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ろぐ☆あうと  作者: 奈良都翼
魔術師&恋人たち
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プロローグ

各話の前書きに誰が書いたのか、また要望があればその紹介を書きます。

作者:奈良都翼

「ここは俺に任せて逃げろ」


 一度は言ってみたい死亡フラグじみた言葉、そんな言葉を口にした俺に向けられた表情はひどく怯えたようなもので、逃げる動作にためらいを持たせる結果になった。


「すまない……、お前のことは忘れない」


「バカ、死ぬつもりなんてねぇよ」


 逃げる仲間達を文字通り見送り、その視線を前へと戻す。


「しかしトラップとはついてないな」


 わざとらしい音を立てて踏まれたスイッチは無数のモンスターを呼び寄せた。消費しながらも撤退してきたがさすがにもう限界だ。誰かがしんがりを勤めてみなを逃がす、最低限の犠牲で済む方法を取らざるをえない。


「さて、やるとするか」


 醜い容姿をしたモンスターの群れへと飛び込む。一体一体の強さはそれほどでもない、大きなモーションの攻撃を避けつつ一撃を叩きつける。しかし数の暴力という言葉通り、2体、3体と倒すうちに囲まれ、避けるのが厳しくなってくる。


「何体いるんだよ、ちくしょう」


 集中して攻撃を避けていくしかしそれもジリ貧となり、次第に攻撃が当たってくる。鈍い痛みとHPと書かれたバーが少しずつ削れていく。


「もう少し時間を……」


 HPも半分を切り、もう1分も耐えられそうにもない。そんなこともお構いなしに俺をぼこぼこと殴る敵、心なしか顔が笑っているようにも思える。そりゃ楽しいだろうプレーヤーを倒すことがプレーヤーの死へと繋がるのだから。


「俺の負けだ」


 大の字になって倒れこむ、振りかざされる攻撃がよく見える。そんな面白くない天体観測をしながら俺は笑っていた。


「でも俺の勝ちだ」


 たたきつけられた攻撃によって残されたHPも消え去る。


 GAME OVER そんな文字が目の前に現れる。




 忌々しいデスゲームが始まったのは2週間前のことだ。新作VRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)のβテストとして約2千人が参加しゲームスタートと同時にこのゲームの真意が明らかとなった。ゲームクリアーまでログアウト不可能、そしてゲームオーバーは死を意味する。そんなありがちな設定は参加者みなに混乱を産んだ、そんな中でも一部のプレーヤーの統一で次第に混乱はなくなってきた。


 ジョクトラルオンライン、どこかの言葉で道化という意味を持つらしい。クリアーのためには22体のボスを倒すしかない。またその攻略ボスは名前と数を見る限りタロットカードであるのは目に見えていた。この2週間で倒されたボスの数はいまだゼロ、分かっているのは名前と数のみ。ボスの居場所、能力等の情報は一切ない。


(りょう)、今日はどうする?」


「ん、ああそうだな……」


 声の主は一之瀬夏輝(いちのせなつき)俺の従妹、アバターネームは夜桜、なぜその名前にしたのかは知らない。ジョブはプリースト魔法使いの上位職、回復補助に特化したジョブで攻撃力はそれほどない。


 俺の名前は坂本良アバターネームはRyo、アバターネームを見た夏輝の感想は地味と一蹴された。ジョブは魔法剣士、剣士と魔法使いの上位職で高い火力を持ち合わせている、反面防御面が極めて低く、少々癖があるジョブだ。


 ギルドなんていうものには属さず二人でここまでやってきた。第一ギルドに入ったところで各ボスの情報がない以上、現状意味はない。むしろ足かせになりかねないため多くがソロ、もしくは小さなパーティで動いている。ボスの情報があれば攻略ギルドが設立されそうなものだが、それがない以上いまだめぼしい攻略ギルドはない。


「今日は森の西側散策かな? あそこはあまり散策が進んでないはずだし」


「えー、もっとよく分かってる所に行こうよ、モンスターとか怖いし……」


「人が行ったとこじゃ仕方ないだろ、誰かがやってくれるじゃいつまでたっても進まないぞ」


「良はいいじゃん、ゲーム……」


 とっさに夏輝の口をふさぐ。


「大きな声で言うな、誰かが聞いているかもしんないだろ」


 俺と夏輝だけが知っている人には決して知られてはいけない秘密。


「いいかこのことを話すなら何かに書け、もしくは人がいないところだ、いいな?」


 小さく2回うなずいた夏輝を解放する。


「でも良がいるだけで頼もしいよ」


「まあ、俺以外にはいないだろうしな、こんなことできるの」


「そうじゃなくて」


 夏輝が何を言っているのか俺には理解しかねた。


「良、いつもありがとう」


 ぎこちなく夏輝のアバターが笑顔を作る。


「それは現実に戻ったらだ」


「そうだね……」


◆◇◆◇◆◇


「ねぇ良、今度新しいVRMMOが出るんだけど」


「やらねぇぞ、めんどくさい」


 夏輝は二つ下の高校2年で大のゲーム好き、よく俺をゲームに誘ってくる。そしていつも俺より先に飽きる。受験のときはおとなしくしていてくれたが大学に進学を果たした今となってはほぼ毎日誘いの電話が耐えない。


