混色
三限で授業終わって、スタジオに一直線。
私が一番乗りみたいだ。
奏さんは仕事だから17時過ぎみたいだし、四季くんは四限だからそれまで歌詞でも書こう
四季くんと楽曲のために恋愛ごっこという名の共犯関係を始めたわけだけど、歌詞となって結果が残らなければ意味が無い。
今回のこと、フレーズにしよう
そう思いながら歌詞を書き進める
「ここなんかの比喩表現使いたいな…」
そんな独り言を口にした時、スタジオの外から大きな声がする
何か…喧嘩してる?
そっとドアを開くと、黒髪の大学生くらいの女の子がいた
肌白い…
「ちょっと待ってって、さくら!さくらまで居なくなったら、私一人…」
「るりはさ、誰の味方だったの?」
「え?」
「誰にもつかずに、中立を守って、卑怯だよ。みんなにいい顔して、八方美人っていうかさ、」
その後に続く言葉の前にさくらと呼ばれた少女はハッとして言うのを辞めた
「…とにかく私辞めるから」
「そんな…」
解散現場…?これ、見てはいけなかったのでは…そっとドアを閉じようとすると、振り向いたその子と目が合う
「!」
「あ…うるさかったよね…ごめんなさい」
「い、いえこちらこそ盗み聞きしちゃって、ごめんなさい…」
「いやいやこんな大声で話してちゃ、誰でも気になっちゃうよ。あなたは悪くない」
そう言った彼女の目は真っ直ぐで、私が吸い込まれそうだった
「貴方もバンドやってるの?」
私の手にある歌詞ノートに彼女は目をやった
「はい、まだ始めたばかりでバンドメンバー募集中なんですけど」
「そっか、フレッシュでいいね。私たちは3年目だったんだけど…だけど…」
目を伏せて堪えているようにみえた
「なんでみんな辞めてくのよーっ!うわああああああああああん」
「!?」
堪えていた感情が一気に溢れ出したのか、人目もはばからず号泣する
「え、えっと、あの」
こういう時ってなんて声かけてあげればいいの…!?どうしよう、どうしよう
「花恋?と…瑠璃?なんで」
四限終わりの四季は目を見開いて、困惑しているようだった
「え?知り合い?」
まさか女遊び系の人か…?修羅場になる…?
「なるほど、奏さんと四季くんと瑠璃さんは幼なじみなんだ、修羅場になるかと思ったよ」
ホッと息をつく
「まぁ…幼なじみって言っても小学校からだけどな、高校もバラバラだったし、奏も瑠璃も歳は違うから兄姉みたいな感じなんだよ」
「うぅ…泣いてるとこ見られたの最悪…」
「ちょっと落ち着きました?」
まだ買ったばかりの冷たい水を差し出す
喉にはよくないだろうが、今は心を落ち着かせることが大事だ
「水を飲むと自律神経のバランスが整うんですよ」
「…よく知ってるね…」
ハンカチに顔を押さえつけながら瑠璃は言った
「はぁ…これからどうしよう…今度の対バンイベント、ライブハウス抑えちゃったし…」
「あー…それなんだけどさ、瑠璃が良かったら俺らのバンドに入ったら?」
「は?」
「さっきも言ったと思うんですけど、私たちバンドメンバー募集してるんで、瑠璃さんさえ良ければ」
「いやいやいや、四季がいるバンドなんて毎回ろくな事にならないんだから!何度私があんたの尻拭いさせられたか!」
「大丈夫ですよ。私、そういうの気にしないので」
真っ直ぐに瑠璃さんを見つめた
「…やめとく」
狼狽えるように私から視線を逸らした
「今、私が解散したばっかの一人のドラムで、花恋ちゃんと四季に都合が良かったからでしょ。」
正直図星だった。でも理由はそれだけじゃない。
「…そうですけど、それだけじゃないです」
「そうやって、私はずっと都合のいい人をやってきたんだから」
彼女は遠くを見ていた、どうすれば彼女を引き止められるだろう
「じゃあ今度は、四季くんの尻拭いじゃなくて、私の手綱を握ってくれませんか?」
「は?」
「私が壊れたら、このバンドは終わります」
彼女の手にあったハンカチはくしゃくしゃになっていた
「だから、私のことをちゃんと見張ってくれる人が欲しいんです」
「都合のいい人じゃなくて、必要なんです、瑠璃さんが」
「お願いします。私たちのバンドに入ってくれませんか。」
頭を下げる、アイドルを辞めた時と同じだ。でも前と違うのは前よりも前進しているということだった。
「必要だって言われたのは、初めてかも」
そう言って瑠璃さんは笑っていた
「いいよ、その代わりもう四季の尻拭いはしない。花恋ちゃんをちゃんと見張って、危なそうだったら崖から引っ張ってくる」
「俺が言うのも変だけど、花恋は危ういから」
瑠璃キッと四季を睨む
「ほんとにね!」
四季の背中を思いっきりビンタする
「じゃあ瑠璃さん加入決定ですね!」
「さっそく奏さんにも言わなくちゃ」
花恋はスマホを取り出す
「えっ!?奏!?奏もこのバンドにいるの!?」
驚いた瑠璃の肌白い肌は赤に染まっていく
「…え?」
あの時、私は覚悟を決めたのだ。私は四季くんに歌詞のために利用されて、四季くんは音楽のために私を利用する。救いか破滅か。この共犯関係は瑠璃さんの加入によって、どちらに向かうのだろう。




