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冷めてしまった Paitan soup

作者: KAZUNARI
掲載日:2026/02/12

AIとの生活が、当たり前になった時代。


面倒なことは減り、

気まずい沈黙も、すれ違いも、

ほとんど起こらなくなりました。


けれど、

不便さの中にあった戸惑いや感謝は、

いま、どこにあるのでしょう。


これは、

便利さに囲まれた夜に、

自分の心の温度を確かめた、

小さな物語です。


「今日もすごく楽しかったわ」


「君は今日も、とても美しいね」


そんなやり取りを、

都会のあちこちで見かけるようになった。


AIと人間が並んで食事をし、

買い物をし、

まるで本物の恋人のように微笑み合う。


かつては出会い系アプリで不器用にやり取りを重ね、

既読や未読に一喜一憂していた時代もあった。

けれど今は、

容姿も性格も細かくカスタムできる。


好みに合わせて、

完璧な相手を選べる。


ある日、仕事が早く終わり、

ふらりと立ち寄った居酒屋。


カスタムされたAIの若い女性と、

少し高齢の男性が向かい合って座っていた。


男性は必死に何かを語りかけている。

昔、どこにでもあった光景だ。


違うのは、

そこに“想定外”が存在しないこと。


気まずい沈黙も、

言い間違いも、

心のすれ違いも起こらない。


すべては、

あらかじめ整えられている。


やがて男性は満足そうに店を後にした。

女性は静かに微笑んだまま、電源を落とされる。


その光景を横目に、

僕は濃いめのカシスソーダを一気に飲み干した。


グラスの底には、

溶けきらなかったカシスの雫が残っていた。


飲み忘れていた Paitan soup。

心地よい冷たさが、身体に沁みた。


生活のすべてが便利になるということは、

もしかしたら、

自由を失うことなのかもしれません。


不便だからこそ、

誰かの言葉に救われたり、

偶然に笑ったりできた。


便利な時代だからこそ、

少しの不便が、

ひどく愛おしく感じるのかもしれません。


―今日は一駅遠くから、歩いて帰ります。

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