「今はね、βテストのプレーヤーを集めてるみたいなの」


 俺の意見を無視して話を進める夏輝。


「俺の話を聞け、やらないって言ってるだろ」


「えー、いいじゃん、やろうよ」


「大学ってのは思った以上に暇じゃないんだ、お前もそんなこと言ってる暇があるなら少しは勉強したらどうだ?」


「私頭いいし」


 きっぱり言い放つ夏輝。


「自分で言うか」


「事実だもの、それよりいいでしょ? やろうよ、ね?」


「うっさいな、まったく……βテストだけだぞ?」


 そしていつものように俺が先に折れる、そんな日常がそこにはあった。




「あいつどこにいるんだよ」


 仮想空間の中で俺は夏輝を待っていた。町の門は閉められ外に出られないようになっているようで、誰もが町の中央に集まってゲームの開始を心待ちにしているようだ。


「後5分くらいか」


 どんどん人数が増えていってる、ざっと千人以上いるのではないだろうか?


「まったくあいつは、どこほっつき歩いてるんだ」


 夏輝を探して歩き始める、もう時間がない。雑貨屋、武器屋、宿、今いるとしたらこの町の中だけだ。


『これよりゲームを開始する』


「……まったく始まっちまったぞ」


 やれやれだぜ、とでも言おうとした俺の耳にゲームマスターの冗談のような不の宣告が響く。


『しかし君たちにやってもらうのはただのゲームではない、命を懸けたデスゲームだ』


 その言葉にあたりがざわめく。

 デスゲーム? ログアウト不能? 淡々と継げる言葉の一つ一つが内臓をごちゃ混ぜにするかのような気持ち悪さを与える。


『これよりログアウトはできない、そしてこのゲームで死んだものは現実世界でも……死ぬ』


「何言ってんだよ」


 信じられない。信じられるわけが無い。これはゲームのはずだ。みんなが気楽に楽しむゲームのはずなんだ。ゲームに負けて死ぬなんて……あるわけが無い。


『このゲームで死ぬと強制的にログアウトされる、しかしログアウトできないするとどうなるか……脳に膨大な負荷がかかり、死に至る』


 誰もがスタート画面を開きログアウトボタンを探す。半透明の青いウインドウはプレイヤーをあざ笑うかのような濁った青さをしていて、冷や汗が全身から吹き出る。


『諸君の健闘を祈る』


 ゲームマスターの一方的なデスゲームスタート開始に、恐怖で押しつぶされた沈黙が包み、プレイヤーの不安が爆発した。


「無い、ログアウトボタンが無い!」「どうなってるの」「嘘だ、こんなの嘘だ」

 

 さっきまでの雰囲気は嘘のように悲鳴が沸き立つ。楽しいゲームが始まるなんて思っていたときがうそのように顔が恐怖にゆがみ、泣き崩れるプレイヤーもいる中……


「なんだってんだよ」


 俺も急いでスタート画面を開くとそこにはログアウトボタンがあった。


「ほぇ」


 自分でも分かるほど間の抜けた声が出てしまった。


「まさか……な」


 いやいやいや、何でログアウトボタンがあるんだ? 半透明の青いスタート画面のはしっこい歯きちんとログアウトボタンがあった。

 いや、待て俺。冷静になるんだ、冷静に……。ま、まずこんなの人に見られちゃまずいだろ!? 夏輝のことは心配だがひとまずここから離れよう。

 人目を避け町の路地裏へと行く、そこで恐る恐るそのボタンを押した。ポチ。


「何も起きないな……」


 特に何もおきない……? じゃあこれはただの飾りだった――うわっ!?

 しかししばらくするとログアウトしますと表示されあたりが暗くなった。


「なっ、いったいなんだよ」


 またしばらくするといつも見ているうちの天井が見えた。液晶越しの見慣れた天井。口と鼻以外の頭部をすっぽりと覆うようなゲーム機を脱ぐ。

 ためしに頬筒ねって見る。痛い。間違えようのない現実。じゃあ……さっきのゲームは?


