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(改)4/26
表示形式の変更に伴った改稿です。
風呂上がり、ソファに腰を落としてから気付く。
慣れない環境と極度の疲労感から全身は重力にも負けそうだった。
この感覚は学生時代以来だった。
姉の家――。
閑静な住宅街の一角にある戸建てだ。
二階建てのこの家に姉は一人で住んでいる。
俺が彷徨っていた場所よりも奥まった場所だった。
(”家らへん”で分かるわけないだろ……)
今は姉の家だが、以前は父方の祖父母が住んでいたらしい。
十年前に祖父が亡くなったあと、祖母が一人で暮らしていた。
だが祖母も去年亡くなった。
そして空き家になったこの家を姉が仕事場から近いということで引き取ったという経緯だ。
新築、築五年なので内装もかなり綺麗な状態のままだ。
俺たち家族が住んでいた家に祖父や祖母が遊びに来ることはあったが、この雨音町にある祖父母の家に来たのは初めてだった。
よく考えてみれば変な話だが……。
「なぁ、姉貴」
「うん?」
キッチンで晩ご飯の支度をしていた姉が顔だけをのぞかせる。
「この町って、いつもこんなに雨降ってるのか?」
「いつもって訳ではないけど、去年の今頃は晴れているほうが珍しかったね。ちょうど梅雨だから」
「そうか……」
俺は落胆気味にテレビのリモコンを手にとって天気専門のチャンネルをつけた。
「……マジか」
――週間天気予報、全滅。
この地方は強い雨と傘のマークしかついてなかった。
今日浴び倒した雨のことを頭の中で回想するだけで鳥肌が立つ。
◆◇◆
晩ご飯はカレーライスだった。
どうも一人では三日あっても食べきれないから作れないんだとか。
「あんた久しぶりでしょ、私のご飯」
「まぁな」
「どうだった?」
どうだったって……。
少し考えてから口を開いた。
「カレーなんか不味く作るほうが難しいからな、普通に美味しいよ」
「………………」
姉の顔は次第に赤くなっていく。
今の俺にはこの表情がはっきりと分かる。
照れじゃない、怒りだった。
言い過ぎた……。
言ってから思ったが遅かった。
「悪い姉貴、言いす――」
瞬間、俺の額に鈍痛が走る。
「痛っ!」
テーブルの上に俺のではない、使用済みのスプーンが転がっていた。
どうやら姉の手に持っていた大きいスプーンが直撃したようだ。
「もう知らない! お風呂入ってくる!」
姉は怖い顔のままリビングを後にした。
容赦なさすぎ。
言葉を選んでこの状況だから、それは俺もか……。
やるせない気持ちに苛まれながら二人分のお皿を持ってキッチンに立った。






