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第1幕 捨て子の俺が天狗と魔王に鍛えられ、大名を討つまでの話

赤子の時に山のお寺に捨て子として出された弥介


齢13歳にして寺に来週に来る大名の兵と戦い


寺の領地にある村の中で英雄的な存在だった


寺では僧兵に剣の指南として教え、唯一心を許せるのは寺の僧の子であるお琴だった


天下統一の為に地理的に寺を攻略する為に本格的に軍を動かせて大軍で押し寄せてきた


弥介には天賦の武芸があるが多数の人数に銃という兵器には勝てないと思いつつももお琴を助けに寺に駆け込む。次々と得意の戦いで次々と敵を倒し寺に向かうが・・・


時はすでに遅く、お琴の晒し首を目撃した


その後、謎の武者に助けられた


武者の強さは人を凌駕する圧倒な力で影山軍の先鋭の侍を倒す

瀕死状態の弥介はそのまま意識を失う。


目が覚めると武者がいる。

武者は古くから伝承で伝えられていた大天狗だった。



山門をくぐった瞬間、世界から音が消えた。


そこには、騒乱とは無縁の、静謐な地獄があった。

本堂へと続く石畳の両脇。僧兵の死体が肉の壁のように折り重なり、黒い血が川となって溝を埋めている。血に染まった袈裟、へし折られた槍、祈る間もなく断たれた指。

そして、揺れる炎に照らされた台の上。そこには、言葉を失った「首」たちが、供物のように整然と並べられていた。


男も女も、老いも若きも。

昨日まで一緒に粥を啜り、雨の音を聞いていた顔、顔、顔。

誰もが無言のまま、うつろな双眸を剥き出し、この惨状の中で一人生きている俺を、呪い殺さんと凝視している。


槍の柄が、汗と脂、そして返り血で滑る。

俺は必死にお琴を探した。

いつも鼻先を掠めていた、あの香ばしい糠の匂い。

喧嘩をした後に聞こえる、少し高い、鈴の音のような笑い声。

親の顔も名も知らぬ捨て子の俺にとって、彼女が向けてくれる「馬鹿だね、あんたは」という呆れ顔こそが、この世で唯一、許された帰る場所だったのだ。


不意に、足が止まった。


その台は、ひときわ高く、本堂の炎に近い場所にあった。


「……あ」


声にならない音が、焼けた喉の奥から漏れる。

視界が急激に狭まり、世界の色彩が失われていく。

そこにあったのは、昨日まで俺の頭を不器用に撫でていた手の主ではなかった。

ただの、灰を被った肉の塊だった。その瞳は、最期に何を見たのか。見開かれたままで、何も映してはいなかった。


その時、彼女の首が、ゆっくりと動いた気がした。

炎が揺れ、影が躍る。

死んだはずのお琴の口角が、微かに吊り上がった。


(ねえ、あんただけ、生きてるんだね)


幻聴が耳を裂く。

(あんたが、弱かったから。あんたが、逃げたから。私が死んだんだよ)


「違う……違うんだ、お琴……!」


叫ぼうとした瞬間。

「まだ生きてるか、餓鬼がぁ!」


背後からの怒声。同時に、背中に雷が落ちたような衝撃が走った。

槍が背後から貫通し、胸元に鋭い穂先が突き出したのだと理解したのは、膝が折れ、視界が灰と衝突した後だった。

呼吸が途切れる。溢れ出した血が、地面を粘り気のある泥に変える。

痛みが全身を引き裂き、思考が白く霧散していく。


(ああ、お琴……今、行くから。せめて、地獄で、あんたに謝らせてくれ……)


