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スタジオのドアを開けた瞬間、

「あ、大人だ」って思った。


空気が違うとか、威圧感があるとかじゃなくて、逃げ道を知ってる人の顔


「久しぶり、四季」


その人はギターケースを足元に置いたまま、

気だるそうに手を上げた。


「で、例の子?」


視線が、私に向く。


品定め、じゃない。

そういう目は何度も向けられてきたけど、これはそういうのじゃない。嫌な感じがしない。


「久石花恋です」


「五十嵐奏。よろしくな」


奏さんは一瞬だけ眉を上げて、

それから小さく笑った。


「さん付けなんだ」


「年上ですよね?」


「まあな」


軽く頷いてから、

私じゃなく四季くんを見る。


「で」


低い声。

睨みつけている


「この子、どういうつもり?」


胸の奥が、少しだけざわついた。


ああ


最初から、私を案件として見てない


こういうこと、やっぱ多いんだろうな


四季くんは肩をすくめる。


「うちの歌詞担当」


「わかった、わかった」

深くため息をつく


「四季が女の子連れてくるのって何気に初めてなんだけど、どういうつもりだよ?」


今度は私を見る。


「じゃあ聞くけど」


真っ直ぐな目


「音楽、失ったらどうする?」


少し考えた。


でも、正解を探す気はなかった。


「……たぶん」


一度、息を吸う。


「また、生きる理由を失うと思う」


四季くんが、少しだけこちらを見る。


私は続けた。


「でも、アイドルを辞めてからまた、別の音楽を始めて、今はそれだけでいいかなって」


「へえ、元アイドルなんだ。だからこんな美人を四季が…へー…」


「俺がいつも美人連れてないみたいじゃん」


奏さんは、ギターケースに手を置いた。


「怖くない?」


「怖いです」


即答。


「でも」


四季くんを見て、それから奏さんを見る。


「クズって分かってる人の方が、割り切れるのかなって思って」


沈黙。


スタジオの空気が、少しだけ張る。


奏さんは、深く息を吐いた。


「……四季」


「なに」


一瞬、視線だけで殴る。


「この子、危ういよ」


四季くんが、笑った。


「でしょ」


自分でもそれが分かってたけど、それが腹立たしかった。


「四季くん」


呼ぶと、すぐこっちを見る。


「私、音楽のために利用されるんだからね」


「分かってるよ」


「ほんとに?」


「多分」


「多分かあ」


奏さんが、ふっと笑った。


「いいな」


「え?」


「その距離感」


そう言って、ドラムスティックを取り出す


「……タメでいいぞ」


その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。


四季くんと思わず目を合わせ笑い合う


選ばれた


でもそれ以上に、見透かされた


それでも、私は逃げなかった。


だって、このバンド

きっと、優しい場所じゃない

でも四季くんの音で、私の言葉が鳴るならそれでいい。


「よろしくね、奏さん」


 そう言うと、

 奏さんは少し困った顔で笑った。


「……後悔すんなよ」


「するかも」


 私は笑う。


「でも、その時は歌詞にしてもらうから」


四季くんが、楽しそうに言った。


「うわ、最悪」


「でしょ」


でも、その“最悪”が、今は少しだけ、楽しみだった。



奏さんとスタジオを出たのは、少しだけ早い時間。四季くんは用事があるとの事で、二人で歌詞を練っていた。


頭がいっぱいで、これ以上四季くんのことを考えて書いたら、雑音でさえ書いてしまいそうだったから。


駅前の居酒屋通り。


騒がしくて、

楽しそうで、

私には縁がないと思ってた場所。


そこで四季くんをみた。


女の子と二人。


 近い距離。

 …ああ、これ遊んでる時の顔だ


「花恋、四季はああいうやつだからわかってて、近づいたなら、被害者面はするなよ」


「…わかってる」


胸の奥が、

きゅっと縮む。


(そういう人だって、知ってたけど、思ってたよりダメージ入るな…)


(これ以上、見たくない)


「…私、期待…してたんだな…」


「人間、誰しも人には期待するもんだからな」


四季くんの歌に、四季くんに救われて、わかってたのにきっと心のどこかで期待していた


こんなんじゃダメだ、搾取だけされてたら、私たちの共犯関係は成り立たなくなる。利用されて、私も利用するんだ、四季くんを、私が、私がもっと食らいついていかなきゃ


そんなことを考えていたら、頭にポンと手がのせられる

「無理だけはするなよ」

「…ありがとうございます」

街灯やお店の光で星の見えない夜空に向かって息を吸う

「よし!これも歌詞にするぞー!!」

「メンタル強…」


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