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ろぐ☆あうと  作者: 奈良都翼
魔術師&恋人たち
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初めてのDEATH★

 夜にログアウトした路地裏に俺はいた、周りに誰もいなかったのは幸いかもしれない。スタート画面を確認しようと手を伸ばすが俺はそれを思いとどまった。


「今は……」


 ここでもしログアウトボタンが無かったらきっと俺は後悔しただろう、ログアウトボタンがあったにしてもそれは自分に対する甘えを作ることになる。後悔するだけで夏輝を守りたいという気持ちに嘘をついてしまうことになる、それだけはいやだった。


「夏輝を探そう」


 迷いは無い、そう自分に何度も言い聞かせた。


「一晩でここまで変わるのか」


 広場では活気が思いのほかあふれていた、死に対する恐怖を乗り越えたものは立ち上がりゲームをクリアーしようと試みて、この事実を受け入れられないものは立ち向かおうともせずただうつむき黙り込んでいる。


「夏輝を探さなきゃな」


 人の強さを再認識するのと同時に、自分の目的を再認識することになった。自分がいる町は思いのほか大きい、フィールドも含めるとかなりの広さだ。


「まずは町の中だな」

 

 ひとまず町の中を探索するしかない。そう思い足を進める。昨日いた人数ほど広場にはいない、おそらく町の外へ行っているのだろう。町の中に夏輝がいたとすればすごく探しやすい。

 アバター名は夜桜にするというメールがあり、アバター名をRyoにすると返信したら地味と返された。そんなことを思い出し俺の頬は少し緩んでいた。


「夜桜……夜桜……夜桜?」


 メニュー画面でプレーヤー名の表示をONする、すると大量の情報が頭に流れ込み、その感覚に少し酔いながらも探し続けた。広場から少し離れた噴水の近くにそのアバターの姿がそこにはあった。どうやら夏輝は後者のほうだったようだ。


 そっと夜桜の頭の上に手を置く、驚いたような顔をして夜桜は顔を上げた。


「よ、元気か?」


「……良?」


 夜桜がぎこちなく顔を歪ませた、ロングの黒髪に俺よりやや低い身長、大きく愛らしい目が俺を凝視している。その容姿や身長、夏輝自身のそのごく平均的な体型も類似している。俺の中では操作時のラグを最小限に抑えるためだという程度の知識しかないが、今に思えば何かしらの陰謀が働いているのかもしれない。


「良っ! 今までどこいたのよ」


「悪いかったな」


 名前からパーティ申請を送り、夜桜のステータスを見た。レベルは始まったときと同じ1レベそしてHPゲージの二つ下にあったスタミナゲージがだいぶ減少していた。


「とりあえず何か食べよう、死んじまうぞ」


「え、そうなの?」


 このゲームで消費されるのはHP、MP、スタミナの3つだ。スタミナがある一定以上あればHP、MPともに自動回復されるが、ある一定を下回ると次第にHPが消費されていく。おそらく何も行動を起こさないプレーヤーを抑制するための機能だろう。


「説明くらい読んでおけ」


 ちなみに俺のスタミナはログアウトしていたせいもありまったく消費されていなかった。


「ひとまず、あれはどうだ?」


 バン屋を指差す、すると夜桜はうなずいた。中は思ったよりもずっと広く多くのパンがおいてあった。


「フランスパン3MJ、シナモンパン2MJ……」


 この世界での貨幣単位はJ(ジェム)だ。初期ジェムが1Kと考えると少々高い。ちなみにKJは1000J、MJは100Jという意味だ。


「あぁ、食パン50Jこれがいいんじゃないか? 安いし」


「え~、もっとおいしそうなのがいい」


 ゲームといっても味覚、嗅覚も再現されているためか、食べるものも選ばされる。


「贅沢言うな、そんなのはJ稼いでから言え」

 

「分かった……」


 食パンだけを食べる夜桜を思い浮かべる。


「とりあえずこんな生活と離れたいのなら、クエストをこなすことだ」


「そうね、ところで良は買わないの?」


「あぁ、俺なら大丈夫だ」


 ログアウトしていたことを口に出すことは少々ためらわれる、もう少し様子を見てからこのことは言う事にしよう。


「とりあえず、掲示板に行こう、クエストを受けられるはずだ」


「了解」


 やはり食パンだけを食べる夜桜の姿はシュールだった。


◇◆◇◆◇◆


「とりあえず俺たちのレベルで受けられそうなのは……これかな推奨レベル1、桃鹿5頭の討伐」


「鹿?」


「鹿だ、桃色の」


 写真から判断してさほど獰猛そうには見えない生物だ、戦闘の基本動作を覚えるための簡易クエストなのだろう。


「ワールドに出るのは……あそこかな?」


 門の前に二人の兵士が立っている、おそらくここがクエストの出発場所だろう。今回は町の前の森がこのクエストの目的地なのですぐ着くが、基本はそこまでフィールドを経由するか、特別なアイテムを使う必要がある。ちなみにここ以外にも町はいくつかある。