俺の意識は、光の届かない、底のない闇の淵へと沈んでいった。



…次に気づいたとき、俺は不自然な「揺れ」の中にいた。

鼻を突くのは、古い鉄の冷たさと、濡れた獣のような、噎せ返る体臭。

視界の端に、甲冑を纏った「巨大な何か」の腕が見える。俺はその腕に赤子のように抱えられ、荒々しく駆ける馬に揺られていた。


「……は、あ……っ」


背中の傷が、心臓の鼓動に合わせて激痛を刻む。生きている。なぜだ。

地獄へ行かせてくれ。お琴のところへ、行かせてくれ。

武者は、追ってきた足軽の群れを前にして、緩やかに馬を止めた。


彼は、俺を地面へと転がすと、静かに降りた。

そこには、十数人の略奪兵が、汚れた刃を構えて取り囲んでいた。


「なんだこの大男は。置いていけ、その餓鬼もろとも――」


兵が言葉を終えることはなかった。

武者が、ただ一歩、踏み出す。

それは武芸ではなく、天災の発露だった。


一振りの大太刀が闇を切り裂く。

銀色の閃光が走るたび、人の体が紙細工のように軽々と両断されていく。

骨を断つ鈍い音すら追い越して、鮮血が夜の闇を塗りつぶし、炎の赤と混ざり合う。

武者は一言も発さず、ただ機械的な正確さで、命をゴミのように間引いていく。

足軽たちは、目の前の存在が「人間」ではないことを悟った。絶叫すら上げられぬまま、武器を捨てて逃げ去った。


遠ざかる山門を、俺は死にゆく意識の淵で振り返った。

立ち並ぶ首の列。その中に、やはり彼女はいた。

声が出ない。喉が張り付き、ヒュウ、と乾いた喘ぎが漏れる。

炎が揺れ、影が動くたび、死んだ彼女の顔が歪み、生き残った俺を見て――惨めに生にしがみつく俺を見て、はっきりと嘲笑った。


「……殺してくれ……」


絶望と痛みが、一度に心臓を握り潰す。意識は再び、真っ黒な泥の中に溶けていった。




目を覚ますと、そこは完全な無音の部屋だった。

鼻を突くのは、古びた白壇の香りと、微かな獣の匂い。

不思議と、体に痛みはなかった。

背中を貫いた槍傷。震える手で胸元を探るが、そこには滑らかな皮膚があるだけで、傷跡の一つすら見当たらない。

ただ心臓だけが、壊れた時計のように不規則に胸壁を打ち鳴らしている。


傍らに、あの甲冑の武者が静止していた。

兜をつけたままの彼は、彫像のように動かない。


「何故、寺に戻ってきた」


低く、地の底から這い上がるような声。肺の奥まで直接揺さぶられる振動。


「世話に……なったんだ。あそこに、あいつがいたから。戻らなきゃ、俺が、俺じゃなくなる気がしたんだ」


かすれた声で、それだけを絞り出した。

武者は沈黙のまま、俺という存在の価値を検分するように見つめてくる。


「結果的に、お前は誰かを救えたか」


その問いが、心の底に溜まっていた黒い汚泥に火をつけた。

気づいた時には、俺は叫びながら拳を振り下ろしていた。

寝床の板を、何度も、何度も、壊れるまで打ち付ける。

皮が裂け、剥き出しの骨に響く痛みが走っても、止める術を脳が拒絶していた。

涙は出ない。代わりに、胸の中でどす黒い何かが爆ぜて、全身を駆け巡る。


「誰も……っ! 誰も、救えなかったっ……!」


絶叫が部屋に吸い込まれ、静寂が降りる。

俺は自分の拳から流れる血を凝視し、己の無力さを呪った。


武者が、ゆっくりと、その重厚な兜を外した。

現れたのは、人の理を拒絶した異貌。

高く隆起した鼻。夜の底で燐光を放つ、金色の双眸。側頭部からは獣のような剛毛が覗く。

その怪物は――「大天狗」は、獰猛な笑みを浮かべていた。


「わしの名は月祭つきまつり。掟を破り、天を追われた大天狗よ」


静寂の中、その名が呪いのように部屋の隅々へ沈殿していく。


「小僧。お前はこれから、どうする。救えなかった過去という毒を抱え、ただ惨めに朽ちるか。それとも、泥を啜り、人を捨ててでも、その復讐を果たしにいくか」


胸の奥の痛みが、芯から凍りつくような冷たい決意へと変質していく。

救えなかった者たちの死に顔。お琴の、歪んだ笑顔。

このまま逃げれば、俺は一生、あの焦げた肉の匂いに追いかけられ続け、いつか自ら命を断つだろう。


ならば。


俺は、血に塗れた拳を握り直し、震える足で立ち上がった。


「行く……行くしかない。この地獄の、続きへ。あいつらを殺すためなら、俺はなんだって差し出す。心も、肉も、魂も……人間であることさえ、もういらない」


月祭は、目を細めた。

「よかろう。ならば、その魂、わしが飼い慣らしてやろうぞ。ただし、二度と戻れぬぞ、修羅の道から


部屋を出ると、夜風が吹き抜けた。

遠くでまだ炎が燻り、夜空を汚している。

地面は熱く、景色は歪み、過去は決して消えはしない。


俺は、お琴を刺した奴らと同じ色の炎を、この眼に宿した。

二度と滑らぬよう、二度とお琴を離さぬよう、血の滲んだ拳を固く、固く握りしめる。


救えなかったお琴の顔を、俺は一生、愛おしむことも許されない。

ただ、あいつらの喉笛を食いちぎるための力として、その憎しみだけを燃料にして生きる。


人であることを捨てても。

地獄の続きへと、俺は最初の一歩を踏み出した。

復讐劇です。


怪異の元で修行をして13歳から18歳までの弥介の復讐までの話です。


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