言おう」
「うん」
良が纏っていたコートが消える、そこには見た目も名前も地味なアバターがいた。
「お前の言う通り俺は良だ」
「うん、知ってる」
「俺には二つ秘密がある、一つは死なないことだ。俺は実質このゲームで死ぬことはない」
「なんとなく予想はしてた」
「もうひとつ……ログアウトできる」
その言葉で自分の中で絡まった思いが全部が繋がった。
「……それいつ分かったの?」
「……ゲーム開始直後だ」
これで良と合流できなかった始めの数時間の説明がつく、しかし彼は戻ってきた奇跡はもう起きないのかもしれないのに。
「……カ」
「え」
「良のバカッ!」
「なんだよ、怒ってないんじゃないのかよ」
「そりゃ怒るよ、もう現実に戻れないのかもしれなかったんだよ」
「いいじゃないか、結果的には戻れるんだから」
「よくないよ……、だって」
きっとこのゲームに良が戻った着たのは私のせいだ、自分への怒りのはずなのにその矛先はなぜか良に向いた。
「バカ、大バカ」
私はその場に泣き崩れてしまった。うまくろれつが回らず自分でも何をいっているのか分からなかった。
「……なあ夏輝」
照れくさそうに視線をそらすと良は呟いた。
「絶対に生きて帰ろう」
「良……ありがとう、大好き」
そんなこんなで良が一人で抱え込んだそんな秘密は、二人の秘密へと変わった。
自分で言っといてなんですが死なせない終わり方です
さて皆さん投稿ペースが速くびっくりしています^^;
私も負けないようがんばっていきます
よろしかったらご感想お願いします^^