-8-
(改)4/26
表示形式の変更に伴った改稿です。
「この部屋、好きに使っていいわよ」
二階の隅の個室――。
フローリングの床はワックスがかかっていて、綺麗に手入れがしてある。
正面にはくくられたカーテン、そして窓とベッド。
横の本棚には一昔前の漫画がビッシリと並んでいる。
テレビも小さいが置いてある。
もとは来客用の部屋だったようだ。
一通り部屋を見回したが、そのどれもが綺麗だった。
ただ、使ってないから綺麗という訳ではない。
使わなくても汚れていくし、ホコリは溜まる。だが、ホコリが見当たらない。
(姉貴、掃除してくれたのか……)
「なぁ姉貴……」
「うん?」
部屋を出る直前の姉が振り返る。
「いや……なんでもない」
顔を見ると何故か素直になれない。
そういうものなのだろうか……。
「ふーん」
姉は何事もなかったかのように怪訝そうな目で俺を睨んでから部屋を後にした。
こういう衝動的な感情の抵抗は、事のあとにつくづく後悔する。
分かってるのに、なおせない。
分かっているからこそ、余計に腹立たしかった。
◆◇◆
持ってきたトラベルバッグの荷物を片付けて、ベッドに寝転がった。
ザー――。
雨の音だけが絶え間なく聞こえる。
視界が悪くなるほどの雨量で、ここまで長期に渡って振り続けると洪水被害が出でもおかしくない。
でもテレビをつけても大雨の警報は出ていても洪水に関する警報や注意報は出ていない。
不思議なものだ。
ふと、窓の外に目をやった。
雨で滲む暗黒、家の横にある街灯もプリズムを通したかのように反射して視界を遮る。
窓の外の風景すら満足に見えないこの雨を見ると、ますます謎に感じる。
(考えても仕方ないけどな)
俺は再びベッドに寝転んだ。
枕元に置いた懐中時計で時刻を確認する。
二二時。
いつもなら寝るには早いが何かをするには遅い微妙な時間。
だが今日はどうも違うらしい。
疲労が溜まっていて身体が睡眠を欲しているのだろう。
仰向けの俺の背中がベッドに吸い込まれるような感覚に陥る。
それは意識までも。
寝るか――。
枕元のリモコンで電気を消した。
暗闇が支配したその空間で、何かを考える余裕すらない早さで意識は薄れていった。