あれ? お腹が減って来たな……
今回、執筆を務めた霧々雷那です! コメディは苦手ですが、楽しんでいただければ幸いです。まえがきは長いと面倒なので本編の方をどうぞ!
「ここ……は……」
俺はフェードインした視界で周囲を見渡した。何の変哲もない左右の壁……向こうが話に見える閑散とした商店街……おそらくここは俺が再ログインした路地裏なのだろう。俺はあの時、たしかに桃鹿に殺されたはずだ。あの、自分がポリゴンの欠片となって砕け散る感覚は未だに憶えている。つまり、これは夢ではないということだ。俺は2、3歩横に移動して、何処かの建物の窓に映る自分の顔見た。窓には、少し丸みを帯びた顔立ちに、全体的に短く切りそろえられた髪型、少し細めの黒目……死ぬ前の俺のアバターとなんらかわりない。あと、確かめなければいけないのは……
俺は手を軽く振って、メニュー画面を開いた。まず確認するはステータスだ。
ステータスの変動はまったくない。レベルはレアモンスターの紫熊を倒したため、2へと上がっている。俺はとりあえず前の戦闘でパワー不足を思い知らされたため、STRにAGIに二対一の割合で振る。
ちなみにSTRとは筋力などの力のことを表し、AGIは回避力などのスピードのことを表している。
現状はこれが最善だろう。たとえ、ステ振りをミスったとしてもどこかで再振り(再振り分け)をするクエストが出てくるだろうし、気にしなくていいだろう。
次に俺が見たのはアイテム欄だ。なにかアイテムは落ちていないか見た……が、何か落ちているどころか、むしろ紫熊からドロップしたであろうレアイテムの『ファーコート』が新しく入っていた。
どうやら俺が死ぬことによるデスペナルティは無いようだ。
俺は少しの安堵を感じつつ、自分が死んだときのことをフラッシュバックのように思い出す。
「そうだ……夏輝!」
俺は自分の幼馴染の名前を叫び、即座にその場所を知るためにパーティ画面を開いた。パーティならば仲間がどこにいるかは簡単に表示される。俺はその中にある夜桜をタッチし、自分の無事を確認するために『ささやきチャット』を開始しようとした……が、俺は寸でのところで手を止める。もし、これを押してしまえば、俺がログアウト可能で、死んでも大丈夫なことが露見してしまうことを考えると、俺はどうしてもそのボタンを押せなかった。俺はしょうがなく、パーティ解散ボタンの方をタッチする。こうすれば俺が生きていることはばれにくいはずだ。俺はもうすぐ街にもどって来るであろう夜桜にばれないように陰ながら見守ることにした。
まずは、外見を隠すために紫熊からドロップした『ファーコート』を装備する。すると、茶色くボロくさい布が俺の全身を覆い尽くした。後は夜桜がキャラクター名を表示させないことを祈るのみだ。俺はとりあえず、この路地を出ることにした。
商店街に出ると、わずかな客とNPCの店員たちが数人いるだけだ。レンガの石畳を靴で叩く音などまったくしない。俺はその中で、夜桜が出てくるであろう門に向かった。
その時―――――
「ねぇ、君!」
俺は急に後ろから声をかけられ、思わず体をびくつかせてしまう。声のした方に振り向くと、そこには俺の初期装備と同じような冒険者服を纏った女の子がいた。おそらく腰のナイフからしてまだ1レべか、そこらだろう。容姿はまだ幼さが残る顔立ちに薄紅色の目、身長は俺よりも低い。髪型はショートカットだった。
「なんですか?」
初対面いうことで俺は少々丁寧に返した。
「君さ。わたしとパーティ組まない?」
「ごめんなさい。俺は忙しいんで……」
「でも、そうは見えないよー?」
俺は即座に立ち去ろうと思ったが、痛いところを指摘され退路を封じられる。
「ほら、二人でやれば一次転まで早いしさ」
「一次転?」
