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発掘馬鹿ヴァシリウスは面倒事を嫌う――その二

ヴァシリウスはようやく契約妻を奥様部屋から屋敷へ出すことに成功します。

奥様部屋は夜中も明るい。


キャンドルなんてもうなくなっているはずなのに。

それに、あんなに真っ白い光は見たことがない。

試しにキャンドルセット一箱をメモと一緒に扉の外に置いたら、なぜかエントランスにそのまま移動していた。

妻に差し入れしようとしても無駄なのだ。


(妻が生きているのか死んでいるのか、全然分からない……)


心配になって扉に手を掛けると、いつの間にか細い針金が巡らされていた。

触った途端、ピリピリッと手が痺れた。


(な、何だコレ!??)


もう一度窓から侵入を試みたら、全身を雷で撃たれた。死ぬかと思った。


ますます不安になった俺は、時々奥様部屋の扉から中の音を聞くようになった。

グワーッという、男たちが怒鳴っているような音楽が、かすかに聞こえてくる。

妖精の楽団でもいるんだろうか。


契約妻の謎は深まるばかり。



ある夜、夜空まで上がる眩しい光が屋敷から上がった。あれだけの明るさは奥様部屋からとしか思えない。


(何だったんだろう?)


連日のフィールドワークで疲れていた俺は、そのまま寝入った。奇妙な現象があったとしてもいつものことだから、もはや気にしなかったのだ。

ホワイト家の屋敷では、いつの間にか奥様部屋の怪奇現象が当たり前になり、接近禁止令が出ていた。


ところが翌日、王室調査団がゾロゾロと我が家にやって来た。


「何か?」

「伯爵様の屋敷に聖女様はいらっしゃいませんか?」

「いないよ」

「少々調べてもよろしいでしょうか?」

「なぜ?」

「真夜中に、この屋敷から聖なる光が発せられたのです!」

「そんな事は知らないし、聖女なんていないよ」


その時食堂から走って来る音がした。

「はい、それはわたしです!」

どこから聞いたのか、未だに屋敷に居座るバツイチ娘が調査団の前に現れた。

「あなたが聖女様ですか?」

「そうよ!」

さすがは嘘つきリリィ。どこからそんな自信が出てくるんだろう。


だが待てよ?


嘘がバレれば、嘘つきリリィは調査団からお咎めがあるだろうし、そうなったら屋敷にはいられないだろう。


――俺の屋敷に聖女がいるとしたら、たぶんアレだ、契約妻で幼な妻のノア。


(面倒だから調査団には黙っておくか……)


二日後、調査団の質問と身体検査を受けたバツイチ娘の嘘がバレ、俺と母が首都の調査室に呼ばれた。


当たり前だ、恥ずかしい奴。

聖女になってどうするつもりだったんだ。


「あなたは王室調査団に虚偽の説明をしたのだから、ここで大人しく罪をつぐないなさい。一週間の身柄の拘束を言い渡されている」

「そ、そんなつもりじゃなかったの……」

「ヴァシー、どうしてそんな意地悪するの? リリィが可哀想でしょう? 何とかならないの?」

「母上、そういう訳にはいきません。リリィは王室調査団に嘘をついたんですよ。俺が当主である限り、俺の指示に従ってください」

「身柄拘束なんて……わたし……」

「拘束が解けたら再婚先を紹介しよう」

「ヴァシー!」

「そんな……」


うるさい二人を黙らせ、その後バツイチ娘は強制的に引退地主の後妻にあてがい、屋敷を出てもらった。

ついでに母は領地外の別荘に閉じ込めた。


これで俺は晴れて自由だ、イぇ~い!!


思ったよりも早く二人を追い出すことができた。契約妻の影響力は偉大だった。


問題は、二度しか会った事がない俺の契約……幼な妻……をどうするか。


(今のところお互い自由に生活できそうだし……心配は尽きないが……)



契約妻と会うのは年一回、扉が開く契約更新日のみ。


一年後……。

「契約更新だが……」

「了解です!」


最初の契約では、期間は二年間だった。できればこのまましらばっくれて継続しよう。新しく契約を結ぶのなら、二年間という項目だけは削らなければならない。


二年後……。

「契約更新……」

「了解!」

どうやら契約期間を忘れられていたようだ。ならいいか。


もう契約も必要ないかな。

しかし契約更新をしなければ、幼な妻に会うことができない。この扉が開くのは結婚記念日で契約更新日だけなのだから。


いい加減俺の妻が何をしているのか知ったほうがいいかもしれない。

閉ざされた部屋といい、謎の発光現象といい、服や食事の拒否といい、謎が多すぎる。

しかも、これまで妻は伯爵家の金を使ったことがないのだ。

妻へのお小遣いはたまる一方だ。


もはや存在自体が幻である。



「王室調査団です。聖女様の件で……」


忘れた頃に調査団がやって来た。

「まだ調査しているんですか?」

「全国を回って調べましたが、謎の発光現象はこの屋敷からとしか考えられないのです。テリア家も当てはまりましたが、ホワイト家の方がより強いのです」


たぶん角部屋を占拠して長年立て籠もっている俺の妻のことだろう。

だが扉は開かないし、夫の俺でさえ妻と会えるわけではない。会えるのは年一回、契約更新日だけだ。その日だけはこの扉が開く。


それなのに、何の接点もないお前らが会えるわけないだろうが!


