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RAIN  作者: シン=レッドウイング
6月13日(土)
18/68

-9-

どれくらい待っただろうか。

俺の汗も引いてきた頃に雨宮は顔を上げ、大きく息を吸った。


校門には茜里芸術専門学校と書かれている。

大きな校門は閉まっていて、端にある通用門だけが開いている。


「あかね……り?」


「せんり、だよ。校長先生がつけたんだってさ」

「そうなのか」

「うん」


雨宮はニコッと明るい笑顔を見せてくれた。


「それで、なんで学校なんだ?」


話の原点に戻る。

この学校に来た理由だ。まだ何をしにここに来たのかすら聞いてない。

そもそも俺と雨宮が立つこの校門は出入りがまったくなく、生徒はいないように感じる。


「会って欲しい人がいるからだよ。あと、返すものがあるから」

「傘はいらないぞ」

「えっ?」

「傘はお前にあげたからな」

「ううん、そんなの悪いよ」


雨宮は苦笑いして手を顔の前で振った。


「どうせ雨子は傘忘れるだろ。学校に置いとけ」

「雨子じゃないっ!」

「雨宮雨子だろ?」

「そんな名前の人いないよっ」

「いるぞ?」

「ふぇ?」


予想外の返答に雨宮は言葉にならない声で返事をした。

すかさず俺は目の前の姿に指を向ける。


バシッ!

俺の指は勢い良くはたき落とされた。雨宮はまた可愛らしい睨みつけの眼差しを向けている。

なんて返してやろうか……。


「睨んでるのか? 可愛いからやめとけ」


「う、うるさいっ! ……とにかく、学校に入るよ!」

雨宮は素早く背を向けるとスタスタと通用門を通った。


今なら逃げれるような気もする。

そもそも俺は傘を返されに来たわけでも、人に会いに来たわけでもない。

俺はここにいる必要性はない。


俺は……どうしようか。

少しずつ遠ざかる小さな背中。振り返ることもなく鼻歌を歌いながら校内を進んでゆく。


雨宮琴葉――。


まだ昨日会っただけの女子学生。

ぶつかって、落としたストラップを返しただけの関係。


なのに……。

足が自然と動いた。


「馬鹿。知らないところに置いていく奴がいるかよっ」


俺は雨宮の背中を追いかけて校内に踏み入れた。


こうした理由は分からない。

ただ雨宮琴葉という人物を知りたいと思っただけなのしれない。


紺の制服と揺れる茶色の髪の毛。

数歩後ろを追う俺にもシャンプーの甘い香りが漂ってきた。

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