おそらく、彼女は一次転職のことを言っているのだと思うが、もう、そこまで来た連中がいるということなのだろうか……
「知らないの? 5LVで簡単に一次転職できるんだよ?」
「それは初耳だ……」
「5LVまで一緒にやろうよ……」
たしかにLV5になって一次転職してから、安定して夜桜のことを助けるのも悪くはない。夜桜もしばらくこの街を出ないだろうし、しばらくは大丈夫だろう。俺は悩んだ結果、その申し出を受け入れることにした。
「わかった。じゃあ、一次転まで付き合うよ」
「ありがと!」
彼女は軽く手を振って、メニューウィンドウを開いて何かのボタンを押す。すると、俺の目の前にパーティの申し出のが出てきた。俺は迷わずに『OK』の方を押した。
すると、目の前の少女の名前が右端のHPバーの下あたりに表示される。彼女の名前は……『liria』と書かれていた。おそらく『リリア』と読むのであろう。
「じゃあ、よろしくね。Ryo」
「こちらこそよろしく、リリア」
俺とリリアは軽く見つめ合い、握手を済ませた。
◆◇◆◇◆◇
俺とリリアはとりあえず、適当なクエストを探して受けた。クエストの内容は初期ステージの右端の方にあるゴブリンの洞窟だ。そう、俺たちが受けたクエストはゴブリンの討伐だ。20体ほど倒せばクリアとなるのだが、俺らがこれを選んだ理由は報酬アイテムだ。クエスト報酬はHPポーションで初期の方では高いくて、あまり買えない品だ。
洞窟内は薄暗く、クエスト開始時に渡された『松明』がなければ、闘い難い。ちなみに二人パーティでともに行動するので、どちらかが使っていれば、片方が使わなくてもよいぐらいの明るさで行動することが出来る。
「リョウ! そっち!」
「あいよ!」
俺はリリアの誘導によってこちらに向かってくるゴブリンのターゲットを取る。俺はナイフを逆手に構え、ゴブリンの頭を切り裂いた。赤いライトエフェクトが出て、ゴブリンのHPの1/6ほど持っていく。クリティカルでこれぐらいしか与えられないのだから、一人でここに潜るにはまだまだレベルが足りなそうだ。
俺はノッバックしたゴブリンを足で蹴り飛ばす。ゴブリンは見事にリリアのもとによろけながらさがっていく。リリアは自分の戻ってきたゴブリンの背中を下から上に切り裂き、再度、腕を振りおろす二連撃を加える。これでゴブリンの残りHPは一割ほど、通常攻撃を二回……とはいってもまだスキルの振り分けは基本技しかできないので攻撃スキルは習得できていない。つまり、単なる通常攻撃だ。俺とリリアは左右から同時にゴブリンに接近する。ナイフを順手に握り直し、剣のように扱いながら俺はゴブリンの左肩を、リリアは右肩を同時に切り裂く。正直、まだあって間もないのにかなり息が合っている方だと思っている。赤いライトエフェクトが同時に2本発生し、ゴブリンのHPを余さず削りきる。HPがなくなったゴブリンはポリゴンの欠片となって砕け散った。
ゴブリンの消滅を確認すると、俺たちはナイフを腰の柄に収めた。
「ふぅ……これでクエスト達成かな?」
「そうみたいだな」
俺はクエストウィンドウを開いて、クエストが達成されていることを確認した。下に桃鹿のクエストが表示されているが、これも達成済みだ。ここに来るまでの間、適当に倒して達成した。俺はクエストウィンドウを閉じ、自分のHPバーを確認した。俺のHPはすでに黄色ゾーンに入っている。相方のリリアの方も俺と同じようになっている。
「どっかで休んでから戻るか?」
「うん、そうだね」
俺は休めそうなところをその場から動かず、探した。すると、少し先に1,2段上ぐらいになっている所を発見した。そこはこの洞窟の4つの端っこのうちの一つのようで、休むにはもってこいの場所だった。俺たちはとりあえずそこに移動して腰を降ろした。座っていれば体力の回復をするため、ゲームを始めたばかりの時はよくやるくことだ。
