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(改)4/26
表示形式の変更に伴った改稿です。
14行目の表現を変更しました。
(内容に変更はありません)
4/30
セリフの調整を行いました。
(内容に変更はありません)
雨の音が耳を支配する。
商店街を抜けて、右側にマンションが規則正しく並ぶ場所に差し掛かった頃には駅周辺にはあった車の行き交いすらなくなっていた。
自分の呼吸と雨の音――。
俺は半分意地で走り続けていた。
天気もこのコンディションだから速いとは言えないが走り続ける。
(どれだけ遠いんだよ……これだったら迎えに――)
ドスッ
まったく何が起きたか分からなかった。
交差点にさしかかる直前、見晴らしが良いとは言えない角に差し掛かったところで一瞬暗転し、俺がアスファルトに尻もちをついて目の前に紺のスカートがある状況は考えられる範疇を超えていた。
だが、少しずつこの瞬間の出来事に思考回路が追いつく。
それと共に右の肩に鈍い痛みも現れ始めた。
「いててて……これは何の真似なんだよ」
「ご、ごめんなさい!」
顔を上げると傘も差さずに胸に学生鞄を抱きしめた少女が頭を下げて立っていた。
ただ、少女というには大きすぎる。
先程、商店街で見かけた学生と同じ服装だから女子学生なのだろう。
「いや、俺も走ってたからな。悪い」
俺は片膝に重心を乗せるようにして立ち上がった。
この女子学生は俺よりも小さく、俺の肩あたりしかないから一六〇センチもないだろう。
「私のほうが悪いんです。前、見てなかったから……」
「それで俺の肩に顔から突っ込んだのか」
「……」
何故か照れてうつむく女子学生。
「急がなくていいのか?」
俺の言葉にハッと口を左手でおさえた。分かりやすい仕草だ。
「あ、急がなくちゃ! 本当にごめんなさいっ!」
「あ、おい」
頭を再び下げて駆け出した女子学生を振り返って止めた。
「これ、持っていけよ」
手に持った開いたままの傘を差し出した。
「傘、なかったら濡れますよ?」
「もう濡れるところがないくらい濡れたし、またあんたが前を見ないで走って車とぶつかったら車が可哀想だろ?」
「うぅ、車の心配……。でも、いいんですか?」
少しだけ悲しい顔をして、すぐに申し訳なさそうな顔で俺を見つめていた。
濡れた茶色の髪は顔にペッタリとくっついているが、とても可愛らしい顔立ちをしている。
「ほら、急いでいるんだったらさっさと行けよ」
「ありがとうございます!
これはちゃんと返しますから!」
女子学生は俺の手から傘を受け取ると一礼して背を向けて走り出した。
(返さなくていいって)
心の中で呟いてから足元に転がったトラベルバッグの取っ手を掴み、立てた。
「――ん?」
トラベルバッグの下敷きになるように小さなクマの人形が落ちていた。
切れた金具がクマの人形の頭にあるところを見ると、ストラップなのだろう。
落し物?
もしかするとさっきの女子学生が落としたものかもしれない。
この酷い雨の中に置いとくのも気が引けたので拾い上げてポケットに突っ込んだ。
(また会ったら渡すか)
なんの接点もなかったがまた会うような気がした。
そこまで広くない田舎町だからだろうか。
そして、自分もまた歩き始めた。
もう走る気力も必要もなくなってしまったから歩く。
素直に雨に打たれながら歩き始めてふと思った。
俺、この町に嫌われているのかな……と。
わざと俺を怒らせようと雨が降っているんじゃないかと。