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(改)4/26
表示形式の変更に伴った改稿です。
しばらく歩くと目の前に大きな橋が現れた。
桁橋と呼ばれる橋で、川にしっかりとたくましい脚をつけた種類だ。
人より高い遮蔽物は均等に立てられた街灯くらいしか存在しない。それは、イメージとしては開放的なのだ。
でも今は開放的なんてものは必要としていない。
雨さえ降らなければ。
どうせなら屋根の一つくらいつけてくれてもいいものだ。
橋を渡る。
姉のメールにはそう書いてあった。
橋の入口に交差点。
青信号になると俺は渡って橋の歩道を歩いた。
入り口に川と橋の名前が掘られている。
中瀬川と中瀬中央橋――。
なんの捻りもないシンプルな名前。
川の名前にはシンプルも複雑もないが……。
「………………」
無心に橋を渡る俺を時折、強い風が吹き付ける。
右から左へと流れる風に乗る雨は、ただでさえ強いのに更に暴力的になって俺に襲いかかる。
目も普通に開けられない。
(もうこれ、台風じゃないのか?)
今までビルやマンションの隙間を縫うような街で過ごしてきたから、あまり強風に見舞われることもなかったので誇張無しにそう感じてしまった。
◆◇◆
やっとのことで橋を渡り切ると戸建ての住宅地が見えてきた。
特別豪華というふうではないが、良い雰囲気があるのは確かだ。
「ここらへんか……?」
姉のメールの”家らへん”が指す場所。
ただ、家ばかりでどれが正解なのか分からない。
「一軒一軒表札見て回るか」
傘もささない男が家の表札を見て回るのは客観的に見なくても怪しい。
怪しすぎる……。
携帯で姉に電話なりメールなりするという手立てもあったが雨宿りが出来ない状況で携帯は出したくない。
軽く周りを見回してもコンビニすら見当たらない。
本当の住宅街だ。
ここにコンビニ出したら繁盛するだろうな――。
俺の脳裏を邪念がよぎる。
究極にどうでもいいことを考えられる自分を情けなく感じた。
「はぁ……」
道路の真ん中でため息をついて肩を落とした。
トントン。
落とした肩を更にはたき落とそうとする不届き者が背後にいる。
「ん?」
俺が振り返るとそこには見覚えのある顔が傘を持って立っていた。
長い黒髪、細い眉にシャープな眼差し。紛れもなく姉だった。
姉は俺の顔を見て笑顔で一言。
「あんたさぁ、いくらバカでもこれはバカすぎでしょ!」
雨なのに傘も差さずに人様の家の玄関前を徘徊する男への言葉だろう。
なんだか泣きたくなった――。