リリアは失ったスタミナゲージ回復させるためにパンをほおばる。やはり、何も塗っていないパンを食べている映像はたとえ美少女でもシュールだ。俺も失ったスタミナゲージを回復させるためにパンを……あれ? ない……
どうやら、俺としたことがパンを買い忘れていたようだ。そう言えば、パーティを組んでから買い物なしに直接来たんだっけ? あぁ……この腹減りが仮想のものだとわかっていてもやはりつらい。リリアがパンを食べ終えるころには俺たちの体力は全回復していた。
「そう言えば、なんでリョウはこのゲームをやり始めたの?」
「そうだな、従妹に誘われてな……」
俺は生き別れた? 従妹のアバターである夜桜のことを思い浮かべる……が、すぐにその想像はおいしそうな飯へと変わってしまう。どんだけ、お腹空いてるんだよ、俺は……
「そっか。わたしは面白そうだったからかな。今さらながらちょっと後悔……」
「大丈夫だよ。きっといつかここから出れる。だからさ、その時まで絶対生き残ろうぜ」
「うん。わたしはHPが0になるまで絶対に生きることを諦めないよ」
俺たちは互いの拳を軽くぶつけた。なんだか、ずっと一緒に戦ってきた戦友のようだった。互いの顔を見て思わず顔がほころんでしまうのも何だかすがすがしいものだ。
「じゃあ、戻っか?」
リリアは立ち上がって座っている俺に提案してくる。俺も目線を合わせるようにゆっくりと立ち上がった。
「そうだな……と、言いたいところなんだけど、先に戻ってて、ここでほしい素材があるんだ」
「えっ? それならわたしも付き合うよ?」
「いいよ、いいよ、悪いし……」
まぁ、本音を言うと、このまま行って腹減りで死ぬところを見られたくない……リリアから飯を分けてもらってもいいのだが、それだと俺のプライドが許さない。
「そう? わかった。じゃあ、先に戻ってるね! このあと、一緒に転職クエやろ! 待ち合わせ場所は噴水広場ねー」
「あぁ、わかった」
リリアは俺に軽く手を振ってダンジョンの出口へと歩き出した。俺も軽く手を振りかえし、リリアが完全に見えなくなるまで待つ……この時間ですら、スタミナゲージが少しずつ減り続けている……あぁ、腹減った……
俺はリリアが完全に見えなくなると、一人でダンジョンの奥へと歩き出した。そして数分もかからず2階への階段にたどり着く。ここに最初、リリアと来たときはレベル制限で入ることが出来なかった。たしか、レベルの制限は5レべからだったはずだ。ならば、ゴブリンでレベルが5になった今ならば入れるはずだ。
俺がその階段をのぼっていった。すると、すぐに一回と同じような岩の洞窟が出てくる。だが、周囲にいるモンスターはオークなどで確実に強くなっていることが確信できた。
どのみち、俺のスタミナでは戻るまでの間に体力もろとも尽き果てる。ならば……
「いっちょ、派手に散らしますかな!」
なんだか、リリアと『生き残る』なんて言ったことが嘘のように感じられる。だって、俺は死んでも生き返るんだもん。1回目に死んだ瞬間にHP、MP、スタミナが全回したことは確認済みだ。さらに、死ぬことを想定されていなかったのか、死んでもパーティ内に通告は来ないようだ。なら……
「腹が減ったら死ねばいいじゃないか!」
俺はハイテンションになりながらオークに突っ込んだ。オークが俺の足音に気が付いてこちらの方に向く……だか、もう遅い! 俺はすでに腰のナイフを抜いている。俺は俺より1.5倍は大きいオークのわき腹を左から一閃した。赤いライトエフェクトとともにオークの体力が1/30ほど持っていく。こいつ……かなりの体力がある……だが、紫熊よりチョーマシだ、これ!