「町の門から外に行けるみたいだ」


「で、どこ行くの?」


「静かな森ってなってる、たぶん一番手前のダンジョンだ」


「OK」


 そう言うと夜桜が門に向かい走る、そして見えない壁に吸い込まれ2秒ほどで俺の視界から突然消えた。


「なるほど」


 俺も門に向かう、すると周りの風景が一瞬にして消え光に包まれる。そして数秒その状態が続き目の前には森の入り口が現れた。今いるのは森と町の境モンスターの出現は無いようで基本的には緊張感を感じることはない。


 先ほどまではステータス画面でしか見れなかったHPとMP、スタミナが表示され。先ほどまでは何も持っていなかった手に武器がもたれている、短剣のようだおそらくこれが初期装備なのだろう。


「良、早く」


 その森の入り口に夜桜の姿はあった、ほかのプレーヤーも何人かいるようだ。


「そう急ぐな、はぐれるぞ」


「ならはぐれないよう、ちゃんとついてきなさい」


「はぁ……」


 こんな状況にもかかわらず夏輝はのんきなものだ、俺は森へと入って行くその影を追いかけた。


◇◆◇◆◇◆


「あれ……かしら?」


 草を貪るモンスター……というよりは小動物だ、思ったよりも小さい。


「早く終わらせようぜ」


 俺と夏輝の10体分それを倒してこのクエストは終わる。


「……」


 しかし夜桜はその場を動こうとはしなかった。


「どうした?」


「ほんとに倒すの?」


「当たり前だろ、そうじゃなきゃクエストクリアーできないぞ」


「だって……」


 うつむいてもじもじとする夏輝、いったいどうしたのだろうか?


「まあいい俺一人でやるさ」


 剣を構え桃鹿へと近づく、後ろから回り込んでいたのでこちらに気づいてはいない。残り数歩の時にこちらに気づいたようだが一気に踏み込み上から一撃、それによって宙に赤いしぶきが上がり桃鹿の名前の横のHPバーが半分以上削れる。そして逃げようと横に跳ねるところを横になぎ払い仕留めた。これで一匹目。


「思ったよりよくできてる、攻撃方法の切り替えもスムーズだ」


 桃鹿のドロップアイテムを回収し、つぎの桃鹿へと標的を変える。先ほどと同じように後ろから回り込み2発で仕留める。それから何匹か仕留めて、夜桜のほうを見る。


「どうしたんだ?」


「なんでもない……」


「……そうかい」


 夏輝の様子が気になったが、とりあえず今はこのクエストをクリアーすることだけを考えよう。七匹目、一撃目を当てたがなぎ払いがぶれた。斬撃はむなしく桃鹿の上を通過した。鹿は一目散に逃げ出しその先には夏輝の姿があった。


「夜桜、そっちに行ったぞ」


「え、えっ!?」


 桃鹿の突撃に体をこわばらせ、手を顔の前に構えた。桃鹿は夜桜に当たる寸前に避けそのまま森の奥へと入っていった。


「どうしたんだよ、変だぞ」


「だって、……かわいいじゃん、桃鹿」


「……」


 唖然とした、きっと口を開いていた。そのくらい呆然としていた。


「あのさモンスターなのよ、倒さなきゃレベルも上がらないし経験値も手に入らない、分かる?」


「分かってるわよ、でも無抵抗のモンスターを一方的に殴ってるのは……ちょっとね」


「そんなんじゃ、無抵抗じゃないモンスターに勝てないぞ」


 やっぱり納得できないというような顔を夜桜は作った、ほんとよくできていると思う。


「わ、分かったわよ。ちゃんと倒せばいいんでしょ?」


 何を決心したように夏樹は桃鹿を追いかけた。


「少し待て、あまり奥に行くな」


 その声はエリアという壁に阻まれた。


◇◆◇◆◇◆


「確かこっちのほうに……」


 桃鹿を追ってだいぶ奥のほうに来てしまった。あたりも少し暗くなり、先ほどまでのほのぼのとした雰囲気は消え今では少し張り詰めたような気配が漂っている。


「どこいるの~、出ておいで、何も……しなくは無いけど」


 ガサリと茂みが物音を立てる。不安と義務感が交じり合い、物音に引き寄せられるように近づく。


『グガアアアアッ』


 出てきたのはかわいげも無いおぞましいモンスターだった。高さはアバターの2倍以上はある、鋭い牙と爪はこちらを八つ裂きにするのがたやすいようにも見えた。名前は紫熊、見るからに強そうだ。