フフフ、ハハハハッ、ハーッハーッハッ、バカめ!


「……今迄黙っていましたが、実は聖女とは妻のことなのです」

「な、なんとっ!! やはりそうでしたか!! それならなぜ今になって!」

「聖女である妻は自室に籠もり、日々国の安寧を祈っているのです」

「ぜひ首都の大寺院にお連れし、国民の前で大々的に祈っていただけませんか! 長年忘れ去られていた新嘗祭を復活させましょう!」

「……できません!」

「なぜ!?」

「妻の心の平和を乱すと、聖女の力が消えてしまうからです」

「一度だけでもいいのです! 国の平和……なんなら世界平和のために!」

「申し訳ありません、無理です。では!」


俺は調査団を拒否した。

あの危険な部屋に近付ける訳にはいかない。あの扉と窓に触れたら死者が出るかもしれない。

それに、幼な妻をそんな大層な祭事に引っ張り回すなんて、とんでもない!


その代わり、調査団を納得させるため、敷地内に寺院を建てることにした。そのための補助金も国からゲットした。

しかも、ホワイト家は伯爵家から侯爵家にアップグレードした。


聖女(契約妻・幼な妻)パワー凄すぎ!


首都の寺院本部からは、『聖職者を派遣しますので、寺院で毎朝祈祷して下さい』という課題を課せられたが。

これで表向き聖女が寺院で祈っている風にはなるだろうし、これ以上王室調査団に悩まされることもない。


謎は解けていないがな!



コンコン……。


俺はモップで危険な扉を叩いた。これを素手で触ると全身に震えがくるのだ。

何という危険な聖女なのか!


今日は三回目の契約更新日。

ノアと結婚してからもう三年も過ぎている。しかし会えたのは数回だけ。

寺院はもうすぐ出来上がるから、今回は新しい項目を増やし、妻をここから出すのだ!

子供のことは……様子見かな。


新たな契約内容は、

・毎朝寺院で祈りを捧げる

・契約は年一回の更新、更新日は結婚記念日


余計な内容は入れないことにした。


(今度こそ、立て籠もりを止めさせなければ……)


コンコン……。


何度か叩いたのに、扉が開かない。今までこんなことはなかったのに。

幼な妻に何かあったんだろうか。

あぁ心配だ。


「どなたですか?」


妻の声がした。バンザイ、まだ生きていた。ほっとした。


扉越しに俺の妻と会話をする。

妻の声は超可愛いのだ。結婚して三年経ったといっても、俺の妻はまだ二十一歳だからな。


「ノア、俺だ。ちょっといいかな」

「何ですの、旦那様」

「……ヴァシリウスという名前がある」

「相変わらずカッコいい名前。ゲームのモンスターみたい、ヘビだけど」

「……王室調査団があなたを聖女に認定した」

「まあぁ、わたし聖女なんですの!? カッコいい!」

「……それで、敷地内に寺院を建てたから、毎朝祈祷をしてほしい。聖職者が派遣される事になったから……」

「勝手な事をしましたね、旦那様……はぁ……面倒……」

「ということで、契約内容に『毎朝寺院で祈りを捧げる』という項目を増やしたい」

「あっ、忘れてました、契約更新日でしたね! でもそれ超面倒……わたしには何のメリットもありません。むしろ、早起きをしなければならないというデメリットしかありません。断固拒否! 断固拒否!」


そんなに強く拒否しなくても……。


「……代わりに好きなものをプレゼントしよう。何がいいかな? 可愛いドレス? 高価なアクセサリー? お人形セット?」

「えっ、いいんですか!? じゃ、じゃぁ、高級チョコレートを毎日、寺院で週一の豪華アフタヌーンティーも!」

「分かった。新たな契約に盛り込もう。それに、祈祷に対する謝礼も出るらしいよ」

「ヤッター!!」

「……では、新しい契約書に署名を」

「りょ!」


スーッと扉が開いた。


一年ぶりに見る、光の中で破顔した俺の妻が神々しい。

しかも、依然として初々しい幼な妻だった。

次回でとりあえず完結です。

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