「夢でも見てたのかな……」


 あまりに衝撃過ぎる出来事にもう何も考えたくなかった。そのまま目を閉じる今日はもう寝てしまおう。




「朝かな?」


 目覚まし時計は5時を示していた。


「昨日の一体なんだったんだろうか?」


 寝ぼけ眼でベッドの横においてあるテレビのリモコンを操作する。古いブラウン管から流れ出す光、そこには衝撃的な情報が映し出されていた。


『つまりそのゲームをした人はクリアーするまで目覚められないと』


『主催者が言うにはそうらしいです、警察や病院も動いてそのゲームをやった人を保護していますが、下手にゲームを取り外すわけにもいかず困りかねている状況です』


「嘘だろ」


 ゲームの名前、世界。設定。βテスト……見たことあるようなゲーム名がニュースチャンネルに映し出された。

 ジョクトラルオンライン、俺がやっていたゲームだ。そして俺は何の手違いかログアウトできて今現実にいる。


「夏輝はどうなったんだ」


 携帯電話を取り出し一之瀬夏輝を選択する、17回コールが鳴りコールが打ち消される。コール音の一つ一つの無機質な音が死神のあざ笑いに聞こえた。


「夏輝! 夏輝っ!!」


『どうも一之瀬夏輝です、ただいま電話に出られません、用事のある人はしばらくしてから架けるか……』


「くそっ」


 着替えるのも忘れて階段を駆け下り、自転車を走らせた。夏輝の家は1キロも離れていない。自転車が倒れたがそんなことにかまっていられない、一之瀬家のベルを鳴らす。


「はい、はい誰? こんな朝早く」


「おばさん夏輝はどうしてる?」


「良ちゃんか、まったくこんな早く来るなんて失礼だと思わないの?」


 おばさんの説教なんかどうでもいい、今重要なのは夏樹の安否だ。


「お邪魔するよ」


「ちょっと話はまだ……」


 怒っているおばさんを尻目に階段を駆け上がり夏輝の部屋へと向かう。


「夏輝!!」


 俺の不安は的中してしまった、夏輝は今このデスゲームをプレイしている。ゲームプレイのための専用の機会を頭からかぶり、ベッドに寝て規則的な呼吸をしている。一見ただ単に寝ているようにも見えるが、間違いなく彼女は死のゲームをプレイしていた。


「ちょっと良ちゃん……、夏輝がどうかしたの?」


「くそっ、嘘だろ、なあ夏輝答えろよ」


 ベットに横たわる夏輝を揺さぶる、しかし反応は無かった。夏輝は今静かに眠っている、こんなとき言うのは不謹慎かもしれないが綺麗だ、今にも起きだして「おはよう』と俺に言ってくれるそんな気がして仕方なかった。


「良ちゃん?」


「おばさん、病院か警察に電話して……」


「一体どうしたの?」


「いいからっ!」


 そういうと俺は一之瀬家を飛び出だした、倒れた自転車を起こし俺の家へ向かう。家の前には一台の車が止まっていて、そこには二人立っていた、誰か知らないが近づくと話しかけられた。


「君はこの家の人かい?」


「は、はい」


 二人は顔を見合わせるとそのうちの一人が俺に話しかけた。


「ここに坂本良って人はいるかい?」


 そして彼らが警察か病院の人物だと理解した。


「俺ですけど……」


「よかった、ログインしてなかったんだね」


 一人がほっとした顔で俺を見た。


「ニュースは見たかい? くれぐれもジョクトラルオンラインというゲームにログインしちゃいけないよ」


 そう言い残し彼らは急いで車に乗り込み行ってしまった。


「そうはいかないさ……」


 自分の部屋へと戻ると体が震えだし、吐き気すら覚えた。俺は望んでまたこの死のゲームへと入ろうとしているのだ。運よく一度はログアウトできたものの、もうこちらに戻ってこれる確証は無い、それを思うだけ俺のさっき立てた決意は揺らいでしまっている。


「だめだ、戻れ夏輝は今一人なんだ」


 自分に言い聞かせ震えを止めさせようとする、そして目を閉じて夏輝のことを考える。正義感を振りかざすつもりは無い、使命感でもない、単純に俺は夏輝が好きで守ってやりたいんだ。


「夏輝、……今行くぞ」


 電源を入れ、ログインを選択する。『ようこそ』とデスゲーム(あくま)は呟いた。


この小説はリレー小説として複数の作者によって書かれます。

詳しくは活動報告にて


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