「ちょっとッ」


 出会い早々の一撃は体勢を崩しながらも避けることができた。えぐれた地面がその判断が正しいと言ってくれた。


「もうなんなの」


 剣を構え踏み込んでからきりつける、そして再び振り落とされた腕をバックスッテプで避け離脱し、もう一度紫熊のステータスを見る。


「何よぜんぜん減ってないじゃない!」


 名前の脇にあるHPバーはほとんどまったくといっていいほど減ってはいなかった。


「どうしろっていうのよ」


 あいにく相手の動きは大振りで避けるのはたやすかった、しかし少しずつスタミナ値が減っていく。どうやら回避行動は通常よりスタミナを消費するようだ。


「こんなのジリ貧よ……」


 こちらのスタミナと相手のHP、どちらが先になくなるかは目に見えていた。


「それならもっと多く攻撃を当てるだけよ!」


 縦切り、切り上げ、そして体をひねりなぎ払う。その攻撃の甲斐もあってHPの黒く削られた部分が目視できるようになった。しかしそのやや欲張った攻撃は相手の攻撃を招いた、とっさに避けるも飛距離が足りずに紫熊の攻撃は足を掠める。鈍い痛みが体を走り、自分のHPの5分の1ほどが黒く塗りつぶされた。


「痛い、何よ……掠っただけなのに」


 直撃はまずい、死への恐怖が直感とつながりひとつの答えを出した。


「逃げなきゃ……」


 しかしアバターの動きは明らかに先ほどより遅かった、部位のダメージがステータスに直接反映されているようだ。


「こんなとこまで再現しなくたって」


 紫熊の手はすでに振りかざされていた。回避するのにも遅すぎる。


「良っ」


 祈るように目をまぶたで覆いかぶせた、しかしいつまでたっても予想していた鈍い痛みは無かった。ゆっくり目を開けるとそこにはよく知っている人物の分身がいた。


「ったい、なんて攻撃だよ、防御してるのに」


 剣の腹で紫熊の手を受け止めている、そのHPは10分の1ほど削られている。


「少し、離れてスタミナを回復しろ、まったくレア度3のモンスターとはついてるのかついてないのか……」


 渋りながら紫熊の懐へともぐりこむ良、斬撃を3発繰り返し離脱する。紫熊の攻撃はぎりぎりのところで避けて見せた。


「それに硬い、どんだけあるんだよHP」


 昔からどんなゲームをやっても良には勝つことができなかった。このゲームでも例外は無いようだ。


「私だって!」


 アイテム選択で出てきた食バンを銜えながら戦線に復帰する、良へと注意が集中している以上これ以上のチャンスは無い。


「てやあぁっ」


 体重を乗せた一撃、そしてそれに繋げるように何発も斬撃を繰り出していく。


「バカ、欲張りすぎだ」


 ムキになっていたとこもあった、紫熊の攻撃に気がつかなかった。避けることすら忘れるほど頭の中が真っ白になった、せっかく良が助けに来てくれたのに……。


「えっ!?」


 私の想像していた痛みは地面にしりもちをつく程度のものに変わっていた。


「お前、前衛は向いてないよ」


 その痛みは良がすべて受け止めていた。今度はガードも何もしていない素のダメージを受け、HPは残り5パーセントも無い。


「良……ごめん、私……」


「なに、少しでもHPが残っていれば十分だ」


 よろよろと良のアバターが立ち上がる、そして距離を縮め斬撃を放っていく。紫熊残りのHPはおよそ半分その間攻撃を受けないなんて不可能だ。かといって自分が飛び込んだところで足手まといになるだけ。そんな自分が惨めで仕方が無かった。


「少し時間は掛かるけどよ、そこで待ってろ」


「良、死んじゃうよ」


 危なっかしいように見える動きは、彼が意図してしているものだと気づくまでそう時間は掛からなかった。ダメージで鈍くなっているアバターの動きも考慮に入れ避けている。


「オラッ!」


 何もできない自分が悔しくて地面を殴っていた。ダメージは無いけどじんわりと痛みが手に伝わった。残りの紫熊のHPは二割強。


「良、あと少しがんばって」


 セコンドでボクサーを応援するコーチよろしく声を張り上げる。


「そうだな、もう少しだ」


 危なっかしいように見える動きも、もうすでに頼りになるものへと変わっていた。


「ダアアアアアッ!!」


 最後の一撃がしぐまの動きを完全に止める。その巨体はゆっくりと崩れ落ちて行った。


「さて、帰ろう……っ!?」


 それは突然だった、どこからとも無く現れた迷子の桃鹿はほんのわずかになった良のHPを奪っていった。


「嘘、嘘よこんなの良!?」


 良のアバタは驚きと絶望を足したような顔を維持しながらゆっくりと光に変わって行った、……その日その時私の目の前で大好きな人が死んだ。


◇◆◇◆◇◆


「あれ……ここって」


 最弱のモンスターに倒されたプレーヤーは見覚えのある路地裏に立っていた。

次は霧々雷那さんに書いてもらいます


この小説はリレー小説です参加したい方は↓まで

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