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商店街を背に国道の交差点を渡る。
右には雨音駅が見えたが、どうやら駅の方向ではないようだ。
ひたすらまっすぐ進む雨宮、そして引っ張られる俺――。
何をしているんだろうか……。
考えるまでもなく情けなくて、打ちひしがれる。
今日の予定――。
気持ちの良い空の下、商店街に向かう。
そして求人誌を手に入れ、目ぼしい仕事を探す。そして電話。
たったこれだけの予定だったはずなんだが。
気持ちの良い空の下、橋で昨日ぶつかった雨宮を見つける。
もうこの時点で予定は狂っていたのだ。
たった一行の予定すら上手く行ってないのだ。
まあそこまでは良かったとしよう。
続きは雨宮に昨日拾ったストラップを返す。雨宮転がる。
下手な絵を鑑賞する。腕を引っ張られどこかに連れて行かれる。
そして今。まったく意味が分からない。
ただ憎いくらいに空は青く、気持ち良かった。
◆◇◆
国道から遠ざかり、少しばかり古い家が立ち並ぶ住宅街へとやってきた。
途中、網のフェンスに囲まれた小さな公園を見つけた。その公園は雑草に支配され、人の遊ぶ場所ではなくなっていた。
俺の帰る家がある住宅街とは同じ言葉だったとしてもまったく違う。
簡単に言えばノスタルジックなのだ。その街並み、空気感が。
まだ夏と呼ぶには程遠いがこれだけ走っていると汗も止まらない。
長袖を着てきたのが間違いだった。
それでも俺の腕を引っ張る雨宮はこちらを振り向くこともせず黙々と走り続けている。
何者なんだこいつは……。
喉が乾いて、声を出すのも躊躇う。
せめてどこに行くかだけでも教えてくれれば覚悟くらいは決めれたんだが――。
「ついたよっ」
雨宮は俺に絡ませた腕を開放すると、下を向いて自分の膝を支えるように立っていた。滴る汗が雨宮の状況を物語っている。
「ここは?」
俺は雨宮から目を離し、正面を見た。
老朽化の進んだ大きな建造物がそこにはあった。黒く塗られた鉄の門が閉まっている。
「ここは……学校か?」
雨宮は伏せたまま頷いた。
「なんで、学校?」
「えっと、ちょっと待って……」
息を整えるためだろう、俺に手のひらを向けて待ってという仕草を見せた。