「おらおら!」
俺は左足をもう一度踏込み、ナイフを乱舞した。死ぬことなんて怖くない……
怒り狂ったオークは俺目がけて持っている斧を振り降ろした。俺は攻撃モーションに入っているため、今からでは避けるのが間に合わない……しかも、スタミナが0になったことによる体力減少のせいで、一発でもくらえばそのまま死にそうだ。まぁ、死ぬことが目的なのだが……
俺は仕方なく、左腕で斧を弾き飛ばした。一応攻撃は止まったものの、俺の腕は虚空に吹き飛んで行く……鈍い痛みが左腕を駆け巡った。
腹減りダメージの他に部位欠損ダメージも追加された。すでに俺に残された時間は少ない。
「ははは! チョー! エキサイティング!!」
俺は咆哮しながら、さらにナイフを乱舞した。すでに体力のことなどまったく気にしていない。残りのオークのHPは数ドット、そして、俺のHPも数ドット……
俺はHPが0になる瞬間に俺はオークに最後の一撃を加える。
2つの汚い花火が暗い洞窟を明るく照らした。
◆◇◆◇
俺は再び、あの路地裏に戻ってきた。前回死んだときに確認したようにデスペナルティは無い。だが、アドレナリンが分泌されるのが止まって、一気に疲れが出てくる。だが、俺の狂犬じみた戦闘の成果により、俺のスタミナゲージはMAXまで回復している。その上、経験値も多少なりとも入っていた。まさに一石二鳥だ。
俺はリリアと合流するために噴水広場に向かう……
噴水広場は吹き上げる水のアートと石畳の床がマッチして、デートとかにはよさそうな場所だった
しかし、噴水広場は開始当初とは異なり、静かな雰囲気に包まれていた。リリアはすでについていたらしく、そこに座っていた。俺はリリアに声をかけようとした途端――――かなり、修羅場的なものを見てしまった。
なんで、あいつがいるんだよ!
噴水の向こう側に水のカーテンを通して見えたのは夜桜のアバター……
俺はタイミングを見直そうと思ったが、乗り出してしまった俺の体はすでに戻るという選択肢を消し去ってしまっていた。
「あ! お帰り、リョ―――――」
俺は思わず、リリアの口をふさぐ。セクシャル警告が出ないか心配だったが今はそんな暇はない。
「無駄話はせずに早く達成しちゃおーぜ……」
俺は焦りで棒読みになりながらも、リリアの手を引いて、即座にその場を離れる。
「どうしたの?」
「な、なんでもないよー」
俺は噴水広場が見えなくなるまで早足を続けた。夜桜の姿が見えなくなるまで、なくなっていたはずのアドレナリンが再び大量分泌…… ガチで疲れるな、これ……
「まぁ、いいけどさ……じゃあ、とっととクエスト達成しちゃおっか!」
この後、俺たちはクエストを達成し、それで得た金で必要なものを買い足した。俺は長い間、ほしかったショートソードと、ポーションをできるだけ買った。ちなみに、ショートソードは冒険者でも装備することが出来るが、これ以上の剣は、戦士か剣士にでもならないと装備できないようだった。リリアは何やら買っていたが、何かを装備した様子はなかった。いったい何を買ったのだろうか……
買い物を終えた俺らはまず、街の町長のところにやってきた。NPCである町長の頭の上には通常のクエストマークとは少し異なる青色の旗印がついていた。俺たちは意を決して、町長に話しかける。すると、町長の長い話が始まり、しばらくして選択肢が表示された。
気になる選択肢は……
『1、勇敢な戦士』
『2、果敢な剣士』
『3、賢い魔法使い』
『4、神に仕える僧侶』
『5、誰が、やるかよ、バーカ!』
ちょっとまて! 5はなんだ、5は……
俺は迷わず、剣士をタッチしようとした……が――――――
「何にするのっ!」
リリアが後ろから乗りかかったせいで、わずかに俺の指先は一つ下の魔法使いをタッチしてしまう。俺は即座にリリアを振り払った。
「何するんだよ!」
俺がリリアに怒声をかけている間、町長は何やら、『クエスト受けるとキャンセル不可で、次に一次転職できるのはしばらく先だ』ということを話していた。俺はリリアの行動にため息をつきながら、よく見ずにキャンセルボタンをタッチした……はずだったのだ。
『それでは、頑張って来たまえ……』
「えっ!?」
俺の口から、驚きの声が上がる。なんと、俺はキャンセルと間違えて、『OK』を押してしまったらしい。これは痛恨のミスだ。ていうか、次の転職って結構先って言ってなかったっけ?
「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺はどっかの誰かがよく言っていた言葉を頭を抱えながら叫んだ。
はい。私が書いたのはここまでです。伏線と含みを持たせたつもりなので、あとの人が書きやすいかなー。この次の方は一葉楓さんです。頑張ってくださいねb
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